#3商業区へ
俺は一旦関所まで戻りエドさんに事務手数料を支払いながら、買い物をするならどこに行けばいいのか地図を見ながら聞いている。
「今俺たちがいるのが東区の東門だ。東区は主に住宅地になっていて、俺たちみたいな一般市民が多く住んでる。南区が商業区で大抵のものはそこで手に入るぜ。食事とか食材だったらそこの通りでも手に入るが、種類と数だったらやはり商業区だな」
「商業区って響だとやはり売買する物が主にあるんですか?」
「そうだな。他にも歓楽街なんかもあって昼も夜も賑わってるぜ。で西区は工業区だ。武器や生活用品、家具から小物まで色んなものを作ってる。そこで生産されたものが商業区で売られてるな」
工業区…この世界の技術レベルがどの程度のものかは分からないけど、発達次第ではもしかして…。
俺の中で1つの閃が起こる。後で工業区にも足を運んでみよう。
「最後が北区だな。ここは所謂金持ち層や公園、議事堂や教会なんかの大型施設が密集してるな。北区が全体で1番小さくて工業区が1番でかい。タクミもケーンブーズにずっと住むなら色々見て回るといいぜ」
「ありがとうございます!お腹も減ってることですし早速商業区に行ってみます」
俺はエドさんの元を離れ早速商業区へ向かう。地図に従い歩くこと30分東区との境にある入口へたどり着いた。日本の商店街のようにゲートには商業区へようこそと大きく書かれている。
話に聞いていた通り凄まじい数の人、人、人……。お祭りでもやっているのかってくらいに混雑している。
取り敢えず腹を満たすために、近場の飲食店へと入った。混雑時からズレたこともあるのだろう。店内はそこまで人の数はいなかった。
「いらっしゃいませ!ようこそ、ジャンミートへ!こちらメニューとなっております。お決まりになりましたら、お呼びください」
ウェイトレスがメニューを持ってきた。日本と違い水やおしぼりは無いらしい。メニューを開き食べたいものを選ぶ。
「一角牛のヒレ肉ステーキか、他のメニューは名前も聞いたことないものだし牛って付いてるから大丈夫だろ。価格は銀貨1枚と鉄貨5枚か、ここでも肉は高いんだな」
俺はウェイトレスを呼び、ステーキと水を頼んだ。どうやら水も鉄貨1枚かかるらしい。食事が運ばれてくるまで、今後のことについて考える。
まず、最初に考えなければならないのはどうやって金を稼ぐかってことだ。俺は農機整備士だから機械関係、工具や修理の勘はあるつもりだ。しかし、これまで街を眺めても自動車は愚か自転車すら見かけない。それから考えられるのは俺の技術を生かせる仕事は無いかもしれないって事だ。
そこで次に生きてくる俺の知識でできる職は、農家になって作物を育てることだ。不幸中の幸いなのは修理済み、修理前含めて様々な農業機械が一緒に転移してきた事。食事が終わったら市場で野菜などを見て周り、買取価格などの市場価値を聞きながら1番良さそうなものを育てることにしよう。
「お待たせしましたー!一角牛のヒレ肉ステーキでございます。そのままでも美味しいですが付け合せのニンニクソースを掛けて召し上がるとさらに美味しいですよ!」
俺はウェイトレスにお礼を言ってからナイフとフォークを手に取る。熱々に熱せられた鉄板にステーキとじゃがいも、ブロッコリー、トウモロコシが乗せられていた。ひとまず向こうと同じような食材で一安心だ。付け合せは千切りキャベツとスライスされた玉ねぎ、カットトマトで、何やら茶色のドレッシングがかけられている。
ご飯は無いのかパンが2個、恐らくブランパンだろう。ひとまず肉から食べてみる。
「まずはソースなしでーーーうん!普通に美味しい。塩胡椒がしっかり効いてるし、焼き加減も適度な硬さで俺好みですわ。付け合せのソースを掛けてっとーーーソースありめっちゃうまい!何処と無くニンニク醤油みたいで食欲をそそるな!」
サラダはすりおろし野菜ドレッシングのような風合いで肉との相性もいい。パンも素朴な味だが逆にソースで味が濃くなった肉とよく馴染み調和が取れている。
お腹がすいていたのであっという間に平らげた。ウェイトレスにお金を支払いながら、野菜や作物の種などが買える店がないか聞いてみる。
「そうですねー。うちが仕入れしているお店が紹介できますよ。品数は少ないですけどポピュラーな野菜が揃ってるので、お客さんの希望似合うと思うんですけど?」
「そこでお願いします。逆に種類が多いと迷うと思うので」
俺はウェイトレスさんに詳しい位置を聞き店を後にした。八百屋の名前はグリーンリーフ。ジャンミートの表通りを進んだ先にあるらしい。
人混みの中進むこと5分程度、左側にグリーンリーフの看板が見えた。そのまま店前えと移動する。
「へぇー日本の八百屋みたいだな。店先と店内にも商品が並べられてる。見た目は知ってる野菜が結構あるな。思ったよりも地球に近いかも?」
「いらっしゃい!兄ちゃん変わった格好してるけど旅の人かい?なにか探してるなら相談に乗るよ!」
俺が野菜を色々見ていると店の人が声をかけてきた。白い前掛けに緑のシャツ緑のタオルを頭に巻いている。中肉中背だが声が大きいのもあって見た目よりも覇気がある。
「実はこの街に引越してきたのですが、食事を何にしようか悩んでまして…何かオススメとか売れ筋なんかは無いですかね?」
「それなら、このキャベツが一般庶民から上流階級まで人気の野菜だよ。価格は1玉鉄貨4枚。後はそうだな、トマトも今が旬で5個セットで鉄貨4枚だね」
なるほど、日本の貨幣価値的には鉄貨1枚が100円って感じだな。そう考えれば先程のステーキも割と適正価格っぽい。今は気候的には春なのだろうか?キャベツとトマトの旬が被るのは春くらいだからな。家に戻ったときの食事用に少し食べ物を買っておくか。
「それじゃキャベツを2玉とトマトを2セット。あと、油とか香辛料なんかはありますか?」
「色々扱ってるぜ。だけど、塩と胡椒、砂糖なんかは少し値が張るがいいかい?1000グーム毎の販売なんだが、塩が銀貨1枚、胡椒は銀貨4枚、砂糖は銀貨3枚だよ」
そう言いながら、それぞれ1袋単位で中身を見せてくれた。少し持たせてもらったが、感じ的にはどれも1kg程度。確かに結構いい値段はする……でも、日本での生活で肥えた舌からすると、香辛料無しの食事は考えられないからなー。ここは思い切って買ってみて、減り具合を見ながら今後を考えよう。
俺はそれぞれ1000グームづつ購入する。あとは油だが、オリーブオイルが有ったので、1L位を銀貨2枚で購入。揚げ物をしない限り油はそこまで使わないから、大した金額にはならないだろう。
「他に良さそうなものはないですかね?食料が何もない状態でして…」
「そうだねー日持ちするって意味では表には出てないけど男爵いももあるよ。こいつは冷暗所に保管しときゃ2ヶ月くらいは大丈夫だぜ」
男爵いも、いわゆるじゃがいもだな。やはりこの世界の野菜はほとんど同じみたいだ。じゃがいもも買いたいところだが、今まで買ったやつを考えると荷物が半端ではない。これらを持って家に帰るとなると憂鬱になるな。
ここは恐らく異世界。関所で使った道具も初めて見るものだったし、魔法が存在しているのかも…。だったらお約束の“便利カバン”があるんじゃないのか!?
「ちょっと聞きたいんですけど、いま結構買い物してますよね?自分みたいに徒歩で買いに来るお客さんって皆購入したやつは手で持って帰ってるんですか?」
「あれ?お客さんもしかしてマジックバッグ持ってないのかい?みんな大なり小なりマジックバッグは持って買い物に来てるんだがねー。旅をしてきたのなら尚更必要じゃないのかい?」
やはりあったかマジックバッグ…しかし俺は持っていない。今の話しぶりからすると一家に一台的な感じだったしそこら辺でも手に入るのだろう。
「ははは…実は私の住んでいたところは割と近くに店がありましてね。荷物が多くても荷車があったのでそこまで苦労しなかったのですよ」
現代日本のことを考えると、コンビニとかスーパーは割と身近にあるし、車を持ってる人なら一度に多くの買い物ができる。この世界に来て感じることは、本当に現代ってのは利便性が格段に向上してたんだなってことだ。
そう考えると車の積載性や近くのコンビニ感覚を埋める為には、マジックバッグは必須アイテムのようだ。割と身近なアイテムみたいだから手に入れるのに苦労はしないだろう。ここら辺で買い物を切り上げてマジックバッグを探しに行くか。