#10買い出しと出会い
早朝。まだ日が上がってそう経っておらず、ほんのり明るいくらいの時間帯。朝食の準備に取り掛かる。昨日は疲れていてすぐに寝落ちした為、太陽が上がると同時に目が覚めた。どうせ街に行かなきゃだし、早めに行動できるのはいい事だ。食事を終え身なりを整え玄関から外へと出る。太陽が姿を見せ始めたところを見ると朝7時くらいだろうか?ほんのり涼しく歩いていくにはちょうどいい温度だった。鍵を閉めて街へと向かい歩き始めた。
すっかり太陽も上がり、温度が徐々に上がり始めた頃東門前へとたどり着いた。今回はエドさんではなく、この前小屋の中にいたショーさんが表で検問を行っていた。
「ショーさん、おはようございます!」
「おはようございます!コウダさん。昨日はゆっくり出来ましたか?」
「昨日は農家としての第一歩、畑の準備をしてましたよ」
「そうだったんですね!エド守衛長から聞いてたんですが、あの難関の試験を受けるみたいですね。何処かで農業に携わってたんですか?」
「そうなんですよ。知り合いにも沢山色々な作物農家が居まして、結構知識を得る場が多かったんです」
農家としてでは無く、農機整備士としてだけどね。やっぱり、作物の知識、ノウハウは農家に勝てないけど、機械の販売、扱い方を教える手前無知では商売できないからね。
基本的にどの作物でも土壌の準備管理が重要だ。準備は万全、後は肥培管理をしっかりすれば良い作物が作れるはずだ。
「そうだったんですね。今日は買い出しですか?」
「そうです。畑に撒く肥料を買いに来たのと、譲り受けた家の設備の使い方がわからなくて、それを調査してもらいに」
「分かりました。一応受付時に理由を聞かなければいけない決まりでして。はい。これで手続きは完了です」
ショーさんに別れを告げ、東区へと入る。今日の目的は農畜具専門ファマーで魔道具の鑑定を依頼する事と農業組合で使えそうな肥料を見繕うこと。
取り敢えず、先にファマーにから行くとしよう。
人混みも少なく思ったよりも早く着いた。ちょうど開店時間だったようで、この前のドワーフが表にOPENの看板を出している。
「おはようございます。もう開店してますか?」
「おう!今から開けるとこだぜ。この前のあんちゃんだな!今日は何を買いに来たんだい?」
「実は今日は買い物ではなくお願いというか依頼に来たんですが…」
依頼したい内容、家の使い方とかスマホに効果を付与できるのかなどをドワーフへと伝える。
「ふーむ。一応効果を着けるのはどんな物にでも可能何だが、大きさや効果の強度、種類なんかでも値段が変わってくるからな。一概には見積もることはできねーな。あと、あんちゃんの家に行って使い方や見積もりもしないとだから時間もかかるし、今日今すぐってのは無理だぜ?」
「それは勿論分かっています。都合の着く日で良いのでぜひ来ていただけませんか?使い方を教わるだけでも、有難いので!」
「分かったぜ。じゃあこっちの都合のいい日が決まったら手紙で連絡するからよ。こっちに住所と名前を書いといてくれ」
俺は渡された受付簿に住所と名前を書き込む。
住所は役場で貰った権利書に書いてあったのでそれをそのまま記入した。
「うん?この住所は……もしかしてエル・バンカーさんの所じゃないか?」
「そうです!縁あって譲り受けることになりまして。バンカーさんをご存知なんですか?」
「知ってるも何もバンカー邸の魔導器具は全部うちが受けたんだ!結構いい取引をさせてもらったからしっかり覚えてるぜ」
「そうだったんですか!それならなおさら話が早いですね。都合つき次第よろしくお願いします」
「任しときな。あと、大体でいいんだが付与したい物のサイズを教えてくれるか?出来れば図に描いて貰えるとありがたいんだが」
俺はトラクターのイラストを描き大まかなサイズを書き込む。スマホも描いたがただの四角い板みたいなイラストを描いてしまった。ここの店主で付術師のモーズさんに板切れに効果を付与したいのかって疑問視されたよ。でも、スマホってこういう風にしか描けないんじゃないか?特段絵が得意なわけではないが普通ならこうなると思う。
取り敢えずサイズを説明し材質やらわかる範囲で伝えどんな効果を付与したいのか等を話し合う。
「成る程な。大体は分かったぜ。こっちの東方の乗り物は恐らく使われてる材質なんかを聞いた感じ特段問題はねー。だが、この板っ切れがちょいとめんどくさそうだ。どっちもちゃんと鑑定してみねーとなんとも言えないが、取り敢えず話はわかった。日取りが決まったら手紙で連絡するからそれまで待っててくれ」
ファマーでの話が済んだので店を出る。いろいろ話し込んで気がつけば一時間位になっていた。
実は話している間に気になる商品を見つけ購入した。所謂懐中時計なのだが、時間と分の2針タイプではなく、時間と年の移り変わりを表しているそうだ。短針が季節を表していて、日本と同じ様に四季があり、月毎のカレンダーとしても使えそうだった。そして長針が時間を表していて、12時間表記の30分毎でデザインされているので、長針だけでも分かりやすい。この世界でスマホは貴重どころか存在しないアイテムだと思われるので、人前では出すことが出来ない。だからこその懐中時計だ。
概ね予想通りで今の時間は10時半くらい。まだお昼には早い時間なので、農業組合に寄ってから食事にしよう。
11時には農業組合へと到着した。この前試験の受付をしてくれた女性がいたので、肥料等を買いに来た事を伝えると前回同様裏手へと案内された。
「次回からはそのままこちらへお越しください。肥料などの農業資材はこちらでの取引になりますので、商品がお決まりになりましたら、あちらのカウンターで代金をお支払いください」
説明を受け終わり商品を見て回る。見た感じ堆肥と肥料、噴霧器、出荷コンテナなど農業用品が中心で販売されているようだ。ファマーで買ったウィザーウッドも販売しているが、値段がほんの少し高い。魔道農具も扱っているようだが特段安い訳でもないし、付き合いも兼ねて農具とかはファマーで買うことにしよう。
とりあえず目的としている堆肥を選ぶ。結構みんな堆肥と肥料を混同しがちなんだけど、使用用途が全く違うんだよな。どっちも作物を元気に大きくするのは変わらないけど、堆肥は土壌改良材、肥料は作物栄養材って農家に習ったんだよな。
良い土、良い播種、良い管理……3つの良いで農家もウハウハとか言ってたな。若手の時に農家さんにそう教えられて、1つだけに力を入れてもダメなんだなって勉強になったよ。懐かしい話だ。
「えーっと堆肥にも種類があるみたいだな。牛糞に鶏糞、腐葉土に馬糞もあるのか!俺が農機整備してた地域には牛糞と鶏糞はあっても馬糞は無かったな」
地球では鶏糞の効果が高いと聞いたことがあるな。この世界でも同じようで、他に比べると1.2倍位鶏糞が高い。
鶏糞を除いた堆肥が20キラグーム(約20kg程)鉄貨3枚に対して鶏糞は鉄貨4枚だった。地球ではビニール詰めが基本だが、この世界では蓋付き樽での販売のようだ。最初にサイズ別の樽を購入して必要分だけ堆肥を購入するシステムらしい。樽のサイズは下から20,40,60,100,300,500,1000キラグーム。驚いたことに、堆肥を散布するであろう装置も販売していた。構造的にはブロードキャスターをもっと簡単な造りにした感じで、約150L程のホッパー部分に堆肥を入れ散布量は出口の開き具合で決まるのは一緒のようだが、ここでこの世界特有の駆動方式が登場する。魔導石により風の魔法が扇上に噴出される仕組みでその風圧で堆肥を均等に撒く仕組みのようだ。お値段は金貨28枚ほど。地球のブロードキャスターに比べると少し割高に感じるが、トラクター等に付けなくても単体駆動だから、その点は安いのかもしれない。
購入を考えるべきだろうか……いや、もしもの為に資金は残しておきたい。それに確か物置に魔道スコップもあった筈だ。あれで作業すればあれくらいの面積なら何とかなる。
今回は堆肥だけ購入すればいいかな。そんなことを考えながらふと堆肥コーナーの1番右端に目が止まった。
「この白い粉はまさか“有機石灰”か!この世界にもPh調整する技術があるとは…だけど堆肥に比べたら品数は1種類だし数も少ないな、なんでだろ?」
「それは通称“シェルパウダー”と言ってですね最近考案された土壌改良材で、休耕期間を設けられない土地などで使用する物なんです。残念ながらまだまだ使い方が浸透してないのですよ」
そう言って話しかけてきたのは、茶髪でスパイラルパーマ風の髪型、優しそうな目元で丸メガネを装着している男性だった。服装はオリーブドラブ色っぽいセパレート作業着を着けている。業者さんかな?製品説明してるところを見ても業界関係者なのは間違いない。
「おっと。突然話しかけてしまってすみません。私、堆肥とそちらのシェルパウダーを生産、加工販売してますおります。堆肥工房コンポストのイーラミナと申します」
「自分は最近この街に越してきました、タクミ・コウダと言います。以前農業に携わる仕事をしていたもので、こっちでは農業を生業にしようかと試験を受けている最中なんです」
「なるほど、組合の試験ですか。それで堆肥コーナーを見ていたと。試験品種は何を選びになったんですか?」
「試験課題はオクラを選びました。あと、個人的にナスも育てようと思って。まずは土壌から作ろうと思って肥料を見立てに来たんです」
まさか、有機石灰…シェルパウダーが有るとは思わなかったけどね。作物を育てるためにはその作物に合ったph、酸度調整が必要だ。その為に堆肥やシェルパウダーを用いて適正土壌へと改良していく。
そう言えば修理してたトラクターにph計測用の薬液が乗ってたな。お客さんの私物だけど使わせてもらおう。
「一応シェルパウダーは新技術として、王都から情報開示された土壌改良材なのです。しかし、まだ発表されたばかりで適切な使用方法、適量なんかがまだまだ試験途中なのです。その為に様々な農家に試してもらって結果を報告してもらっているのです。今ならシェルパウダーは安く買うことができますよ」
どうやら、作物にとってはいい物っていう認識だけで種別の使い方や適量施肥何かは試験段階みたいだな。所謂効果の是非を調査する為に農家からの声を集めてるんだろう。
恐らく、シェルパウダーを施用して作物の生育が良くなったのならもしかしたらこの地域の土は酸性土壌なのかも。
「えっと、自分の国では土壌の適正度を測る液体があるのですがこの国には無いのですか?」
「適正度を測る液体ですか?えっと、それは何を測る液体なんですかね?」
俺はph度について簡単に説明した。と言うか俺も簡単なことしか分からないし、取り敢えず作物には適正phがあって、それに近づけることで作物の育ちがMAXになるという話を伝えた。
「なるほど、そして今コウダ様はその測定するための液を持っていると。もし、その話が本当ならこれは喉から手が出るほど値打ちのあるものですね…宜しければその液体をぜひ売ってはいただけませんか?」
さすが商人、宜しければとか言って顔には絶対手に入れてやるって書いてあるぜ…。
うーん、この世界に無いものみたいだし、それに持ってる量はペットボトルのサイズ位の容器に2/3程。一生使い続けるなら足りない。量産出来ればいいんだけどな…量産!成程その手があったか!
俺にとっても理になるアイディアが浮かんだ。後はイーラミナさんがどう返答するかだな。




