#15魔導農機製造契約①
本文が長くなったので2話に分けます
お昼ご飯は有り合わせでばっと済ませた。ガレージの犬の様子を見るといつの間にか準備していた水と食事が空になっていた。どうやら食欲が戻ってきたらしい。食べやすく千切りキャベツの卵焼きにしておいたのが良かったのかも。水が空になっていたので満杯まで注いでおく。
「早く元気になって森に帰るんだぞ」
そう声をかけながら犬を撫ででいると、犬が目を覚ました。
「ヴゥー!!」
こちらを威嚇するように唸り声をあげる。しかし傷口が痛いのか機敏な動作はできず、無理やり立ち上がろうとしている。
「おいおい!無理するな!俺のせいで怪我させてしまったのはスマンが傷口に響くぞ!俺は出ていくから大人しくしてろ」
俺はそう言ってガレージを後にする。まぁー人間の言葉なんて分からないだろうが敵の俺がいたらそりゃ威嚇もするわな。取り敢えず意識も戻ったみたいだし一安心だ。
食後というのもあるが一安心したせいかものすごい眠気が襲う。昨日心配であんまり寝れてなかったからな、1時間くらい昼寝するか。
寝室のベッドで寝ているとセットしていたスマホのアラームで目が覚めた。一応14時半に設定してあったけど思いの外熟睡していたようだ。アラーム設定してなかったらそのまま眠りこけてたかも。ぐーっと伸びストレッチをしてからベッドを出る。
「さて昼寝も終わったし犬の様子を確認してから、耕耘作業に入りますかね」
ガレージの扉を少し開け中をのぞき込む。犬は熟睡しているようで扉が開いたことにも気がついていないようだった。
俺はガレージを後にし表に停めてあるトラクターへ乗り込む。クラッチペダルを踏み込み、エンジン始動。そのまま裏庭へと車両を移動させる。
まずは堆肥を巻いた畑を耕し、その後刈払機で開墾した土地を耕す。やはり1度砕土作業を行ったところと比べ、初回作業は結構ロータリーが跳ねるな。なるべく浅めに車速は遅くのんびり耕すしかないね。
結局砕土作業が終わったのは日が落ちかける午後18時半頃だった。犬に気を使ってこの日は表にトラクターは停めておく。どうせ明日はモーズさんが来るし、ガレージ内でガヤガヤしたらアイツに吠えられそうだしな。
「さてと、夜飯は何にしようかな~そういやきゅうりが売ってたから買ったんだっけ?あとは、オクラもまだあったよなーーー」
街に行った時にきゅうりとごま油を買っておいた。そして、なんとなんと醤油とみりん、味噌も売っていた。どうやらパンジャ酒と同じ地域の特産らしく、数は多くないが定期的に仕入れているようだ。パンジャ酒と違って飛ぶようには売れないが、一定数需要があるようなので販売しているらしい。醤油はグレインソース、みりんはスウィートリカー、味噌はジャンデンと言う名で売られている。
ニンニクがあったからきゅうりのたたきが作れる。あとはオクラの天ぷら、ニラたまを作ってパンジャ酒で乾杯と洒落こみますかね。
自分の夕食を作って終わって、白犬用の夕食を準備する。と言ってもマジック収納スペースに残ってた生肉だけどね。一応食中毒が怖いから表面は軽く焼いておく。
一応病み上がりだろうから、薄くスライスして食べやすくしておこう。
「おーい飯の時間だぞ。吠えるなよー」
俺は扉を開ける前に一声かけてからガレージに入る。言葉は分からなくても、黙ってはいるよかマシだろう。
言葉後通じたのかどうか分からないが、今度は意識はあるが威嚇はしてこなかった。俺はそのまま犬の前へと歩みを進める。
「ほら、夕飯だぞ。血を失ってるから肉がいいと思ったんだが、嫌じゃなかったか?つっても言葉分からないからリクエストされても出せないんだが…」
そう1人で言いながら器を犬の前へと置く。ゆっくりと起き上がってきた犬は俺がいる前で肉を食べ始めた。どうやら悪い奴では無さそうだと理解してくれたらしい。水も無くなってたから新しく注いでやる。
「もう暫くはここでゆっくりしていくといい。ガレージの表の扉は開けとくから良くなったら何時でも帰っていいからな」
表の扉を半開きのまま固定しておく。頭は良さそうだから傷が癒えたなら自分で出ていくだろう。俺が監禁してると思われたくないし…。
じゃあなと声をかけ夕飯を食べに居間へと戻る。
「さてさて、じゃあパンジャ酒でも飲みながらヨウツベでも見ますかね~」
検索はできるのに、コメントの書き込みとかDMは送れないんだよな~他のSNSサービスに至ってはアプリすら立ち上がらないし。ほんと謎ですわ。
そんなことを考えながらパンジャ酒を飲み、ツマミを食べる。
時間はあっと言う間に過ぎていき時刻は23時前。酔いも回ってかなり気持ちがいい。片付けてそろそろ寝ることにしよう。食器を洗い、テーブルを拭いて戸締まりを確認する。窓から月光が差し込む。やけに明るいと思ったら今夜は十六夜の月であった。地球の月に比べるとかなり白いがこれはこれでとても綺麗だ。
「今回の満月には間に合わなかったから、今度の満月を見ながら酒でも飲むかな。その時は団子も作ろう」
次の満月に思いを馳せながら、眠りに落ちていった。
翌朝。酒の力もあって熟睡してしまい、目が覚めたのは午前8時半過ぎ。社会人なら完全に遅刻しているであろう時間だった。まぁー俺は個人事業主だから、別に寝坊しようが休もうが自由なんだけどね。でも、借金があるうちはそうもいかないので、朝食の準備に取り掛かる。
朝は定番の目玉焼きにベーコン、サラダとパンを用意した。パンは街で買ってきたものだが、黒パン?的なやつで少し硬い。スープなどに浸して食べるのが良さそう。
自分の食事を終えたら白犬の朝ごはんを用意する。昨日と同様肉を準備し、それだけでは飽きるだろうから野菜も準備した。ガレージの扉の前で声をかけ中へ入る。
犬は目を覚ましており、伏せながらこちらを見ていた。
「おはよう。だいぶ調子よくなってる感じだな。この分なら明後日には森に帰れるかもね」
そう声をかけながら食事を目の前に置く。唸るでもなく、ゆっくりと立ち上がり俺の準備した朝食を食べ始めた。
なんだか、だいぶ気を許してくれたみたいだな。俺はそう思いながらゆっくりと犬へと手を近づける。すこし警戒している感じだったが、そのまま吠えられることも無く体を撫でることが出来た。
「悪い奴では無さそうだな、って所か?俺もこんな怪我させたくはなかったんだごめんな」
撫でながらそう伝えると、食事をやめて俺を真っ直ぐ見つめてきた。こうやって見ると恐ろしく綺麗な白い毛並みだ。瞳も透き通るような深い碧、テレビとかで出る沖縄とかの海みたいに綺麗な色。不思議と瞳の奥が揺らいで見える。
「おっと、じっと見て悪かったな。あまりにも綺麗な色だったもんで魅入ってしまったよ。ご飯食べてゆっくりしてな」
よし、朝食も与えたし水も補充した。あとは、モーズさんが来るまでに家の掃除をしておくかな。
時刻は10時を回ったくらい、家の中の掃除を終えてまだ来そうになかったので庭の手入れでもしようとチェーンソーを持ち出した。エンジンをかけて家の周りを囲んでいる生垣を手入れする。
「なんだそりゃ!!!」
突然でかい声でそう訊ねられびっくりして咄嗟にエンジンを切る。
とにかく何かあったらエンジンを切る。この前の事故のように間に合わない時は仕方ないが、そう意識するだけでも未然に事故を防げるはずだ。
「モーズさん…驚かさないでくださいよ。びっくりするじゃないですか!」
「わっわりぃーな。見たこともねー便利な機械を見ちまって興奮してたんだ!あんちゃんこの機械はなんだ?」
「これはですねチェーンソーと言って僕の故郷で作られた機械なんです。この前モーズさんの所でボラタイルオイルを買っていきましたよね。あれを燃料に動いてるんです」
「じゃあーなにか?これは魔法も魔石も付与もなしに、ボラタイルオイルだけでここまでの仕事をしてるってのか!?」
「そういう事です。私の生まれ故郷では魔導技術はあまり発達していなくて、この様に大地や自然の中から採掘出来る資源を動力源とする術を磨いてきたんです」
「いや参ったな。これはものすごい技術だぞ!しかも専門職の奴らしか使わなかったボラタイルオイルの需要も増える。何より魔導付与なくここまで仕事が出来るんだ。もしもこの機械に付与なんかした日にゃー………想像もできねーぜ」
モーズさんは色々ブツブツ言いながら想像を膨らませている。そうだろうそうだろ。モーズさんなら絶対に食いついて来ると思ってたんだよね!技術屋に悪いやつは居ない、好奇心と向上心の塊みたいな奴らだからな。かくいう俺もそういう人種だから気持ちは凄くわかる。
「あんちゃん、真剣に相談したいんだがワシにこの機械を売ってはくれんか?金貨200枚ーーーいや、250枚はだすぞ!」
「にっ250枚!それはいくらなんでも…!」
高すぎないかと言おうとしたらモーズさんが、ならば300枚と言ってきた。まさか、これ程までに食いついてくるとはな。店を見ても思ったがやはりこの世界の農具レベルはあまり発達していないようだ。
「モーズさん落ち着いてください。私もこの機械で食べていくつもりなので、譲ることはできません」
「そうか、確かにあんちゃんの故郷の品だもんな。しかもこんなに便利な道具なんだ。ほかの道具の何十倍も仕事するぜ。仕方ないな」
見るからにガックリと肩を落としている。正直金貨300枚は確かに魅力的な提案だ。元の世界で10万円程はするチェーンソーだけに確かに性能はいい。しかし、これを譲ってしまうと俺が難儀するし、製造に1枚噛んで儲けたいのだ。
「モーズさん、お譲りすることは出来ませんが僕と一緒に製造販売してみる気は無いですか?幸い地元ではこういう農機具の修理などをしていたんです」
「なんだって!それは願ってもねーぜ!!購入してもバラして1から研究したんじゃ時間もかかるしな。そうと決まれば早速契約だ!」




