#1 夢?ここは異世界?
初めまして!ミャークと申します。新しいことと思い出に残ることを始めたくて、小説を書いてみることにしました。初投稿で文章も稚拙な部分、間違え等あると思いますが、よろしくお願いします。
仕事の合間等時間に余裕がある時に書いてるので、連載は不定期になると思います。
「ーーーあちゃー、やっぱりベアリングもやられてるな。これじゃ、チェーンの張りも正常じゃなくなるし、オイル漏れを放置するとこんなになっちゃうんですよね」
土を耕す機械、耕耘機の故障原因が分かり、お客さんに丁寧に説明する。どうやらオイル漏れに気が付かずそのまま使った上に、購入から数年経ってもオイルを変えたことがなかったようだ。
性能の落ちたオイルでは満足に潤滑出来ず、また鉄粉が溜まりに溜まってベアリングを傷め、最終的にオイル漏れで故障したようだ。
「そうかー、エンジンオイルはチェックしてたんだけどね。あんまり機械のこと分からなくて…修理代結構かかりそうか?」
「そうですねー、この調子だとチェーンも伸びきっているだろうし、見たところ耕耘爪の磨耗も結構進んでる。全部引っ括めるとーーーこれくらいかかりますね」
お客さんに問診をしながら俺、耕田巧は電卓を弾いて仮見積もり額を伝える。俺の職業は機械化農業で夢と実りのある農業を実現する手助けを行う農機整備士だ。
「結構いい値段するね。もう少し何とかならないかね?」
「まぁー日々の点検のつけが回ってきた形ではあるんですが、一応この見積もりは現状のザックリとした金額なので、実際にはここまでの額にはならないと思いますよ。まぁー逆も然りなんですが…」
俺は苦笑いしながらお客さんに説明する。農機は過酷な環境で使われる機械なので、日々のメンテナンスと使い方が寿命に直接関わってくる。自分の体を労わるように機械もしっかり労わってやらないと取り返しのつかないことになる。
「うーん、まぁー直さないと捨てるだけだしな…。よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。それじゃお預かりしますねーーー」
俺はお客さんに大方の作業内容と修理期間を伝え、機械を預かることになった。最近は家庭菜園や小規模農家でも大なり小なり機械化農業を始めている。普及することは俺たち農機整備士としてはありがたいんだけど、まだまだ機械の扱いに関して荒さが目立つ。過酷な作業をするための機械だから、人間と一緒でメンテナンスを怠ると重症化しやすい。…まだまだ機械に対して理解が少ない世の中だ。
「さてと、早速バラしていきますかね。メガネメガネっと」
17-19のメガネレンチ、通称メガネを手に取りバラしていく。幸いうちの営業所に修理部品は一式揃ってたから早かったら明日にでも納品できるだろう。ロータリーの修理はよく入るので、ものの1時間程でバラして終わった。
営業所内ではそれぞれ自分の修理スペースがあり、大きな修理(大型トラクターなど)以外は大体そこで行う。俺の修理スペースには工具や部品取りやらなにやら詰め込んだキャビネットの他に、修理で預かっている小型トラクターや刈払機、防除機があった。どれも修理は完了していて、持ち主が取りに来るのを待っている。
「取り敢えず、一服してから組み付けるかなーーーっとっとっと?」
休憩しようと立ち上がった瞬間、立ちくらみにも似た感覚に襲われる。徐々に目の前が真っ白になり、自立しているのがやっとの状態だ。瞼を閉じて、立ちくらみがおさまるのを待つ。段々と瞼を閉じたことによる暗さが見えてきて、フラフラも治まってきた。
瞼をゆっくりと開けるとそこは見慣れた工場ではなく、薄汚れた小屋の中だった。
目を開けると先程まで作業してきた工場とは明らかに違う光景。三方が石造りの壁に、正面の大きな扉と屋根は木造、三角屋根。渋い男のライフマガジンにでも紹介されていそうな、味のあるガレージのようだ。俺自身もそう言った個人所有のガレージには興味津々だったので、こんな状況じゃなければ目を輝かせていた事だろう。
「目を開けたら別の場所って…まさか立ちくらみして実はそのままぶっ倒れて夢でも見てるんじゃなかろうか?」
例に漏れず俺は自分の頬を抓ってみるーーー痛い。どうやら夢ではないようである。まぁー痛いってのすら夢の中での感覚かもしれないのだが…俺はこれからどうすればいいのか?何も考えられず、しばらくその場から動けずにいた。
「取り敢えず現状把握だ。建物を調べてみよう」
俺は小屋の中を探索する事にした。立っている周りには工場と同じで配置も全く変わらず工具やキャビネット、そして少し離れたところにジャッキやらバールやら壁際にあった道具なんかが散乱していた。修理で預かっている耕耘機や小型トラクターなんかもあり、推測するに自分から半径4m位のものは全てあるようだった。
「テレポート?でも、普通道具とかは来ないんじゃないのか?まぁーテレビとかの知識だけども…」
そんなどうでもいいことを呟きながら次は部屋を見渡す。木製の壁、と言うか、木製の扉か?まだ引き戸か押し戸かは分からないが、ちょうど真ん中から光が漏れているのがわかる。そして、扉から見て左側の石壁に木製の開き戸?があった。俺はそちらへと歩みを進める。
「まずはこっちから調べてみるか。思ったよりもしっかりした扉だな」
俺は扉を開けるべくドアノブを握る。
扉はこちら側へと開く仕組みで、俺はそのまま隣の部屋へと入る。一人暮らしには少し大きなキッチンに、4人掛けのダイニングテーブル。向かって左右には縦横1m位の窓が据えられており、薄手のカーテンが取り付けられていた。
「結構いいサイズの家だな。小屋だと思ってたけどガレージ付戸建てか。こっちはレンガなんかも使われてるし、ちょっと洋風なのがオシャレでいいな」
暫く人の出入りは無いのか、少しカビ匂いのと各所にホコリが積もっている。しかし、出ていく前にしっかりと掃除していたようで、整理整頓はされているようだった。
某番組のお宅訪問みたいな気分で、次々部屋を見て回る。この一軒家はガレージ付の3LDKでリビングが12畳位、他の部屋はどれも4畳半位であった。ガレージは長方形型で大体20畳位はあったからかなり大きな一軒家だ。
「さて、部屋は見て回った。これと言って手がかりもないし、外に出てみるか…」
俺は玄関らしき扉へ手をかける。ここがどこなのか、近くに人は居るのか、そもそも夢か現実か?不安はある。
意を決して勢いよく開け放たれた扉からは燦々と降り注ぐ陽光と肌を撫でる心地よい風、草花の爽やかな香りが一度に来た。
暗がりから出てきた為、少し目が眩んでしまったが徐々に目が慣れてくる。やはり、思った通りここは玄関のようだった。
「広い庭だな。でも、少し放置されていたのか?花壇に花と雑草が入り交じってるな。でも、手入れしたらすごく綺麗になりそうだ」
庭と家を囲うように高さ2m程の塀、正面には門があってその先は林が広がり、そのまま真っ直ぐ小道が続いている。この家と同じく人の行き来が無いのだろう、道中チラホラ草が生えている。太陽がちょうど真上近くにあるので今はちょうど昼時。周囲を眺めながらそんな事を考えていたら、門の隣にあるポストが目に留まる。なにか入ってないかと中を調べてみると、手紙らしきものが一通入っていた。
「俺宛じゃないとは思うけど、情報が少なすぎる…ごめんだけど中身を読ませてもらおう」
心の中で手を合わせて開封する。中には2枚の紙が入っており、文字はローマ字体に似ている外国語で何故か理解出来る。ひとまず安心しつつ、なぜ読めるのかと疑問も抱く。
「なになに?“この手紙を読んでいる方へ。私はこの家の家主です。故あって遠方に行くことになりました。おそらく、もう戻ることはありません。この手紙を最初に発見した方にこの家をお譲りします”」
うーむ…やはり夢を見ているんだろうな。普通誰でもいいから家を譲るとはならないだろ。
手紙には続きがあり、この家の権利書の置かれた場所、手続きする役所のある街までの地図が描いてあった。
手紙に従いリビングの一角にある花瓶台へと向かう。それには引き出しが付いていて中には、手紙にある通り土地の権利書が収められていた。
譲渡書には元主と譲り受ける人の名前を記入する欄があり、元主の欄には既に名前が記載されていた。
「エル・バンカー…この人が元の持ち主の名前か結構いい家をタダで渡すくらいだから相当金持ちだったのかな」
ここに居ても何にもならないし、昼時が近いのもあってお腹も空いてきた。
「取り敢えずここがどこで、なぜ、こんな状況なのか知るためにも街に行ってみるしかないか」
俺は改めて記載されている地図を確認する。地図はとても簡素で現在位置とそこからの行き方が書いてあった。街の名前はケーンブーズ。どうやら家の前の小道を真っ直ぐに抜け、突き当たりの三叉路を右手に真っ直ぐ進めば街があるらしい。
「マップアプリなら距離とかも出るから、ゴールが見えて安心だけど、簡単な地図だと先が見えなくて不安になるな」
俺は街へと歩みを進める。どれくらいの距離なんだろうか?5km?10km?それともそれ以上なのか…地図通りに歩みを進めること約15分、目視約1km程先に壁の様な物が現れる。さらに近づくと何やら関所の様なものが確認できた。
「あそこがケーンブーズか、のんびり歩いてこの時間なら急げばもう少し近いな」
思ったよりも距離がないことに安堵しつつ、遂に関所前までたどり着いた。防壁は見た感じ5m程の石壁で多分この街をグルっと一周囲んでいるようだった。
「はーい。お兄さんちょっと待ってねー。初めて見る顔だけど、この街は初めてか?」
関所の門番の人が尋ねてきた。髪は金髪で明らかに外国人。歳は30代くらいか?先ずは言葉が分かって安心だ。
「はい。最近ここの近くの家を譲り受けたので、変更手続きに来たのですが…」
「そうだったのか、所有者変更手続きならこの関所を真っ直ぐ行ったとこに二階建ての役場があるからそこで手続きできるぜ。だが、その前にここを通るために身分証の確認が必要だ」
身分証…当然だがそんなものあるはずもない。ここは正直に言うべきか?だが、怪しまれるのも嫌だしな…上手く誤魔化すしかなさそうだな。
「この家を譲り受ける前は遠方に居たもので、この国の身分証は持っていないんです。自分の国ではこれで大体の手続きは出来たのですが…」
俺はそう言って財布から運転免許証を取り出し門番へと手渡す。
「見た事ねー身分証だな。しかも文字も違うしよ。確かにこの国じゃあ使えないな…」
「ですよね…何か他に手続き方法は無いんですか?」
「あるぜ。ちょっと待ってな」
門番はそう言って、近くにいたもう1人の門番へ指示を出している。その門番は小屋の中から何やらキラキラと宝石のようなものが幾つか嵌め込まれた板を持ってきた。
「この板に書かれてる魔法陣の中央に手を置いてくれ。白く光れば街に入れるからよ」
何を基準にして白く光るか分からない…もしも光らない、若しくは別の色に光ったらどうなるのだろうか。
一抹の不安を抱えたまま、意を決して板に手を置く。すると、淡く白い光が板から発せられた。どうやら大丈夫そうだ。
「おっ、異常なしだな。こいつは犯罪歴のある奴や魔族なんかを判別することが出来る装置でな。犯罪を犯したやつは全世界共通の術式を魂に刻まれる。で、この装置で読み取れるって訳だ」
成程な。まぁー俺みたいな異世界から来たやつには反応しないかもだけど。もちろん犯罪歴なんかはない。
「それじゃ、この名簿に名前を書いといてくれ。あと、犯歴装置を起動した分の料金が発生しちまってるから、兄ちゃんの感じだと…金も持ってねーだろ?工面出来たらでいいからこっちに払いに来てくれ」
そう言って門番さんはグッと親指を立てる。
…なんていい人なんだ。この人とはかなり仲良くなれそうな気がする。職場の先輩と同じ匂いがするぜ。
俺はそう思いながら名簿に自分の名前を記入する。
「うーん、兄ちゃんの国の文字は俺らには読めねーな。名前はなんてんだ?」
「耕田巧と言います。耕田が姓で巧が名前です」
「コウダ・タクミ…っと良し、俺が代筆しといたからよ。兄ちゃん…タクミの苗字と名はこう書くから覚えとくと損は無いぜ」
やはり少しローマ字体に似ているから覚えるのは難しくなさそうだ。俺はとりあえず左袖に刺してあったボールペンでその文字を財布に入っていたレシートの裏地に書き写す。
「色々ありがとうございました。お金は絶対に払いに来ます!最後になってしまったんですが、お名前を聞いてもいいですか?」
「おっ?そういや名乗ってなかったな。俺はこの東門の守衛長をしてる、エドワード・サラリーってんだ。小屋の中にいるのが、トーカス・リッジだ。俺の事は皆が呼ぶ様にエドでいいから、タクミもそう呼んでくれ。」
「分かりました。エドさん、本当にありがとうございました。手続きが終わってお金が準備出来たら来ます」
俺はそう言いながら、小屋の中にいるトーカスさんにも手を挙げて挨拶し街へと入ったのだった。




