#27盗賊のアジト
早朝、夢か現実か分からない位ぼんやりとした意識。温かく心地よい何かを抱いていることに気がつく。もっと体全体で体感したいと思って、目を開けずそれをさらに抱き寄せる。
「うっん……」
何やら声が聞こえる。やはり心地よい抱き枕にもなると艶かしい女性の声も出るのかもな。
「ーーーんなわけあるか!なんだ!?」
ぱっと目が覚めて抱き枕を手放す。案の定というかそこには銀音が居た。しかも裸で。俺は急いで毛布を被せる。
「ゆゆゆっ銀音!なんで俺のベットで寝てるんだよ!しっしかも裸で!」
「タクミ様と一緒に寝たかったからです。それに、昨日一緒に寝てもいいですかと聞いたら、了承してくださったでしょう?」
「え?えーっと……そうだっけ?」
俺は確か昨日片付けして、そのままベッドへ潜り込んだはず。その後何かあったのか?ーーーそう言えばなんか薄らと聞かれたような気がする。でも、寝落ち寸前だったから意識も曖昧なんだよな。
「まぁ一緒に寝ることはいいとして、なんで裸なんだよ!」
「昨日も言いましたが服というのは私に合わないようで、最初は着けて寝ていたのですが熟睡出来ず脱ぐことにしました」
「まぁー今まで服なんてもの着けずに生きてきたわけだから、違和感があるのはしょうがないけどせめて俺の前では服を着ててくれ……」
朝からいい…驚く事があったがそのおかげでバッチリ目は覚めた。今度街に行く時は銀音のベッドも購入するべきだな。絶対買うべきだ。
「そう言えば昨日狩りに出ていたブラックウルフ達から聞いた話なのですが……」
どうやら例のミノタウロスを連れてきていた連中が使っていたアジトを見つけたらしい。ミノタウロスが居なくなったから、元の生息地域まで足を伸ばしてみたようだ。ここから20キラトーメルほど離れた所で、崖に開いた洞穴らしい。
「まぁーミノタウロスを御せない盗賊?か、なにかの組織?どちらにしても、ろくなものは無さそうだし別日でもいいかなー」
「何やら文字の書かれた書類と人間の使う貨幣等もあったと言っていました」
「よし!ミノタウロスを連れてきた手がかりがあるかもしれない!第二第三のミノタウロスを出現させない為にも早速行ってみよう!」
ミノタウロスなんて化け物がしょっちゅう連れてこられたら大変だからな。決してお金が欲しいからでは無いのだ……。これは俺の生活、ひいては周辺地域の平和の為の調査活動だ。断じてやましいことは無いーーー。
流石にこの距離を歩くのはしんどいし、トラクターで行くことにするかな。15km/h位は出るから1時間ちょっとで到着するだろう。そうと決まればマジックバックに飲み物と昼食を入れて出発だ!
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ブラックウルフ達の先導のもとトラクターに揺られること1時間半。道が少し悪い所があって、思ったよりも時間がかかってしまった。街とは反対方向に来るのは初めてで、結構ワクワクしてがどこまで行っても林や草原だったのでそうそうに慣れた。道中暇なのでブラックウルフ達にひたすら会話してもらい俺はそれを静かに聞いていた。折角ならブラックウルフ達とも会話出来るようになりたかったし。
銀音に聞いたらここから更に10キラトーメル程行けば集落があるとの事。もし帰りが遅くなりそうならそこに泊まるのも良いかもね。
さて、件の洞穴に着いた。茂みから中を伺う。
「人の気配はーーーしない?みたいだな」
「ブラックウルフたちが来た時もこんな感じだったようです。恐らくミノタウロスに全滅させられたのでしょう。まぁー組織だったのかは不明ですが」
取り敢えず中に入ってみることにする。ブラックウルフ達の言うようにそこには金銀財宝が山のように置かれていた。そして机の上にはなにかの書類が散乱しており、その傍らには例の隷属の腕輪が置かれている。どうやら本当にミノタウロスを連れてきた連中のアジトみたいだね。
金銀財宝は後でサクッと回収するとして、まずはこの書類からだ。
「えーっと……ミッミノタウロス、ヲ、キタ、ノタイコクーーー」
日本式ローマ字に似ているからとはいえ、そうスラスラとは読めないな。時間をかけて読み終え要約するとどうやらこいつらは盗賊で誰かに依頼されて、ミノタウロスを連れてきたらしい。依頼と言うよりも、ミノタウロスをあげるからこれで好き勝手やっていいよ、みたいな感じだった様だ。これは俺の勝手な憶測だが最初の方に書かれていた北の大国から来たという男……。こいつは最初からわざと途中で隷属の腕輪が壊れる様に細工していたのではなかろうか。盗賊達こんな美味しい話があるはずないと最初は疑っていたようだ。しかし、その男は“ウルカ王国”(俺が住んでいるケーンブーズが属している国)に恨みを持っていて、適当にミノタウロスを使って暴れてくれればそれでいい、と話していたようだ。盗賊たちも思い通りに命令を聞くミノタウロスに気を良くして、色々なところで略奪を繰り返したようだ。
「問題はこれだよな……ミノタウロスは全部で5体。俺が倒したのが1体だから残り4体もいるのか。これは一刻も早く街に行って知らせないと」
俺は盗賊が略奪してきた品々と書類を素早くマジックバックに詰め込み、家には戻らず街へと直行することにした。
「銀音。すまないがこれから街へと行くことにするよ。一緒に着いてきてもいいが…この世界には獣の耳としっぽが生えた人間?というのはなんか、宗教的にまずいとか迫害されたりとかは無いのか?」
「一応獣人族と言う種族が居るので問題は無いかと。はるか昔、様々な事があやふやになる上弦や下弦の月の日に人と獣が交配し生まれたのが獣人族です」
身体能力が極めて高く、獣人族の中にも元となった獣で特殊能力を持つ者も居るらしい。それならば問題は無いだろうね。ちなみに聞いてはいないが、銀音と子供もつくることができるらしい……聞いてないけどね。ブラックウルフ達は家へと戻ってもらった。
俺と銀音はトラクターでケーンブーズに向かい、12時前には到着した。
「ちょ、なんだそりゃ!タクミ!そのどでけー荷車みてーなのは。だいぶ遠くからでも分かったから警戒しちまったじゃねーか」
「すみません。緊急事態なので止むを得ずトラクターで来てしまいました……」
「トラクターだぁ?初めて聞く乗り物だな。荷車にしては荷物が乗らなそうだし…」
「トラクターは畑を耕す機械で……って今はそんな事を話してる場合じゃないんですよ!ちょっとここでは話せないので詰所でお話したいのですがーーー」
俺の焦りが伝わったのか、エドさんは真剣な表情になり詰所へと案内してくれた。一応銀音は俺の古い友人と言う説明をして、俺同様遠方から来た為に身分証は持っていないという話にしておいた。検査をしたが問題なく、俺が犯歴装置の使用料を支払って入場した。ハティウルフだからもしも白く光らなかったらどうしようと思ってたけど、何もなくて安心した。詰所に入るとショーさんが飲み物を出してくれた。そう言えばここに来るまで水を飲んでなかったな。急いできたのですっかり喉が渇いていた俺は、一口飲んで喉を潤す。
「それで。どうしたんだタクミ?その様子からするとかなりやばそうな気配だが」
「自分的には脅威だと感じてここまで来たんですが、街の兵士とかが居れば問題ないかもしれません。ちょっと見て頂きたいものがありまして……」
俺は詰所の一角にミノタウロスの死体と例の洞窟で持ってきた書類を出す。
「こっ…こいつはミノタウロスじゃねーか!?なんでこんな魔物の死体をお前が持ってるんだ?」
「実は家の近くでリーフウルフ達を襲いながら暴れていまして…たまたまそこに居合わせた銀音とリーフウルフ達と協力して何とか倒したんです」
「ミノタウロスを倒したのか!?タクミ…ミノタウロスは冒険者ランクBのパーティー1組で倒す脅威だぞ?それを2人で倒すとは、見かけによらず強かったんだな」
正確にはハティウルフの銀音とリーフウルフ達に撹乱してもらい、隙を付いて俺がトドメを差しただけなんだが。
そして盗賊のアジトで回収してきた書類にも目を通してもらう。
「ミノタウロスがあと4体……恐らくタクミの言うようにこいつらの隷属の腕輪も脆くしてある可能性があるな。これは詰所で扱う範疇を超えてる。今から役場と冒険者ギルドに連絡するから役場に行って話してもらっていいか?」
もう1回同じ話をしてもらうが…、と申し訳なさそうに話すエドさん。俺もちゃんとした機関に話さないとって思ってたし、別に問題は無い。俺はエドさんに別れを告げ銀音と共に役場へと向かった。




