#17ウィザードウッド散布作業と露天風呂作り
モーズさんさんが帰ったのが午後2時半頃。チェーンソーを1週間後に持っていく約束をしたので、それ迄に林の木々を伐採しなくてはならない。
「ウィザーウッドは散布して24時間後に効果が出るんだったよな?確か草花には希釈して使って樹木には1本丸々使うと」
俺の考えでは木には水分が多く、草花の様にどの位で希釈して使えば良いか分からないから1本丸々使うことになってると思う。しかも、根っこに直接散布とあり、余分な液は地面に吸われて効果が半減してると筈だ。
「まぁ材木を急いで使う予定もないし、完全に乾燥しなくても良いから今回は色んな希釈で散布することにしよう」
今回は検証の為、取説通りと地球での樹木の除木方法を試す。この前買っておいたウィザーウッドを準備したら木々にチェーンソーで刃の幅で5cm程溝を作る。そこに薬液を1/2ほど入れて、薬液が蒸発してしまわないように、濡れた布で溝を塞ぐ。これは元の世界でも行われていた樹木の撤去方法で、本来はドリルで穴を空けてそこに除草剤を注ぎ込み放置するというもの。もしかしたらこの方法なら更に効果を期待出来るかもしれない。
俺は次々と同じ作業を繰り返し、取り敢えず取説通り全てを根元に散布したのが1本、穴を開け全てを注ぎ込んだのが1本、そして30本には薬液の1/2、6本には1/3、4本には1/4、と言った希釈率で散布してみた。作業を初めて時間は夕方5時。今日はこの辺で終わりにして丸1日置いて明後日朝切ることにしよう。
チェーンソーと使い切った瓶をもちガレージ前の扉まで帰ってきた。ノックをして中をのぞき込むと、白い犬はこちらを見ていた。
「休んでるところすまんな。チェーンソーを掃除する道具を取りに来ただけだから少し待っててくれ」
俺は工具箱をからブラシを2種類、ミニラチェットセットを取り出す。
「ちょっと寂しいからここで作業してもいいか?まぁー何言ってるか分からないだろうからそのまま続けてお前が吠えたりしたら出てく事にするよ」
俺はそう言うと工具箱の前でチェーンソーの手入れを始める。木を切ると当然だが木屑が大量に出る。これを掃除せずに使用し続けるとチェーンの間やクラッチカバー、吸気フィルターなどに溜まり続け故障や出力低下の原因になってくる。長く使いたいのなら使用後の清掃作業を欠かしては行けないのだ。ちなみにこれはチェーンソーだけじゃなくて農機具全般に言える事ね。
俺が頭の中で自己解説していると、何やら視線を感じそちらに目をやると白い犬がじっとチェーンソーを見ている。というか俺の作業に興味があるようだ。
「興味があるのか?というか退屈だから見てるってところだろうな。これはチェーンソーって言って木々を伐採する道具なんだ。お前を傷つけてしまった刈払機よりも恐ろしく攻撃力が高いから気をつけろよ。元いた世界ではこれを持って追いかけてくる化け物が居たくらいだからな」
まぁー映画の話だけどもリアルにやってる奴も居そうだしな…。誰でも手に入れることが出来てしまうってのが農具や道具の怖いところだ。道具から凶器へーーーやめて欲しいものだ。
一通り清掃を終えて安全カバーを取り付ける。出番は明後日だから、またガレージに置いておくとしよう。
「さて、今日は何にしようかな~昼に作ったきゅうりの胡麻和えがまだあったから、それとだし巻き玉子、オクラの醤油和えにするかな」
自炊はするが基本的にサッと作って食べれるものしか作らない。後は酒に合うやつ。独身者はコンビニで済ますことも多い中俺は頭一つ飛び抜けてる独身者なのだ。
「…なんと虚しいことを考えとるんだろうなーーー」
自分で考えておいてダメージをくらうってなかなかキツイな。そんなこんなしてるうちに今夜の晩酌メニューが完成。犬の分として卵と肉、人参を細かく切って炒めたものを出した。喜んでくれるといいのだが。
「待たせたなー。夕飯だぞ」
色犬はこちらを一瞥して反対側を向く。気に入らなかったのか?と思ったが微かに尻尾が上下に揺れていた。
出会い方は最悪だったが、段々と心が通ってきているようでちょっと嬉しくなってしまった。
「今日は炒め物にしてみたんだ。卵は栄養満点だし、人参も皮膚を健康にしてくれるからしっかり食べてくれな」
俺は空いた皿と交換し水受けに水を補充する。
さて、夕飯も与えたし俺も晩酌にしますかね~。
パンジャ酒はやはり美味しい。今度街に行った時は追加で買って、他の酒、葡萄酒とかも買うことにしよう。あとは確か他のパンジャ地方の食材も丁度1週間後に入荷予定だった筈だ。早めに行くとしよう。食事を終え、片付けを完了させ、ベットの上でスマホを弄る。電波が少し弱く読み込みが遅いが横になりながら弄れるのは有難い。明日に備えて色々風呂の作り方とか間取りの画像なんかを見て情報収集する。イメージがどんどん膨らんでいき、明日が楽しみで仕方ない。
「大体構想は整った。今日は早めに寝て明日朝イチ建築開始だ!」
昂る気持ちを抑える為にゆっくりと呼吸をし、そのうち眠りについていった。
朝5時半。ワクワクして目が覚めてしまった。せっかく早起きしたのだから、朝食を食べて涼しい内に作業を始めるとしよう。
朝食をサッと食べ終え、チェーンソーとノコギリを取りにガレージへ向かう。まだ時刻は6時前、犬を起こさないようにガレージの扉をそっと開ける。
「ごめんよっとーーーあれ?居ないな」
いつも眠っていたガレージの奥には白犬の姿は無く、空の皿が2枚有るだけだった。もしかしたらトイレかもな。ガレージ前の扉はいつも開いてる訳だし、もう少ししたら帰ってくるだろう。帰ってくるはず。
とりあえず、必要な道具を見繕いガレージを後にした。
裏庭へとやってきた俺は、予め目星をつけていた母屋の裏口とウォータークリーナーの前4坪ほどの空き地へと来ていた。
手始めに材木を切り出し、目隠し用の柵を作る。どうせ俺しかいないからな、高さは2m位でいいだろう。
杭を打ち込んで予め組みたてておいた柵を釘で固定していく。これで三方を目隠しすることが出来た。柵を立てていない側は母屋側で、今から廊下と脱衣所を作る。廊下は裏口の高さとほぼ同じにしたいので、地面から10cm程上げる様に根太(50cm間隔)と束柱を組んでいく。組み終わったら2000mm×100mm×20mmで整形されていた板が大量にあったので床材として利用する。床鳴り防止と雨が降った際水が地面に流れる様に厚さ5mmの端材を挟み込んで等間隔に固定していく。
「よし!廊下と目隠しの柵は完成だ。次は湯船だなーーーそういえば今何時だ?」
時計を見ると時刻は13時前だった。思った以上に集中していたらしい。時間を意識し始めたらお腹が空いて来た。昼食を準備しさっと食べて少し休憩したら作業再開しよう。絶対今日では完成させてお湯に浸かる!
「さてと作業再開と行きますかね。しかし、白犬はまだ戻ってきてなかったな。本当に住処に帰ったのかも…」
怪我をさせてしまった白犬が戻ってきてないことに少し寂しさを感じながら、休憩後は早速お湯を張るための浴槽を作る。
実はモーズさんにあらかじめお湯が出るように魔導付与はお願いしてあったから、後は実際に入浴できるように浴槽と床を貼るだけ。しかも、使った水は再度タンクに戻し浄化して使うという超エコロジーな設備なのだ。
これだけの浄化機能があって魔石が壊れることは無いのか心配になって聞いてみたが、モーズさん曰く手入れを怠らなければ20年は持つそうだ。魔石と言うのは値段に関わらず、手入れをして毎日使った場合20年ほどで交換時期が来るらしい。だから魔導付与を行なう際はその辺を強く説明するそうだ。毎日使おうが使わなかろうが設置後20年は動作保証しますよ、ということみたい。なんか農機具の話を聞いてるみたいで少し親近感が湧くな。農機具も納品後7年が部品提供保証だし、その後の7年は受注生産、さらに7年後は在庫限りとなる。まぁー農機具と違って魔石を変えれば再度設備を使えるのだからその辺は安心かな。
「浴槽は漏れを防ぐためになるべく大きな一枚板を使うことにしよう。繋ぎ目は木工用ボンドでとりあえず間に合わせ接着。いずれは水漏れするかもだけど、その時考えればいいや。そう言えば修理で使ったコーキング剤がまだ残ってたな。あれも使えば防水は大丈夫かも」
材木置き場から1枚板を8枚持ってくる。整形されている訳では無いので、直線と直角を出し歪まなように手ノコで地道に切っていく。横50cm縦150cm厚み3cmの板を8枚作ることが出来た切れ端はもったいないので、壁掛けフックを取り付けて工具でもぶら下げるようにしよう。
まず4枚の板を並べボンドで接着、そして裏面に角材を置きそちらにもボンドを塗って釘で固定していく。これで床面は完了、大きさにして横200cm縦150cmになった。次に浴槽壁も床面に合わせて加工し、補強のための角材で四方を囲んで最後に目地材としてコーキングで四隅と継ぎ目、怪しそうな所は埋めて行く。
「よし!ついに浴槽は完成したぞ!後は廊下と同じように床を張ってくだけだ!」
浴槽はお湯と水が取りやすいようにタンク近くに設置する。使い終わった水をタンクに戻せるように排水用パイプを仕込むための穴を開けておく。まだタンクに戻す為の汲み上げ装置が無いので暫くはバケツでタンクへと戻すことになる。一応モーズさんにまた来てもらい、裏の森に生えている竹を使って汲み上げ配管を施行する予定だ。
浴槽の位置が決まったので、床を張っていく。廊下よりも隙間を狭くし、ほぼくっつくくらいの間隔で釘をうちつけ固定していく。最後の1枚を張り終え、その場に腰を下ろす。
「つ……ついに完成したぞ。やっと水浴びできる〜」
無我夢中で作業を進め、時刻は夕方7時を過ぎていた。辺りは既に薄暗く、空がほんのりオレンジ色に染まり、反対側では月が顔を出そうとしている。サッと片付けて新築風呂に浸かりながら酒でも飲むことにしようっと!




