#16魔導農機製造契約②
善は急げとばかりに契約の話し合いをする為家の中へと移動する。
「懐かしい。バンカーさんは大切に使ってくれてたみてーだな。どこもかしこもしっかりと手入れされてる」
「見てわかるものなんですか?」
「当たり前だ。この設備は導入して10年は経ってる。なのに魔石の劣化が見られねー。これは定期的にしっかりと魔石をメンテナンスしてた証拠だ」
どうやらこういった便利な設備には魔石が使われているようで、魔石の劣化を抑える為に人間で言うところの保湿クリームみたいな物を塗るらしい。それ用のクリームが丁度マジック収納スペースに入れられており、メンテナンス方法もついでに教わった。
「この収納以外にも魔導設備が多くてな、かなり大口の契約だったんだ。一般的には無理難題を押し付けてくることも少なくないんだが、バンカーさんはこっちの意見もちゃんと聞いてくれる人でな。職人サイドからしたら神様みたいな人だったよ」
「そうだったんですね。私も譲り受けたのはいいのですが、使い方やなぜ手放すことになったのかの経緯は聞かされていなくて…なにか情報は無いですか?」
「いや、わりーがわしも知らんな。2年ほど前に新種の野菜を探しに東方の山奥へと行ってみたいってな話を聞いたきりだ」
やはりバンカーさんの所在を知ってる人達は少ないのかもしれない。俺が家を譲り受けたって話を聞いた人達が、驚いた様子をしていたのを見る限りかなり顔の広い人だったのだろう。それだけになぜ挨拶もなく突然居なくなってしまったのか謎は深まるばかりだ。
「よし、この様子を見る限り他の設備も問題ないだろう。早速契約の話に移ろうぜ」
「そうですね。まずはモーズさんの意見を聞いてもいいですか?」
「じゃあわしから提案させてもらう。まずはさっきの機械、“チェーンソー”とか言ったか?あれはわしが見る限り枝葉だけを切るものでは無いんだろう?」
「その通りです。あれは大木でも切り方を工夫すれば切断することが可能です。木を切る際の扱い方は後程お見せしますが、そんなに難しいことは無いので初心者の方でも扱えます」
「あれは必ず製造販売したい機械だ。後はお前さんが魔導付与させようとしてるあの鋼鉄製の荷車みたいな奴だが…あれはなんだ?」
モーズさんはトラクターにも興味津々だ。百聞は一見にしかず、実際に動かしてどのようなものか見てもらおう。俺は表に行きトラクターに乗り込んで、エンジンを始動させる。心地よい爆発音が響き渡り、トラクターは軽快に走り始めた。モーズさんが、自走するのか!?その爆発音はなんだ!?、そいつも魔導じゃないんだよな!?と矢継ぎ早に聞いてきたが、とりあえず作業を見てからと裏の畑へ移動する。
「さて、モーズさん。少し暖機運転…作業前の準備があるのでその間にこの機械について説明しますね」
「頼む!チェーンソー以上に何が何だか分かんねーからな」
俺は簡単にトラクターとはなにか、何をするものなのかを説明していく。牽引力はおよそ馬20頭分、後ろの耕耘部で土を耕す、動力はチェーンソーとは違いライトオイルを使用する、などなど。丁度暖気運転も終わったので実際に地面を耕して見せた。
「………なんってこった、言葉が出ねーぜ。チェーンソーが比べ物にならなさ過ぎて驚くのを通り過ぎて黙っちまった」
「どうですか?ものすごい効率でしょう?」
「ああ。これは常識が変わるどころじゃねー国に表彰されるレベルだ」
「国って…そんな大袈裟な」
「これが大袈裟じゃなくてなんだってんだ!俺たちの魔導技術レベルでも、ここまでのもんは作れねぇ…悔しいが素直に素晴らしい技術だ。だからこそ俺たちの技術として取り入れる為に契約をよろしく頼む」
トラクターの説明も終わったので再度家の中へと戻り契約について話し合う。まずはチェーンソーの話から始める。色々話し合った結果。開発費はモーズさんの農畜具専門ファマーが持つことになった。俺は開発費を出さない代わりに、理論や改善点などを教える。しかし、内燃機関の権利は俺になるそうだ。つまり、国内で内燃機関の技術が用いられた製品の製造・販売しようとすると必然的に俺に利用許可を取らないと行けなくなるということらしい。
「でも、良いんですか?自分に権利を譲ってしまわれて」
「何言ってんだ。お前さんに会わなきゃそもそもこんな機械があるなんて知りもしなかったんだ。だが、俺達も商売だからな。契約書でうちの店が独占販売させてもらう形でたのめねぇかな」
「それはもちろん良いですよ!自分も今後そう言った事業を始めようかと思っていたので、モーズさん達と出会えて良かったです」
その後は実際に販売した際の取り分などを話し合った。大体だが1台辺り販売額によるけど10~15%が俺の取り分で、これには内燃機関の利用権利料金も含まれてる。最低の10%って考えてももし100万円売り上げたら俺の取り分は10万円だ。販売に関しては何も考えなくていいし、不労所得が少しでもできると考えればこんなにありがたい話は無い。
「トラクターはまだ使いたいですし、チェーンソーは1週間後ならしばらく使わないので、実際にバラして構造をお伝えします。トラクターも多少の違いはありますが、動力の取り出し方は一緒なので、小さなチェーンソーから学んだ方が後々分かりやすくていいと思います。その際もしモーズさんがお連れになりたい技術者など居ましたら呼んでもらって大丈夫です」
「そうだな。まずは焦らずチェーンソーから製造していくことにするぜ。チェーンソーが軌道に乗ったらトラクターの方の契約もよろしく頼む」
「そうですね。ここは季節的に冬もあるようなのでその時にトラクターも実際にバラして構造をお伝えしましょう」
「よし、じゃあ最後に仮契約を結びたいんだが経験はあるか?」
「はい。大丈夫です」
コンポストと同様に互いにサインが終わったあと、七色の炎が灯ったロウソクで契約書を燃やし2つの指輪が出てきた。ちなみに今回の仮契約期間は6ヶ月。測定液の時とは違って開発に時間がかかるだろうと思って長めの設定をお願いした。
「契約完了っと。これからよろしく頼むぜタクミのダンナ」
「旦那はよしてくださいよ。今まで通りあんちゃんでいいです」
「そいつはちょっとな。流石に歳下とは言えあんちゃん呼びは出来ねぇ、周りのもんに示しがつかないからな」
「困りましたね…それじゃタクミ工場長にして貰えませんか?」
「工場長?なんだそりゃ?どっかに工場でもあるのか?」
「いえ、前の会社…農機修理工場で工場長になる予定だったので。その前にやむなくここに来ることになってしまって…」
「そうか、お前さんにもなにか事情があるみてぇーだな。よし!これからはタクミ工場長はなげーから工場長と呼ばせてもらうぜ!よろしく頼むぞ、工場長!」
がははは、と笑いながら上機嫌で指輪を填めるモーズさん。裏表がなく気持ちのいい人だな。俺も早くチェーンソーの技術を伝えて生産出来るように急いで作業を終わらせてしまおう。
有難いことに魔導付与や家の各種便利道具の使い方をタダで行ってくれた。支払うと言ったのだが、モーズさんが気持ちがいいし契約祝いだ、ってことで有難く頂戴した。トラクターやスマホ、その他壊れて欲しくない物に耐久力向上の魔導付与を行い、モーズさん曰くその素材が本来壊れてしまう限界の3倍位の強い衝撃や魔力干渉がなければメンテナンスを欠かさなければほぼ永久に使えるらしい。
スマホは元が弱いけど元の3倍なら落としたくらいではどうにもならないだろう。トラクターに至ってはほぼ無敵に近いと思う。一応お値段を聞いたら全部で金貨50枚はかかってるみたい…これは本当に有難い。
「それじゃ、そろそろ俺は帰るとするぜ。昼飯もありがとうな。正直すげー美味かった。なんというか酒が飲みたくなる味付けだったぜ」
「自分飲み会とか晩酌好きなんで、作る時に毎回そっち系の味付けになっちゃうんですよね」
「工場長酒好きなのか!?そいつはますます気に入ったぜ!1週間後わしの工房に来た時は工房職人全員で歓迎パーティーするから楽しみにしといてくれ!」
モーズさんはニコニコしながら帰って行った。こいつは久々に熱い夜になりそうだ。こっちに来てからの初めての飲み会。雰囲気を掴んで皆と打ち解けてやるぜ。




