#26散水作業
銀音が手伝ってくれたおかけで思いの外早く植え付けが完了した。人化して初めてとの事だが飲み込みが恐ろしく早い。流石は何百年も生きてきたハティウルフと言った所か。これからも頼りにさせてもらおう。
植え付けたオクラとナスの苗は全部で5ゼ(5畝=150坪)分になった。オクラの苗は25cm〜35cmでの植え付けが望ましいらしいので、間を取って30cm確保した。広く取りすぎても雑草や作業幅、土地が勿体ないし狭過ぎれば栄養の奪い合いになる。今回は畑に対して苗が足りなかったので、2ゼ分の植え付けになった。残りはナスを植え付けて株間は推奨45cm~55cmだから50cmで植え付けた。
「あとは灌水だけだね。銀音俺がウォーターボールを作るから風魔法でなるべく空高くまで運んでくれない?」
「かしこまりました。しかし、圧縮した魔素や属性を付与したあとは離れればま離れるほど制御が難しくあります」
「そうなのか……1回試してみよう」
ウォーターボールを作って、銀音に風魔法で空へと運んでもらう。10…20…30トーメル…そこで限界になりウォーターボールの形状が保てなくなってその場で崩れ落ちてしまった。かなり制御するのが難しいな…これじゃ100mは愚か50mでもきついぞ。
しかし、悪いことばかりではなく形状維持が崩れたウォーターボールは地表に到達するまでに空気抵抗でどんどん分裂していき、最後には大粒の雨位のサイズになって畑に降り注いた。これならわざわざ拡散させなくても上空までウォーターボールを運ぶだけで灌水作業をすることができるね。
「目標は最低でも80トーメルくらいとして、これからはウォーターボールの形状を維持出来るように練習しよう」
「最初にもお話しましたが、ウォーターボールのサイズが大きくなればなるほど制御が難しくなります。まずは大きなウォーターボールを造ることから始めてみてはどうでしょうか?」
「そうだね。それで行ってみよう」
先程造ったウォーターボールは目測ではあるが20リットル位だった。大きさがウォーターサーバー用のボトル位だったし。魔素を圧縮し続けてウォーターボールを発動。さっきの2倍以上は魔素を圧縮したから、50リットルはあるはず。それにしても維持するのがしんどい…まだ体から離してもいないのに形状維持にかなりの神経を使う。この調子じゃ10m超えたくらいで崩れ落ちるな。まぁ出来るようになるまでは仕方ないから10m上から拡散させて撒くことにしよう。それなら銀音に風魔法で補助してもらわなくても灌水作業出来るし、今はこれでいいとしよう。
銀音にもウォーターボールで灌水作業を手伝ってもらい、10分ほどで完了した。銀音は300リットル位を難なく造り出して、灌水させてたよ……本当なら俺の出番は無いけど使わないと上達しないから地道に練習していこう。
「今日はこの辺で作業は終わろうか。まぁー植え付けも終わってるし特段やることは無いんだけどね」
「そうなんですか。それではお風呂に入るのですか?」
「うーん、そうだね。そこまで汚れてはいないけど、汗でベタベタしてるから風呂にするか」
「お風呂…楽しみです!」
銀音がうわずった声でそう言いながらしっぽを左右に揺らす。お風呂が相当気に入ったみたいだ。聞くともともとハティウルフは綺麗好きで水浴びを良くするみたい。でも、この前家のお風呂に入ってからは、これ以外の入浴は出来なくなったそうだ。特に洗剤で体が綺麗になるのが気持ちよかったみたいだ。ここまで喜んでもらうとなんだか俺も嬉しくなるね。
「じゃあ風呂に入るか。他のブラックウルフも呼んでもらえる?」
「匂いがこちらへ近づいているので、直に到着すると思います。私にお風呂の使い方を教えて頂けますか?次からは私が準備しておきます」
「そう?まぁ使い方を知っておけばいつでも入れるからね」
銀音にお湯の沸かし方や各設備の使い方を教える。もともと水を回収する排水溝を作る予定だったけど、今日でウォーターボールを習得したから必要なくなったね。水はそのまま地面に垂れ流すとしよう。タンクに水を補充するように教えて、お風呂に湯を張る。温度調整もウォーターボールを使えば楽々だ。
「どうやらブラックウルフ達が戻ってきたようです」
「そうか、じゃあお風呂に入ろうかな。銀音達が先に入っていいよ」
「いえ、ここは主であるタクミ様がお先にお入りください」
「いいの?俺は後でも構わないんだけどじゃあお言葉に甘えてーーー」
俺は脱衣所兼廊下で服を脱ごうとする。
「えっとー銀音?そうじっと見られると恥ずかしくて服脱げないんだけども……?」
「私のことは気にせずにお脱ぎください。ただタクミ様の身に何かあっては行けないので、目を離さないようにしているだけです」
「いや、ここは家だし俺が気にするからせめてあっち向いててくれ!」
分かりましたと銀音は後ろをむく。本当は家の中にでも入ってて欲しいけど、警戒してくれてのことだから強く言えないな。服を急いで脱いで風呂場へと入る。手を浴槽に入れて温度を確認。浸かるにはちょうど良い温度だ。最初に頭からお湯をかぶり体を濡らす。
「背中は私が洗いますね」
「うん。ありがとう、よろしく頼むねーーー銀音?何故ここに?」
「主の水浴びを手伝うのは一族の伝統ですがなにかおかしかったでしょうか?」
「いやー、おかしくは無いんだけどね俺が恥ずかしい……ん、だよね…」
後ろを振り返りそう説明しようとしたら、銀音は生まれたままの姿で手に石鹸とタオルを持っていた。銀色の髪としっぽによく合う真っ白な肌。お人形の様にバランスのとれた手足。
「はっ!ごっごめん!裸だとは思わなくて!」
「いえ、私は何も気にしてませんよ。むしろ裸の方が動きやすくていいです。服というのは動きを阻害するのであまり好きでは無いですね」
「頼むから服は着てくれよ!俺の精神が持たない……」
「……タクミ様。私は人族の娘としては魅力的なのでしょうか?」
銀音は俺の下部を凝視しながらそう聞いてきた。俺はすかさずタオルで隠す。
「正直銀音はかなり美人だと思うし、芸能人で誰が美人かって聞かれても断トツだと思う。でも、もうちょっと恥じらってくれ!俺の為に!そして下を見ないで……」
「そうなのですね……ゲイノウ人?と言うのが何かはわからないですが、嬉しいです。今後は気をつけます」
銀音は髪を弄りながら何故か嬉しそうに微笑んだ。その美人と言うよりは可愛い素顔にドキッとする。いかん!まだお互いの事はそこまで知らないし、テイムしてる子にそういう事をさせるのは違うと思うし、何か強制的に従わせるみたいで気持ちは良くない。嫌な事は嫌って言って貰うようにお願いしておくかな。
恥ずかしさと煩悩を抑えるのに必死だったが無事にお風呂を終えた。今日は銀音と一緒だったので湯に浸かれ無かったのはしょうがない。明日からは自分1人で入ると伝えたので、ゆっくり出来るだろう。ブラックウルフ達は綺麗好きなのもあって長風呂していた。どうやって体を洗ってるのか気になり見てみたら、洗濯機で洗っているかのように、水魔法を体の周りで回転させ汚れを落としていた。今度俺もやってみることにしよう。
風呂から上がって湯上りの1杯を楽しみながら夕食の準備に取り掛かる。
「銀音も1杯どうかな?お酒って飲んだことはあるの?」
「お酒は無いですね。自然ではなかなか発生しない飲み物なので。しかし、折角人化したので飲んでみます」
俺はパンジャ酒を注いだグラスを準備して銀音に手渡す。軽く香りを嗅いで一気に飲み干した。
「大丈夫?結構度数は高いから気をつけて飲まないと急性アルコール中毒になっちゃうよ」
「とても芳しくてスルッと喉を通ったのでそのまま飲み干してしまいました。とても美味しいですね。もう1杯頂いてもいいですか?」
「おっ?銀音結構行ける感じ?これからは晩酌に付き合ってもらおうかな」
「なんだか体が温かくなってきました。それにとても気分がいいですね。幸せな気持ちになります」
しばらく会話を楽しみながらお酒と食事を楽しむ。銀音がお酒を気に入ってくれたみたいで良かった。1人での晩酌も良いけど、やっぱり誰かとお酒は一緒に飲んだ方が楽しいよね。
久々に1人じゃない晩酌だったので、結構な量のパンジャ酒を飲んでしまった。意識が少しふわふわし始めたので今日はもう寝ようと銀音に声をかけ、軽く片付けをしてからベッドへと入る。
明日は何をしようか。まずは水やりをしてその後街へ行く準備をしようかな。明明後日には街へ行くから買い物リストなんかもまとめておこう。
今日は楽しかったな。酒も久々に沢山飲んだからぐっすり寝れそうだ。




