#33魔導農具チェーンソー②
モーティーさんの後をついて行き、店の最奥へとたどり着いた。道中様々な職人さんが魔導農具や製品の制作を行っていた。
「おぅ、工場長お疲れさん。家のモーティーと一緒って事は話は聞いてるみてーだな」
「はい、今回はモーティーさんが魔導付与を行ってくれたとか。納品検査を今から行うってことでこっちに来ました」
「そうだ。モーティーはまだまだ学ばなきゃならねーことは沢山あるが、魔導付与はそこそこ出来てな。本人が強く希望したもんで、経験させるのもいいだろうって事で今回は任せてみたんだ。もし俺の満足する出来じゃなかったら、俺が徹夜してでも付与し直すからよ。そこは安心してくれ」
「親父!心配は要らないぜ。今回は初めてのA-難易度の付与だったが、満足行く付与ができた。これでダメなら俺は付与誌を辞めてもいい!」
相当自分の腕を信じているらしいく、付与の出来に一片の不安も無いようだ。少し厳しめの態度を取っているモーズさんも出来ると踏んだから任せたんだろうし、おどおどしてるよりもモーティーさんみたいに自信に満ち溢れた人の方が仕事を依頼する立場としては安心出来る。
「まぁお前の自信は置いといて、取り敢えず切れ味をチェックしてみよう。話はそれからだ。裏の資材庫にクパリャの丸材があっただろうアレを切ってみる」
俺たちは裏の資材置き場へと移動した。移動途中少しモーティーさんが小声でクパリャか、と呟いたので疑問に思って聞いてみるとクパリャの木は鉱物じゃないかと思うほど硬く、反面かなりのしなやかさを持っておりこの木で作った家具や道具は何百年も持つほどの耐久性があるようだ。その分加工がものすごく大変で、特に表皮が一番硬いため切り出すのに一苦労しているようだ。
「よし、このクパリャの木を切ってみよう。工場長お願いできるか?」
「結構でかいですね…直径0.5トーメル位はあるんじゃないですか?」
「そうだな。一般的に流通してるサイズよりはデカいがこれを切れるなら全く問題は無い。自信があるんだろ?モーティー」
「もっ勿論だ!パンを切ってるみたいにみたいにスパッと切断するはずだぜ…」
準備を始めます、と一声かけてチェーンソーのエンジンを始動させる。暫く暖機運転を行い吹け上がりのチェック等異常がないことを確認。まだ切ってないのにモーティーさんはチェーンソーが動いているのを見て興奮している様子だった。それを見ながらモーズさんも頷いている。
俺が確認作業を行っているといつの間にかに人だかりが出来ていた。さすが職人たちと言ったところか、見たことない機械に興味津々だ。
俺は丸太の上にチェーンソーを持ち上げセットする
「それでは切断します!」
無負荷状態でアクセルを全開にし、回転が最高になった時に丸太へと近づけていく。クパリャに接触した瞬間、驚くほど抵抗がなく切り進んでいきものの3秒程度で切断してしまった。
「ーーーーーーーー……。」
「すげー!!なんて切れ味だ!俺の想定を遥かに上回ってる!?」
「こっこれは凄いですね。普通の木を切るだけでも面接触とか材木の硬さで抵抗感を感じるんですけど、こんなに軽く切断できるのは初めてです!」
「ふむ。文句なしの出来だな。魔導付与に関して言えばかなりの腕前になったな」
「ありがとう!これで俺も一人前の職人の仲間入りだぜ!」
「馬鹿言え!魔導付与に関しては、と言っただろうが。まだまだ未熟者だ。工作なんかの技術まだまだ半人前だ。それで?今回この難問をどうやってクリアしたんだ?」
待ってましたとばかりに、モーティーさんは腰袋から四つ折りになった設計図?を取り出した。近くにあった机に広げ図を見ながら説明を始める。
「チェンソーみたいな複数の斬り刃が存在する構造上、一つ一つの斬り刃に魔導付与を行わなきゃならないってのが物凄く複雑で時間と手間がかかるのが問題だった。そこで俺は考え方を変えてみた。それぞれの斬り刃は連なっていて、必ず同じ軌道を通る。つまり継続的な付与ではなくその都度短い付与をかけてやればいいんじゃないかと」
「ほほぅ。なるほど、軌道上に任意の効果を秘めた魔石と付与を施す魔石を配置したわけか」
「ちぇ、親父には分かっちまうんだよなー。だが今回はそれだけじゃないぜ!短い付与は1-2秒程度しか効果が持続しないが、チェンソーは刃が高速回転している為に重ね掛けになってるんだ!俺の計算では2〜3回程だと思ってたが結果を見るに4回は重ね掛けされてる。これは刃の回転数によって変わっているだろうが、ここまでなるとは正直思ってなかったぜ」
成程。高回転にすればするほど出力というか、切断性能が上がるのか。これは素晴らしく良い効果だな。クパリャの木を手で触れてみてもわかる。ガラスのように堅いのに何故か樹木だと分かる不思議な手触りだ。
「モーティーさん。期待以上の出来ですよ!ありがとうごさいます!」
「機械の性能がいいってのが根本的な要因だな。これから量産するんだよな?最初でこの付与を行っておけば出戻りも少ないだろうし、お客はランニングコストも減ってウィンウィンだ」
モーティーさんが言ってることは最もだな。消耗部品が売れなくなるのは、ちょっと痛いが故障やトラブルが少ないのは手離が良くて売る側としても助かる。チェンソーみたいなシンプルな機械は使い方も簡単だし、言葉は悪いが売って終わり位が理想だな。もちろん修理はきちんとやらなきゃだけど。
「じゃあ工場長、俺らはまだ仕事が残ってるからこの辺でな。使い終わったら持ってきてくれ」
「ありがとうございました。これは残りの料金です。早ければ3日ほどで提供出来ると思います」
「分かった!じゃあその時にチェンソーについて話しながら皆で酒でも飲もう!よし、テメーら仕事に戻れ!モーティーお前もだぞ!シャベルの魔導付与残ってたろ」
モーズさんの掛け声で皆散っていった。俺もモーズさんとモーティーさんに別れを告げ店を後にした。
「時間はーーー16時半か明日行けば良いけど今日討伐したミノタウロスも報告しなきゃだし、一応役場に寄っておくか」
「他のミノタウロスの情報も入っているかもしれませんね。あの程度なら私達で全て請け負ってもいいのでは無いのですか?」
「いやーそれはやめておこう?変に悪目立ちしそうだし、これから先高ランクの魔物が出る度に依頼されそうだしな」
まぁもう手遅れな気もするけど…。2体目もちゃっかり討伐してるし、でも家を守るためだったから仕方ないことだ。
役場に到着しアルフォンス様に取り次いでもらうよう、受付の方に声をかけた。しばらくして、この前の会議室のような部屋へと通され、中で待っているとアルフォンス様が入室してきた。
「こんにちは。コウダさん、ちょうど先程残りのミノタウロスの所在が判明したところなんですよ。一体だけまだ捜索中なのですが…」
「えっと、ちなみに何処に居たか地図で教えていただいてもいいですか?」
アルフォンス様は壁に張られていた周辺地域の地図にピンでミノタウロスの所在地を示す。その中の一つに恐らく俺が討伐したミノタウロスもあった。
「実は今朝方ミノタウロスを一体討伐したんです」
「え!?もう討伐されたんですか!?昨日の今日で!?えっと、ちなみにどちらのミノタウロスでしょうか?」
「東門の向こうに私の住まいがありまして、家の近くまで迫ってたので討伐しました…」
「そうだったのですね。恐らく斥候が見つけた個体で間違いないでしょう。死体はありますか?死体に識別の為にペイントが付けられています」
マジックバックから取り出した死体には確かに足元にピンクのペイントが着いていた。地図上の家近く指してあるピンもピンク色だ。
「コウダさんが討伐してくれたので残り三体、内一体が所在不明。明日朝迄には斥候が探し出してくれるでしょう。コウダさんはお願いしていた一体を討伐していただいたので明日は後衛をお願いしてもいいですか?」
「後衛というのは何をすればいいんでしょうか?」
「苦戦しているチームに加勢して頂きたいのです。経験の為に彼等には是非討伐してもらいたいが、最悪な事態を避けるためにもコウダさんに控えていてもらいたい」
「分かりました。確かに死人が出たらこちらも後味悪いですからね」
「そう言っていただけると助かる。それではまだ業務が残っているので、明日朝8時に冒険者ギルドへ来て下さい」
明日の朝イチは遂に討伐開始か。俺はフライングして後衛になったけど、ちゃんと割り当て分は討伐したし明日はゆっくり見物させてもらおう。




