#20だらだらのんびり
目が覚めたのは朝の10時過ぎ、昨日は色々あり過ぎて自分で思ってるより疲れてたのかも。
今日は何しようか…なんか少しだるいし急ぐ仕事もないから昼過ぎまでゴロゴロしてよう。
お腹も空いてないので、ご飯も食べずにベットの上で動画や小説、漫画を読む。
犬たちと言えば昨日の夜ガレージを解放してやったところ皆銀犬が陣取っていた場所近くで寛いでいた。どうやらあそこが犬にとっては最高らしい。
そして銀犬はどうしても俺の後ろから離れないので、仕方なく寝室まで連れてきた。しかも、俺と同じベットに寝るという大胆な奴。まぁ、一人暮らししてた時ペット飼ってみたかったし別にいいんだけどね。
元の世界では借りてた家はペット禁止だったし、そもそも仕事上出張なんかもあったから家を空けるのも多かった。ペットを飼うのはまだ先だと思ってたんだけどねー。思わぬ所で夢が叶った。
うつ伏せの姿勢のままスマホで犬との接し方や与えてはダメな食事等を検索していると銀犬が背中に乗ってきた。どうやらスマホが気になるらしく、画面を注視していた。
「スマホを見るのは初めてか?そりゃそうだろうな。異世界だしお前は野生動物だからな」
こんなことも出来るんだとライオンの動画を再生してやると、最初は威嚇するかのように低い声で唸っていたがどうやら作り物だと分かったらしくまた黙って動画を見ていた。結構知能が高いみたいだな、俺の言ってることも理解出来ているみたいだし。
ただただダラダラ過ごしていたが、やはりお腹がすいてきたので昼飯にする。時計を見ると昼の2時を過ぎていた。昼食食べたら汚してしまったチェーンソーを整備するとしよう。
なるべく手間のかからないサッと食べれるサラダにし、犬達には毎度おなじみ残った肉とオクラのネバネバ炒めを出してみた。オクラはあまり食べすぎると便が緩くなりすぎるので、1匹の犬に対して1本を目安にしたところ、気に入ったみたいでみんなガツガツ食べてたよ。
「さてと、つなぎに着替えてチェーンソーを整備しますかね」
昨日ミノタウロスを切った後軽く水洗いと注油作業をしておいたが、さすがにこのままモーズさんに渡す訳には行かないだろう。細部までバラして大掃除だ。
「っとその前にチェンソーで軽くワークベンチを作っておくか。大中2つくらいあれば十分だろう」
俺は転がってた腕くらいの太さの枝をチェーンソーで切っていく。別に人に売る訳でもないので曲がりや形は気にしない。重たいものを載せる訳でもないので、1枚板を乗せてパパっと組立た。結局材料が半端に余ってしまった為、ワークベンチを3つも作ってしまった。まぁ邪魔にならないしいいか。
これで本当にチェーンソーの出番は終わり。早速作ったワークベンチ小で解体作業を始める。
「先ずはソーチェーンをガイドバーから外してっとーーー」
チェーンソーは高速回転しているチェーンに刃が無数に取り付けられている構造上、スパッと切ると言うよりは削りながら進むといった構造なので、大量に切断屑が出てしまう。その切断屑がソーチェーンやクラッチカバーなど隙間という隙間に入り込んでしまう為、定期的にこうやってフルメンテナンスしてやらないと長持ちしないのだ。
「そして今回はミノタウロスを切断したことで、かなりチェーンに負荷がかかってる筈だ」
木材のような繊維質を切るのとは訳が違う、切断された肉はソーチェーンにそのまま絡みつき、刃を隠していってしまう。そして切断中は肉で負荷がかかり続ける為エンジンストールやチェーンの伸びの原因となってしまうのだ。
「まぁ、俺も肉なんて切ったことないし今回初めて知ったんだけどね……」
少し匂いの出てきたチェーンソーを掃除しながらよくも無事に生き残れたもんだと改めて考える。本当に全てが上手くいったからこそ今があるんだ。このチェーンソーにも感謝を込めて新品同様にピッカピカにしてあげよう。
エンジン部以外の全ての部品を取り外し、肉や血で汚れた部分は水で洗い、ソーチェーンや駆動部は軽油で汚れを落とした後、油を指して取り付けしていく。
「最後にガイドバーカバーを取り付けて……っとこれでよし!モーズさんの所に持ってっても恥ずかしくないぜ」
新古品としても充分通じる(自分にはそう見える)位までにメンテナンスを施した。チェーンソー以外にも言える事だが、道具は手入れさえ怠らなければ長く力を発揮してくれる。人間と一緒で体を酷使したらいつかは病気になってしまうのだ。機械の場合は言葉を発しない分、重症になりやすいので持ち主のこまめなメンテナンスが重要なのです。
「チェーンソーの整備終わったし今日はこの辺で切り上げるかな~たまには早めに酒を飲もう!」
時刻は夕方5時半頃。日もまだ沈みきらない時間だが風呂に入り夕空を眺めながら酒を飲んだらおつじゃないか?
そう言えばこの前モーズさんが来た時に、前の世界で言うところのオーブンがある事を教えてもらった。最初はただの戸棚だと思って色々入れてたんだけど、どうやら調理器具だったらしい。魔石に触れる事で温度や時間を調整することができる。今日はそのオーブンでなにか1品作ってみることにしよう。
「何作ろうかなー取り敢えず今ある材料で作れるレシピをググろう」
今はある食材は冷蔵庫の中に残ってた肉と野菜数種類。その中で今の俺の料理スキルで失敗しなさそうなのは、キャベツと肉の挟み焼きニンニク味だな。キャベツと下味をつけた肉を交互に挟んで、ニンニクを適当に散りばめてオーブンで焼くだけだ。焼き上がるまでの間にきゅうりの胡麻油ニンニク和えを作ろう。
いつもに比べて時間もあるので、作り置きの分も兼ねて多めに作っておく。きゅうりの調理が終了したところで焼き上がりを知らせる笛の音にも似た音がオーブンから鳴り響いた。
「ナイスタイミング!つまむ分だけ皿に入れて風呂場に持ってこ」
食事と酒の準備は出来た。後は犬達だなーどうすっかな…俺だけ食べながらってのも嫌だしなーと思ってガレージを覗いて見たら1匹も居なくなっていた。もしかして狩りに出たのかも?よし、今日はすまんが1人で入らせてもらおうっと。
夕焼け空を見ながらのんびり湯に漬かり晩酌を楽しむ。45分程入っていたが湯がどんどん冷めていく…。これは何とかしないとだな。今度モーズさんの所に行った時に相談してみよう。
湯酒はバッチリ水割しておいたので、酔いすぎるということも無く、ほろ酔いより少し上くらいで気持ちがいい。部屋着に着替え、ちょい雰囲気を出す為ヨウツベでジャズを流しながら日本酒を煽る。本当はバーボンなんかの洋酒が合うとは思うが、日本酒も悪くないかも?
しばらく音楽を肴に日本酒を飲んでいたが、結局銀犬達は帰ってこなかった。まぁー元々野生動物だし俺が餌をやらなくても自分で取ってくるだろう。窓から外を見て空を見る。
「今日は下弦の月っぽいな~真夜中には綺麗に半分こになった月が見えるだろうけど、そこまで起きれる筈もなし。さっさと寝よう」
帰ってくるかもしれないのでガレージの表扉を少し開けておいた。これで俺が寝ていてしまっても問題ないはずだ。
「明日は畑をもう1回耕して、播種作業だな…畝立て板も取り付けしなきゃ……やること……多め」
俺は明日の段取りを考えながら、酒の効果で深い眠りに落ちていったーーー。
「……様、……み様!ーーータクミ様!」
どこか遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる気がする。夢でも見ているのだろう。透き通る綺麗な女性の声音で自分の名を呼ばれるのは悪くない。今日はいい一日になりそうだけど、もう少しこの声音を聴いてから起きても良いだろう。
「タクミ様!朝ですよ!起きてください!」
夢の声は目覚めを促してくる。まさかの目覚まし声音であった。どんだけ変なな夢だよ。まぁー夢って大概変だけどね……。
俺が夢の中でそんな事考えてたら、声音はさらに大きくなり、体を揺すられる感覚までしてきた。なんてリアルな夢だ。仕方ない起きるとしよう。
俺はゆっくりと目を開けると、閉めたはずのカーテンと小窓が全開に開け放たれており、そこから差し込む太陽光が俺の瞳を直撃した。
「ぐおっ!目が!目が~!」
どこかで聞いたことある様なセリフを吐きながら、転げ回っているとまたあの声が聞こえてきた。
「やっとお目覚めになりましたね!おはようございます、タクミ様!」
徐々に見えるようになってきたが少しぼやけていて、ピントが合うまでに時間がかかる。視界がはっきりとした瞬間目に映りこんだのは銀髪に青い瞳、スラリと下手足に純白のワンピースに身を包んだ綺麗な女性だった。