#35ブラックミノタウロス
南門には初めて来たが、東門と造りは同じだった。聞くところによると北門が正門で正門はかなり大きく豪華に造られるようだ。正門はウルカ王宮のあるセントラルに向けて建てられるため、何処の街も王宮側を正門として豪華に造るそうだ。
俺と銀音は他の討伐チームを見送ったあと、南門の守衛小屋で待機することになった。最高戦力のBランクチームの方は心配いらないとして、残りが心配ではあるな。このまま何も無く終わればいいのだが…。見送って数十分がたった頃だろうか?銀音が徐ろに席を立ち窓の前へと移動した。
「タクミ様。ブラックウルフ達の遠吠えが聞こえます。………この感じは東門近くのミノタウロスに関しての様です」
「一応、東門の近くに使役しているブラックウルフ達を潜ませているのは伝えてあるし、ミノタウロスを発見できたのなら大丈夫じゃないか?他に情報はわかる?」
「ーーー真意迄は掴めませんがどうやら緊急事態になっているようですね…」
「えっ?それってどういうーーー」
俺が状況を聞こうとした時に、守衛小屋の扉が勢いよく開き衛兵が飛び込んできた。
「コウダさんはいらっしゃいますか!?」
「おっ俺ですが?」
「北東に居たミノタウロスの討伐を行っているチームから緊急を報せる信号弾が打ち上がりました!直ちに応援へ向かってください!!」
なんてこった。最高戦力であるBランクチームがまさかの救援要請。そう考えると騎士団とCランクパティーの方も心配になってくるが、全てから救援要請が来てしまったらどうしようもない。しかし、場所的にはBランクチームが1番遠かったし戦闘が早く始まっている南門側からは救援要請も無かったので上手くやれているのだろう。つまりBランクチームがあたっている様子のおかしな個体がそれだけの強敵だったということだ。
「タクミ様、城壁へとあがりましょう。私が身体強化と風魔法で最短距離を行きます」
「了解!それで頼むよ」
階段を素早くあがり城壁の上へと到着する。外敵に備える為見通しがかなりいい。こんな時でなければ景色を楽しめるのにな。北東の方にまだ微かに救援要請に使われたであろう信号弾の赤い煙が漂っていた。
……よく考えたらどうやって最短距離を行くのだろうか?俺はまだ身体強化は出来ないぞ?
銀音は俺をそのままお姫様抱っこして、城壁を走り出した。体感速度だけど軽く時速80kmは出てそう。バイクに乗った時100km/hで走行した感覚だ。どこで、そんな速度を出したかは言えないけども……。
恥ずかしいのは一瞬で、あまりの速度で恐怖の方が上回る。流石に声だけは出さまいと、口を力強く噛み締める。
「そろそろ煙の見えた近くなので城壁を一気に降ります」
「え!?ちょっ!降りるってどうやっ、てぇ~~~!!!」
銀音は城壁から飛び降りる。浮遊感がどんどん増していき、その後ゆっくりと着地する。ジェットコースター系は苦手なんだよ……。
そこから更に歩みを進め、何やら人の叫び声が聞こえてきた。流石にこのまま登場するのは恥ずかしいので、近くで降ろして貰って、一呼吸してから自分の足で現場へ向かう。
到着した戦場では冒険者達がミノタウロスに魔法や投擲武器で遠距離攻撃を仕掛けていた。俺たちが倒したミノタウロスは茶色の体毛であったが、そこの個体は漆黒であった。冒険者たちの攻撃はどれもかすり傷すら負わす事すら出来ておらず、足止めの土魔法?で沼地に変えてもパワープレイで沼地から脱出されたりしている。服装からして前衛だろうか?3人は戦闘不能になっていた。その中には会議の時に俺にいちゃもんつけてきた人も居た。
「コウダさん!こんなに早く駆けつけてくれるなんて…ありがとうございます!」
「無駄話話にしてやつを倒す為に連携しましょう。なにか有力な攻撃はありましたか?」
「いえ、今の所は有効打はありません。見ての通り前衛の3人がやられ、他にも既に肩代わりの魔導具を使い切ってしまった者も居ます。特に厄介なのが奴の土魔法ストーンブラススト。初級魔法の筈ですが中級並みの威力があります。そのせいで近付くことも出来ずこうやって遠距離攻撃のみでしか対応できないのです」
ストーンブラストは複数の礫を勢いよく飛ばす魔法らしい。しかし、あのミノタウロスは初級魔法なのに礫所ではなくコンクリートブロック大の岩を飛ばしてくる。あんなのが体のどこかに当たるだけで大惨事だ。やたら石の多いところだと思ったらあいつの攻撃だったのか。
「まずは私が攻撃を仕掛けてみます。タクミ様はその間に武器の用意を!」
銀音はそういうと、先のミノタウロス戦で使った技タービュランスクローを発動させる。身体強化はそのまま継続しているので、ミノタウロスの攻撃を交わしながら距離を縮めていく。上手く懐へと入り込んで、まずは動きを止める為右足にタービュランスクローをお見舞いする……が、切断するまでには至らなかった。だが今迄の冒険者の遠距離攻撃に比べれば明らかに効果がある様に見え、その証拠にミノタウロスは絶叫し苦しんでいるように見えた。
「…すっ凄い!おねーさん!凄いぞ!このまま行けば倒せるぞー!」
「援護は任せてくれ!何かあっても回復役もいるし、俺らの分の魔道具も使ってくれて構わない!」
銀音の攻撃は着実にヒットしているが、やはり特殊個体なのだろうか?クリーンヒットしたように見えてもそこまで深い傷では無いようだ。
「くっ…恐ろしく硬い体ですね。この前のミノタウロスとは別格、やはり体毛からして特殊個体なのでしょうか。結構自信があった技なのですが」
銀音が1度こちらまで後退してそう呟く。あれほど簡単に切断していたのにこいつは切り傷程度。しかも先程から見ていたら、小さな傷口はいつも間にかに塞がっていた。持久戦に持ち込まれれば、明らかにこちらが不利になるだろう。
「またせたな銀音!暖気運転も終わって、遂にモーティーさん親子イチオシのこのチェーンソーの出番だ!」
「奴を引き付けておきますので、スキをついて攻撃してください!」
銀音でも致命傷を与えられない相手に果たして、俺なんかが近づけるのだろうか…。そこまで身体能力も高くないし、度胸もない。正直に言えば逃げ出してしまいたいが、銀音は俺を信じて撹乱を続けてくれている。
「俺が飛び出したら一瞬でいいので奴の動きを止めてください。ほんの一瞬でいいんです。よろしく…」
俺は隣で遠距離攻撃を行っていた冒険者たちにそうお願いする。冒険者達も僅かに頷き互いで何やら連携の確認を行っていた。勝負は一瞬。俺は集中力を高め奴の動きを観察する。
「ーーーーー今だ!」
俺は一気に駆け出し、ブラックミノタウロスとの間合いを一気に詰める。後ろから何やら詠唱の大合唱が聞こえたかと思えば、ミノタウロスの足には岩で出来た枷が、腕には沢山の光の鎖が巻き付き、ほんの数秒だが動きを制限させることに成功した。
皆の作ったこのチャンスを逃す訳には行かない!俺はチェーンソーのアクセルを全開にして、勢いよく奴の首に向かって振り下ろす。
「いけー!!!」
奴の首元にチェーンソーが迫ろうとした瞬間、僅かの差で拘束魔法が解かれ躱されてしまった。しかし、首を落とされまいと前のめりになった反動で、ミノタウロスは左肩が上がりそのまま切断されてしまった。
少し抵抗はあったが、奴の体を切断することが出来る!次こそは!、と再度首元を狙おうとしたが、気がついた時には俺の体は宙を舞っていた。




