#23使役とステータス
ちょっと説明多めです
俺はあまりの出来事にその場で硬直する。寝起き一番に知らない、しかも物凄く綺麗な女性が立っていたらそりゃー誰だって思考がフリーズするだろう。
「タクミ様?どうかなさいましたか?……タクミ様!」
「あっあー!すみません、いきなりなもので…えーと、どちら様ですかね?」
「私はハティウルフ。先日ミノタウロスから助けて頂いたリーフウルフ…今は皆ブラックウルフに進化しておりますが、それらの長をしております。危ないところを助けて頂きありがとうございました」
女性はこれはまた綺麗にお辞儀する。一つ一つの動作が恐ろしく洗礼されていて、気のせいか後光すら見える。
「あーそうだったんですね!これはご丁寧に…ってハティウルフ?リーフ?ブラック?なんのことでしょうか?自分は犬達を助けただけで…えーともしかしてあの犬達が噂のリーフウルフなんですか?」
「そうです。そして私は貴方に敗れ手当までして頂いた銀色の狼、ハティウルフです」
ハティウルフと名乗る女性はこれまでに起こったこと、どうやらミノタウロスは何者かが連れてきた事などなど事情を説明してくれた。
「昨晩下弦の月の夜、様々な事象が曖昧になる日に私は人狼化の儀式を行って人の姿となりました。そして理由は分かりませんが私はタクミ様に使役される立場となっています。ステータスを確認すれば記載されているはずです」
ハティウルフと名乗る女性はぱっと見は人間にしか見えない。しかし、彼女がハティウルフだと証明する三角の耳とふさふさのしっぽが付いていた。やはりここは異世界…獣が魔法か何かで人間になるというのもありえない話では無いのだろう。鶴の恩返しって話が元の世界にも有るぐらいだし。
「えーっと…すみません、ステータスとはなんですか?」
ここに来て初めての単語を耳にする。ハティウルフによると現在の自分の状態やスキルを頭の中で見ることが出来る技のようだ。これは誰でも出来るらしく特別な技能はいらないらしい。ハティウルフに教わった様に頭の中で情報を見たいと願う。すると簡単に情報画面がでてきた。
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氏名:耕田巧 年齢:29歳 レベル:35
種族:人間族 状態:正常
ジョブ:マルチ整備士 農家 商人 技術者・研究者 テイマー
スキル:異界から来た者 土と共にある者 マルチ整備士 早熟 魔法 大物喰 農具武器化 多言語習得 整備診断
使役:ハティウルフ(名無し)×1 ブラックウルフ×14(全て名無し)
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「本当に出てきた…ジョブってのは職業だとしてスキルってのはなんですかね?」
「スキルというのはタクミ様ご自身が取得している特殊技能のようなものです。各スキルの詳細を知りたいと思うと説明が現れますよ」
俺はハティウルフに言われたように各スキルの詳細を求めた。すると一覧のようなものが現れそれぞれの持つ効果が表示される。
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異界から来た者 レベル1
レベルが上がるとスマホの使える範囲が広がる。
1.半径10トーメル
土と共にある者レベル1
レベルが上がると土作りや作物の出来が良くなる
1.土や作物の育成速度が1.5倍になる。
早熟レベル1
レベルが上がると全ての習得速度が上がる。
1.×2倍
魔法レベル1
レベルが上がると使える魔法が増える。
1.学んだ初級の魔法全てを使うことが出来る。
大物喰レベル1
レベルが上がると自分よりレベルが高い者に対して、強化
効果が発動する。
1.ステータスが1.2倍になる。
農具武器化レベル2
農機具を武器として使えるようになる。
1.故障や磨耗が少なくなる。
2.環境に応じて適切にチューニングされる。
多言語習得レベル1
レベルが上がると多言語を習得するのが早くなる。
1.習得対象の言葉を累計12時間以上聞く事でその言語
を取得する事が出来る。
整備診断レベル3-max
レベルが上がると修理の診断速度が上がる。
1.初めての機械でも使用用途を理解することが出来る。
2.対象に触るだけで構造を理解出来る。
3.対象を分解せずに透視による良否判断が出来る。
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結構便利なものが沢山だな。整備診断に至ってはレベルMAX。機械に触れるだけで使用用途や構造理解、透視能力なんかは前の世界でも欲しかったなー。だって例えばエンジン始動不良の修理が来たとして、お客さんの保管状況が悪かったとする。その場合十中八九キャブレター内の燃料がガム状に変質してしまって、気化したガソリンが通るための通路が塞がってしまった為だと診断できる。でも、どの通路の汚れが酷いのかは実際に洗浄作業をしてみないと分からないし、どんなに頑張っても取れない場合もある。
でも、仮に透視能力ってのがキャブレター内部の通路なんかも見ることが出来たら、汚れが酷いところを重点的に洗浄することが出来る。これはキャブレターだけではなくトラクターのミッションやエンジン等様々な場面で活躍する能力のはず……これはめちゃめちゃ期待が持てるね。
「これって常時発動してるんですか?」
「常時発動しているスキルもあれば、使いたいと思わなければ発動しないスキルもありますね。常時発動していても問題ないようなスキルは最初から発動しています。あと、私はタクミ様に使役されている身ですので、敬語は不要です」
「ごめん、まだ慣れなくて…なるべくフレンドリーに話すようにするよ。それで、例えば早熟とかは常時発動になるのかな?逆に整備診断ってスキルは使いたいって思わないと発動しなさそうだよね」
「タクミ様は早熟のスキルを取得されたのですね。それはなかなか取得出来ない珍しいスキルです。タクミ様が経験される全ての事柄に対してレベルに応じてですが熟練度が飛躍的に上がります。これはステータスだけではなく、ステータスとは別の勘や感覚にも影響があると言われています」
つまりは俺がこれから経験していく事全てに爆速で慣れて習得がスムーズになるって事か。それはかなり良いんじゃない?異世界に来て会社で働くのとは違い、全てを自分でやっていかなきゃ行けない。それを考えれば早く成長できるのは最高だ。
「成程、ちなみに魔法ってのがあるんだけどこれはどうやったら覚えられるの…ってごめんなさい!立ちっぱなしでしたね。キッチンで朝食でも食べながら聞かせてくれる?」
「勿論構いません。私もお手伝いします」
2人でキッチンへ向かい朝食の準備をする。彼女は包丁や調理器具は扱ったことが無いようで、お皿の準備やサラダの盛りつけをお願いした。まぁー昨日まで狼の姿だったんだそりゃー扱えないよな。今日はサラダと目玉焼きと謎肉焼きにしよう。準備をしながら今後のことを聞いてみる。
「ハティウルフ達は俺に使役されるのは嫌じゃないの?理由も分からずこんな事になってしまってるのに」
「不満はありません。強者に従うのが自然の掟、タクミ様はお強い上にお優しい、とても良い主人だと私は思います」
まだそんなに付き合い長くないけど、ここまで言われたら悪い気はしないね。彼女達はこれからここに住むのだろうから、俺も沢山稼げるようにならないとな。
話をしているうちに朝食の準備が終わる。
「リーフ、じゃないブラックウルフたちは朝食は大丈夫なの?一応肉もまだまだ残ってるから作ってもいいんだけど?」
「それには及びません。ここいら一帯には獲物や食べれる野草も多いので、あの頭数なら問題ないでしょう」
「なら良かった。じゃあ僕らも朝食にしようか」
ハティウルフは人間の道具で食事したことがないと言ってきたので使い方を教える。まぁナイフとフォーク、スプーンだから難しいことは無いけどね。ハティウルフも直ぐに使い方を覚えて朝食を食べ始めた。
「ふぅーご馳走様。腹ごなしにさっきの話の続きを聞かせて貰えまーーー貰える?」
「魔法というものはこの世界に充ちている魔素を体内で圧縮し、そのエネルギーに役割を持たせることで発動します」
「その役割を与えるってイメージとかそういうのなの?炎を出したい時は頭の中で思い描くみたいな」
よく小説とかでは呪文はあくまでも現象をイメージしやすくするために唱えるのであって、しっかりと起こしたい現象が分かっているのであれば詠唱とか要らないってやつだ。
「それは違います。圧縮した魔素はなんにでもなれる万能の力ですが、あくまでも決められた事象を起こすためには、呪文や術式が必要なのです」
恐らくパソコンとかのプログラムみたいなもんかな?圧縮して、呪文、もしくは術式で命令して思い通りの事象を起こすと。
「そして初級、中級、上級と段階により圧縮する魔素量が違います。しかし、圧縮する魔力量には上限がありませんので、圧縮すればするほど魔法の威力や効果が増大します。例えば初級魔法であるファイヤーボールでは圧縮魔素は少なくても発動可能ですが、仮に上級まで魔素を圧縮した場合威力はかなり向上します。ですが、あくまでも初級魔法ですので、上級の炎魔法には及びません」
「成程。ちなみに初級と上級で他に違いはないの?例えば扱える魔素量が違うとか」
「もちろん違いはありますが、扱える魔素量に上限はありません。しかし圧縮する時間が大幅に違います。初級と上級では圧縮する速度が格段に違いますので、同じファイヤーボールを使うにしても一度に放てる数が違います」
でも、圧縮出来る魔素量に上限がないなら圧縮し続ければ上級の魔法とかも使えるのではないだろうか?その辺を聞いたところ、実際問題初級で上級に必要な魔素量を圧縮するには途方もない時間がかかる事と、そもそも魔素を圧縮する技術がとても難しく、圧縮するればするほど制御するのが難しくなるらしい。そりゃそうだよね。そう簡単に行くわけない。
「ちなみに魔法ってすぐ覚えられる?」
「魔素を圧縮する事さえ出来れば呪文を唱えるだけですね」
「じゃあ俺にも使えるのかな!午前中は魔法を教えて貰ってもいい?俺も魔法を使ってみたい!」
「分かりました。それでは表で実際に魔法を発動させてみましょう」
こうして転移後初めての異世界らしい魔法を使ってみることとなった。