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農機整備士の異世界開拓ライフ  作者: ミャーク
21/53

#21閑話ハティウルフ①

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時を少し遡り耕田が銀犬をガレージに運び込んだ頃。


微かに香る油の匂いで目が覚めた。野外では嗅いだ事の無い奇妙な、しかし、油とわかる匂い。そんなことをぼんやりと考えていると激痛で一気に意識が覚醒した。


「そうだ。私はあの人間を襲おうとして返り討ちにあったんだ……」


食べる獲物が森から居なくなり、それを追って来たもののなかなか食事にありつけない。我々リーフウルフは雑食ではあるが、草木ばかり食べていると筋肉が衰え衰弱していき最後は死に至る。私は1000年を生きた元リーフウルフだ。リーフウルフから200年生き進化を遂げ、ホワイトウルフに、そしてそこから更に700年を生きてハティウルフへと至った。ハティウルフは膨大な魔力と鋼の様な毛並み、そしてかなりの知能がある。私は群れの中では長老のような立場であり、有事の際は群れを助けなければならない。食べ物が無くなり100頭ほどいた群れは50まで減ってしまった。餌を追い求め移動しながら、仲間たちが弱らない様に私の魔力で癒し続けたが、さすがに魔力にも限界がある。10日ほどで私の魔力は底を尽き、そこから更に10日老ウルフや赤子など弱いものから死んでいく。今では群れの頭数は半分の30まで減った。


「何とかしなければ、このままでは全滅してしまう」


私は単独、人里へ向かった。行商人や狩りをしている人間を襲って、食べ物を奪う、あわよくば人間ごと狩る為に…。

そして街から少し離れたこの人家を見つけた。魔物避けの結界が符が張られていたが、同胞のリーフウルフならまだしも私には全く効果は無い。


「草丈がだいぶ高いなー」


そんな人間の声が聞こえ、私はその茂みに潜みながら人間を襲う機会を伺う。背丈が高いのは好都合、ここで貴様を仕留める。


「ーーー今だ!喉元を噛み砕く!」


魔力の尽きた今では魔法はろくに使うことは出来ない。魔力が尽きようとそこらの(なまくら)の武器では私に傷一つ付けることは出来ないのだ。だからこそ肉弾戦をしかける。


「うお!なんだ!」


人間がこちらに背を向けた瞬間に勢いよく飛び出した。しかし、タイミングが合わず人間が長い竿をこちらに向けながら振り返ってきた。


「私の毛皮はそこらの鉄剣などでは傷一つ付けられない!」


ーーーそう高を括り、現在に至る。


「まさか、あのか細い武器にあれ程の威力があるなんて…私もまだまだ力不足ということか」


傷からつたわる痛みで如何に自分が驕った存在なのかを意識させられた。傷を与えられただけでは飽き足らず、治療まで受ける始末。屋内で寝かされ水や食糧まで…。


「私は敗北したんだ…」


このまま朽ち果てようとも思ったが、同胞たちが待っている。ここはあの人間を利用して体力を回復することにしよう。

水と食事を終え一刻も早く体力を回復するため再び眠りに落ちる。このダメージ具合だと1週間程はまともに動くことは出来ないだろう。同胞たちの為にも急がなければ。




ーーーーーなって森に帰るんだぞ。

そう声をかけられながら身体に触れられ初めて気配を感じた。いくら怪我をしていたとしてもここまでの接近を許すはずは無い。こいつは何か気配を消す魔法でも使っているのか?兎に角気安く触られて気分がいいはずがない。


「私に触るな!咬み殺すぞ!」


私は精一杯の威嚇をし、弱みを見せない為に戦えるぞと立ち上がり虚勢を張る。


ーーー俺は出ていくから大人しくしてろ。


人間の男は自分に謝りながら部屋を出ていった。暫く扉を見てきたが戻ってくる気配は無い。足元にあった水受けを見ると満杯まで補充されていた。あの男の目的はなんなんだ。私にここまでしてなんの得がある。理由も分からず考えても仕方ないので再び眠りについた。



隣の部屋から何やら物音が聞こえ目が覚める。暫くすると肉が焼けるような香りが漂ってきた。


「ぐぅううううーー!」


匂いを嗅いだ途端腹が空腹を知らせる音を鳴らす。くそ!情けをかけられ本来ならば自害するべきなのに、自分の体ながら情けない。

扉が開けられ男が入ってきた。さっき威嚇したのが聞いたのか、ちゃんと言葉をかけながら近寄って来る。やはりこの男からは気配……というより敵意を感じない。それどころか何やら暖かいなにか別の気配を感じる。

目の前まで来た男は血を失っている時は肉が良いだろうと言ってスライスされた肉が盛られた器を出てきた。食べたいものがあればリクエストしても良いと……。そう言えば最初に食べた野菜と鶏卵を焼いた食べ物、あれは美味しかったな。そんなことを考えながら肉を食べる。これも表面を焼いてあるが何やら味付けがされていて美味い。

本当にこの男は私を回復させて何がしたいのだろうか?まさか隷属でもさせて配下にするつもりか?それならば一刻も早く魔力と体力を回復させここから逃げる。

逃げる算段をしながら食事をしていると男が衝撃的な発言をする。


「もう暫くはここでゆっくりしていくといい。ガレージの表の扉は開けとくから良くなったら何時でも帰っていいからな」


そう言うと言葉通り表の扉を半開きのまま固定して、一声かけて部屋から出ていった。空いた扉の向こうから外気が入り込み、草花の香りと太陽光が見える。

ただただ本当に私を気遣っていたということか…物好きな人間も居たものだ。本来人間達は私のような上位種を見たら討伐隊を組み討伐へやってくる。私も幾度となく戦い辛うじて勝利してきた。人間は一人一人の力は大したことは無いが、知恵を絞り仲間と団結することで凄まじい力を発揮する。

それなのにあの男は魔力を帯びていなかったとはいえ、1人で私を倒し何故かは分からないが介抱して回復したら帰っていいと言う。


「信じる訳では無いが、ここは大いに甘えさせてもらおう」


暫くあの男と共に過し気がついたことがある。あの男は私の事を犬だと思っている様だ。人間に媚び諂う(こびへつらう)劣等種と同じにされるのは腹立たしいが、こいつの反応を見て納得した。私の隣に座り込み何やらまた話しかけながら、武器の手入れを行っている。どうやらこの家にはこの男しか住んでいないようだし、寂しかったのだろう。興味は無いが、横になっているだけなのも退屈だ。暇つぶしにこいつの作業でも眺めておこう。



ーーー休めたおかげでかなり体力と魔力が回復してきた。恐らくあの男の作る料理と食糧狩りに力を使わずに済んだことが大きいだろう。私は回復魔法で傷口を治療する。高速回転する鋭い円盤でつけられた傷口がみるみる塞がり、完全回復した。今のでまた魔力を消費してしまったが、同胞たちの所へ戻るまでは問題ない。


「この家とあの男ともこれで最後か…」


外へと出て家を見つめながらそう呟く。数日間の付き合いだったが不思議な体験をしたものだ。仕留めるつもりで襲いかかった末、返り討ちに合い、犬と勘違いされて助けられるとは。1000年もの年月を生きてきて初めての事だった。


「もう会うことは無いだろう」


私は同胞達を目指して走り出した。


ハティウルフ編は二部にわかれます!

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