#31討伐準備②
銀音と夕食を取りその日は眠りについた。部屋が一緒でドキドキして眠れないかもと危惧していたが、酒の力が勝りすぐに寝落ちしていた。朝起きて銀音に昨日はお疲れだったみたいですね、と心配されてちょっとデリカシーが無かったかなと反省した。
夕飯は勿論ジャンミートで食べたのだが、初めて見る料理の数々に質問攻めになり、口に運んでは美味しそうに笑顔を浮かべる銀音を見て、余計に食事が美味しく感じられた。そして、周り視線(主に男性客)も銀音に集まっていた。これだけの美人なので逆に声をかけられないのか、遠巻きに見ている連中だけだったのが少し面白かった。漫画とかアニメではこういう酒場だと、酔ったゴロツキ崩れみたいなむさい男が声をかけてきそうなのにな。
朝食は街を出る途中の露天で済ませた。ジャンミートの朝食はさっぱりしてるけど、ボリューミーなので朝イチ食べる量としては少し多い。なので帰りながらサッと食べれるご飯を探したところ、サンドイッチがあったのでそれを購入。少しパサパサしてふすまパンの様な味わいだったが、ふすまパンは個人的に好きなのでかなり美味しかった。討伐が終わってから時間があれば、使われてるパンを買うのもありだな〜なんて考えていたら関所にたどり着いた。
「タクミさん!おはようございます!聞きましたよー討伐班に参加されるみたいですね!」
朝からショーさんがそう言いながら声をかけてきた。エドさんは非番なのか、ショーさん以外にもう1人ちょいちょい見る衛兵の人しかいなかった。
「そうなんですよ。盗賊達のアジトから手に入れた情報を提出して終わりのはずが、たまたま倒せてしまった事を見込まれて討伐隊に参加してくれるよう要請があったんです…まぁー報奨金もいい額なので受けたんですけどね」
「それはすごい!ミノタウロスを二人だけで倒すなんて何者なんですか!?確かB-ランククラスの魔物ですよね?」
「実は正確には2人ではなく使役しているリーフウルフにも手伝ってもらったんです。撹乱と陽動をお願いして隙をついてなんとか致命傷を負わせる事が出来たんです」
今は進化してブラックウルフになっていることは黙っておいた。リーフウルフを使役しているだけでも、珍しいことみたいで驚かれたからね。
討伐準備をする為に一度家に戻ることを伝え、来た時と同様トラクターに乗って帰宅する。エンジンをかけると、守衛の皆さんが驚きの声を上げていた。ショーさんに至っては、“俺は美味くないからな!!”なんて言ってたから思わず吹き出してしまったよ。
関所を出て暫くして街からちょうど見えなくなった林でブラックウルフ達が姿を現した。
何やら銀音に話しているが、俺にはただの鳴き声にしか聞こえない。まだまだウルフ語?を聞く必要があるようだ。
「どうやらミノタウロスがこの先に迫っているようですね。家を超えて2キロほど先に居るようです。進路的にはタクミ様の屋敷に向かって進んできているようなので、戦闘は回避出来ないでしょう」
「くそ!なんでまた俺の家の近くなんだよ!ミノタウロスは俺になんか恨みでもあるのか?チェーンソーも無いのに参ったな…」
チェーンソーの代わりと言えば銀音を傷つけてしまった刈払機しかない。しかし、チェーンソー程の切れ味は無いし円盤の外周に刃が取り付けられている構造上、トルクが弱い。つまり、木等の硬い物を切断しようとする場合は十中八九回転が止まる恐れがある。
「どうしたもんかな…仕方ないから円盤のサイズをワンランク落として少しでも切断能力を上げるしかないか」
刈払機は主に2サイズの円盤が使われていて、直径が230mmと255mmがあり、俺とこちらに転移してきたのは255mmのタイプ。こだま製の排気量34cm^3のかなり大きなモデルなので230mmタイプを取り付ければ多少は切断性能が良くなるはずだ。
こうなったらフライングだが畑や家、周辺の土地に危害が出る前に討伐してしまおう。俺はアクセルを全開にして家へと急ぐ。フルスロットルにしても15km/hしか出ないんだけどね…。
家に到着してトラクターのエンジンを切る。ガレージに入り部品取りや長期在庫品なんかが詰め込まれた、キャビネットを漁る。
「確かこの辺に詰め込まれてたのを見た気がするんだけど…あった!これだこれだ」
キャビネットの奥から引っ張り出したのはまだ未開封の山林用チップソー、フォレスト職人。このチップソーは切刃に工業用ダイヤモンドをコーティングしてあり、草花から竹まで切断することが出来るほどの切れ味を誇る。何故これが長期在庫になっているのかと言うと、いいものは高いの一言に尽きる。業者ならまだしもたまにしか使わない一農家が買うには、ちょっと敷居が高いのだ。
早速チップソーを交換し、燃料を入れエンジンの調子を確認、準備は完了。すると少し遠くの方で遠吠えが聞こえた。
「どうやらすぐ近くまで迫ってきているようです。本当にギリギリでしたね」
「ヤバいじゃん!止まると困るからこのままエンジンはかけたままで行こう。銀音は人化して初めての戦闘だけど大丈夫そう?」
俺がそう質問するとおもむろに家の前にあった木の前へと行き、腕を勢いよく振り下ろしたと思ったらバターのようにスパッと切り倒されてしまった。
「見ての通りです。先の戦いでミノタウロスを倒した後、新たな技、風の鉤爪“タービュランスクロー”を開発しました」
「俺、その木結構好きだったんだけど…」
ちょっとドヤ顔しながらこちらを振り向いて、技の説明をしてくれたが、俺のお気に入りの木を切り倒してしまった事を知ってかなり動揺している。まぁー周りの風景と合ってて好きだったけど切り倒ししてしまったのは仕方ない。気にしなくていいと言ったら、この失態は戦闘で役に立って帳消しにすると意気込んでいた。今の技なら確かにミノタウロスにも通用するだろう。
ブラックウルフ先導のもと、ミノタウロスを討つ為に歩みを進める。
「モ゛ォ゛ォ゛オ゛ー!」
「居たぞ!銀音とブラックウルフ達は撹乱を頼む!俺はタイミングを見て刈払機で攻撃する!」
「お任せ下さい!」
銀音とブラックウルフ達は流石の連携でミノタウロスに攻撃を加えている。
あれ?前回よりも全然苦戦してないぞ?ブラックウルフ達の攻撃力が上がったからか、前の個体に比べて切り傷の深さが違うように感じる。それに、ミノタウロスの攻撃も危なげなく躱す事が出来ているな。
「喰らいなさい、タービュランスクロー!」
銀音の新技タービュランスクローが炸裂。ミノタウロスの右腕を切断してしまった。俺の出番は無いかもしれない。
「タクミ様、私達だけで討伐出来そうです。そこでゆっくり見物しててください!」
「えっ!?あっ、うん。分かった!よろしく頼むよ。危なそうだったら手助けするね!」
どの立場で言ってるんだよ、と自分で思いながら言葉に甘えて見学させてもらう。ブラックウルフ達も自分達の進化した力を試したいのか、個々が思い思いに攻撃を加えている。あれだけ複雑に交差しまくっているのに、互いの攻撃が影響し合わないのは流石としか言えないな。
戦闘が始まって5分程経った頃、銀音が残りの左腕も切断してしまった。腕を主体として攻撃を行っていたミノタウロスはあとは為す術なく袋叩きにあい、そのまま息絶えてしまった。結局俺の出番はなくウルフチームのみで完封した。
「…これで私の失態は帳消しして頂けますか?」
「帳消しも何も最初から怒ってないよ。でも、本当にお疲れ様!ブラックウルフ達もありがとな」
俺はブラックウルフ達の頭を撫でてやる。気持ち良さそうに目を瞑り、喉を鳴らす様は犬のように思えて可愛かった。
「お前たちだけずるいぞ…私もタクミ様に撫でていただきたいのに…」
「銀音も撫でて欲しいのか?」
「はい!是非お願いします」
俺は銀音の頭も撫でてやる。クールな感じは変わらないが、気持ちがいいのか口元が少し緩んでいた。なんか銀音らしい反応で面白い。
ミノタウロスをマジックバックへ収納し、自宅へと戻る。
予定外の戦闘でみんな疲れてるだろうから、ご褒美では無いけど少し多めに昼ごはんを作ってあげるとするかな。




