#29借金返済と口座開設
会議室を出たあと、そのまま2階へと上がり生活環境部を訪ねる。そう、先程貰った盗賊の財宝で借金を返す為だ。窓口に行って声をかけると、借入時に受付をしてくれた女性であった。
「こんにちは。先日お借りしたお金を返しに来たのですが」
「コウダ様ですね。お早い返済ありがとうございます。それではこちらに借用した金額と手数料を提出してください。借入時に説明させて頂いたように手数料は金貨5枚となっております。また、枚数を確認している間に返済完了書をお渡ししますので必要箇所の記入をお願いします」
俺はマジックバックからお金を取りだし、金貨を80枚手数料の金貨5枚を並べる。それを受付嬢へ渡し、その後書類へと目を通してサインする。
「これで返済は完了となります。ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
「こちらこそ助かりました。あと、別件なのですが銀行のようなものはこの街にはありますか?」
「銀行は民間機関と公的機関があり、公的機関は役所が請け負っております。民間に比べて高い年会費が発生してしまいますが、加盟国内であればどこでも引き出すことが出来ます」
民間は誰でも使うことが出来、質屋の様な業態を行っているところもあるらしい。役所に預けるのとは違い年会費はかからないそうだ。そこら辺は地球の銀行と同じで、個々人から預かったお金で貸付を行って利益を出しているのだろう。使い分けはやはり街を出たりするかどうかみたいだね。商人や大きい商会なんかは公的機関を使っているようだ。年会費こそ発生するものの、加盟国のどこの街でも降ろせるし、大きな取引の際、現金を準備せずに小切手のようなものでやり取りできるのも利点のようだ。
「これから色々事業を始めたいと思ってるので、こちらで口座を作ることにします」
「それではこちらの登録用魔石に手をかざしてください。必要情報が記録されます。年会費金貨5枚と、別に登録料となる魔石代金貨1枚をお納めください」
年会費金貨5枚もするのか…なんかブラックカードやプラチナカードの契約をしてる気分になるな。しかも魔石代で金貨1枚もかかるなんて結構でかい、しょうがないけどね。
登録用魔石というのは手をかざすと対象者の魔力特性を読み取り記録することができる物で、魔力特性というのは地球で言うところのDNA情報みたいなもののようだ。魔石に登録された魔力特性は通信魔術によって各都市で共有され、別の街や国でもお金を下ろすことが出来る。これは顔を変えようが生きている限りは不変のものなので、逆に犯罪などを犯してしまうと割り出しに使われる。
魔石に手をかざすとまるで風が手を通り抜けるような不思議な感覚に陥った。暫くすると魔石が青から赤へと変色する。
「ありがとうございました。これで登録は完了となります。こちらは現在サービス期間中にて無料で使うことの出来る簡単手元銀行カードです。このカードがあれば小切手や銀行に足を運ばずとも収入、支出を行うことが出来ます。右下の小さな魔石にコウダ様が触れれば現在の預金額を知ることが出来ます。また、左上の魔石を相手の右下の魔石に、相手の左上の魔石を自分の右下の魔石に重ね両魔石を握り合う事で預金から希望額をやり取りできます。注意点としては相手もこのカードを持っていないと取引できないこと、無料期間の3ヶ月が終了すると解約するか継続するかを選んで頂きます。継続の場合は年会費として金貨1枚を支払って頂きます」
ありとあらゆるものから手数料を取るな…まぁ日本でも生きてるだけで税金をむしり取られてたからな。でもその税金や手数料でライフラインの維持や便利な公共施設建設なんかを行っているのだから飲み込むとしよう。
このカードも正直便利だし聞くところによると1度使った人たちはみんな継続利用してるようだ。
所謂タッチ決済と同じ機能なら契約しておいて損は無いだろう。他のやってないサービスだからこその料金設定なのだろうから仕方ないな。
無料期間終了後の継続承諾を今行えるか聞いたら可能とのことで、早速書類にサインし金貨1枚を納める。
「はい、不備もございませんのでこれで開設完了です。このカードは登録用魔石に登録したコウダ様の魔素情報でのみ起動させることが出来るので紛失しても悪用させることはございません。しかし、再発行の場合は手数料として銀貨1枚を頂くことになりますので、くれぐれも無くさないようお気をつけください」
「分かりました。早速なんですけど入金したいのですが?」
「それでは入金希望の額をこちらにご提出ください。また、入金に伴って本人確認用魔石に手をかざしてください。本人確認後入金されます」
俺は袋に入った残りの金貨を全て手渡す。手持ちが確か金貨28枚と少し位だったはず…まだ大丈夫そうだけど、よくよく考えるとかなりお金を浪費してしまってるな。まぁーこっちに来て色々買ったし仕方の無い出費だな。早く稼げるようになればいいだけだし、頑張って農家として自立しよう。
「やはり人間というのはお金が無いと何も出来ないようですね。食べるのにも戦闘にも役に立たない物を管理する職業?があるとは。先程の戦闘ギルドというのは理解できますが銀行というのはよく分かりません。命よりも大切なものがあるのでしょうか?」
「まぁー銀音の言うように僻地での自給自足ならお金よりもサバイバルや戦闘ノウハウの方が役に立つだろうね。でも、文明の進んだ人間社会は貨幣を使って様々なサービスや物をやり取りできるんだ。例えばさっきお金は食べることは出来ないって言ったけど、そのお金で食べ物を買うことは出来る。極端な話、危険を犯さなくてもお金さえ払えば生きていけるってことだね。護衛ってのもお金で人の命を買ってるわけだし…」
「そういうものですか…人間というのは難しい生き物ですね。お金に弄ばれているようです」
「うっ……まっまぁー銀音の言うことも分かるけどね。これからお金の大切さがわかってくるさ。今はとりあえず主人の俺にとって便利なものってくらいの認識でいいんじゃない?」
銀音と雑談していた間に入金作業は完了。カードで試しに残高を参照してみると、入金額と同じく金貨65枚の文字が表示されていた。
俺は受付の女性に問題がないこととお礼を伝え、窓口を後にする。色々手続きをしていたら時刻は昼3時前になっていた。色々バタバタしてて昼飯食べるのを忘れてたな。緊張の糸が切れたからか、お腹が空腹を告げる。
「遅いけど昼ごはんにするか。銀音なんか食べたいものはある?」
「元はリーフウルフの進化系ですし、今は人化してますから食べられないものはありません。“強いて”言うならばお肉が食べたいですね」
「強いてるねー。いいよ!美味しい肉料理のお店があるんだ。どうせ宿泊もそこだから宿を取るついでに昼ごはんにしよう」
到着後すぐ部屋を2人分取ろうとすると、銀音がいざという時に俺を守れないと強く同室を望んできたので、仕方なくツインを選択。そのままランチも注文し、今は料理を待っている。
「先程から漂ってくる肉と野菜、そして複雑なそれでいて香しい匂いはなんですか!?」
「多分それは香辛料やタレなんかが焼ける匂いだろうね。食欲が出てくるいい香りでしょ?口に入れた時も美味しいから期待してていいよ」
待つこと10分俺たちのテーブルに今日のランチメニューである牛肉とシェフの気分野菜炒めがでてきた。見た感じ、キャベツ、玉ねぎ、キノコ、ナスが牛肉と炒められていた。香りにかなりパンチがあるので、結構濃い味付けなのかも。付け合せのパンと一緒に食べたら丁度よさそうだね。
「それじゃ早速食べよう。フォークの使い方はもう大丈夫?」
「はい、だいぶ慣れてきました。次はお箸をマスターします。それでは、頂きます……んっ!?」
銀音はひと口食べると驚いたような表情を浮かべ、黙々と食べ進めていく。気に入ってくれたみたいだね。俺も食べようっと。うん!美味いね!牛肉のジューシーな油と野菜たちのさっぱりとした歯ごたえ。そして、ナスとキノコから溢れ出る濃厚なタレ。思ってたよりもよりスパイシーでピリ辛だ。
食べ終わる頃にはじんわりと汗をかき、体が火照っていた。薬膳料理っぽい効果もあるのかもしれない。銀音も満足そうな表情を浮かべている。
「タクミ様……。お金は大事ですね。自然界では決して食べることの出来ない味でした。様々な食材を掛け合わせることでのみ実現出来る味…食材を集め、それを調理する。互いに金銭のやり取りをして、この素晴らしい食べ物を作り上げるのが貨幣なのですね。理解しました。お金はとても大事!」
銀音は食事を通してお金の価値を学んだようだ。まだまだ美味しいものは沢山あるから、この満足そうな顔を見ることも増えるだろう。
遅めの昼食を終えて、チェーンソー引渡し期日を相談するためにモーズさんの店ファマーへと向かった。
いつも読んでいただき、また、誤字脱字報告ありがとうございます!
皆さん今年もお疲れ様でした。新年が皆さんにとって良い年となりますよう祈っております。
本業が繁忙期に突入した為、少し更新頻度が落ちるかもしれませんが、お付き合いよろしくお願いします。




