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貴方は何を信じますか?
私は今道ひかり、永遠の20歳。
趣味は救済。
職業は巫女。
ルックスは上々だが、決して可愛くはない、男性よりも女性からモテる事が多い。
知能は並、運動神経は抜群、特技は多彩で、好きな物事は沢山ある。
嫌いなものは怠け者。
特筆すべきは目付きの悪さ、まだマシだとサングラスで隠さないといけないレベル。
視線だけで人を殺せる。
サングラスが目立たないように派手な服を好んで着る。
最近は暑さのせいもあってアロハシャツばかりだ。
神様を信じている、というか愛している。
日本のとある神社に産まれた私は、物心つく以前から、神様とともにあった。
彼が神様だと知ったのは5歳の頃、彼が私にしか視えない事を両親から告げられた時。
いつも一人で誰かと遊んでいる私を心の病だと決めつけ、両親に入院させられていた私に、彼が教えてくれた。
「今まで黙っていたけれど、実は僕、神様なんです」
「・・・」
「ここから出たいのなら、誰かの前では、僕はいないものとして振る舞った方がいいよ」
「・・・一つだけ、良い?」
「もちろん」
「愛してる」
それから私は、彼の言う通りにした。
学校にも、高校まで通わせて貰えた。
両親は大学まで進学して欲しかったようだが、家を出たかった私は辞退した。
彼との時間を増やしたかったからだ。
現在はパートタイムの仕事を転々としながら住居も転々とする毎日を送っている。
日本国上層部から時折入る、重大問題の解決とやらの依頼の報酬が非常に大きいので、生活には困っていない。
日雇いの仕事をする目的は、民間に溶け込み、趣味の人助けをする機会を伺う為だけ。
人と寄り添う事が、私達二人の意志だから。
貴方の隣で汗水たらして働く誰かは、ひょっとしたら、この私かもしれない。
初めまして、神様です。
ひかりは僕の事をナギと呼んでくれているよ。
彼女とは、彼女がこの世界に産まれる以前からの付き合い。
色々な世界で、彼女の人生を見守ってきたけれど、彼女の方から僕を見つけてくれたのは今回が初めての経験。
産声をあげたばかりのひかりは、僕の事を見つけると、ピタリと泣くのをやめて、ニコニコと笑ってくれたんだっけ。
何よりも嬉しかったのを良く覚えている。
そう、それはまるで・・・
2023年4月21日、日本、埼玉県、坂戸市。
金曜日のアフターファイブといえば街に繰り出し羽目を外す人もいるのかもしれないが、ひかりはとある倉庫で残業中だった。
疲れていた。
仕事の為、地味な服を着て、サングラスを外しているから、というだけでなく、自らの視線を殺す為、笑顔を絶やさないでいる事が最も辛い。
彼女の視線は、浴びせただけで心臓を止めるものだから、とても危険なのだ。
どんなに嫌な仕事だったとしても、どんなに嫌な相手だったとしても、笑顔を保ち、視線を殺す。
彼女の目付きの悪性は、あまりにも業が深い。
「・・・楽しそうでいいわね」
とか
「・・・頭悪そう」
とかいった陰湿な言葉が聴こえてくるのもいつもの事なので、気にしないようにするのも、また疲れに拍車をかける。
それでも、寄り添うと、決めた以上、寄り添うのだ。
あまりにも強すぎる負の感情は誰の為にもならないので、こっそり視線でオーラだけを殺しておく事も忘れない。
まさにパーフェクトレディ。
体型の出にくい服、癖の強い長い黒髪、野暮ったい眼鏡をかけている。
見る人が見れば美人だと気付く外見だが、可愛さは欠片もない、カッコイイ感じの女性。
通常なら一日かかるリストアップを半日で終わらせ、仕分け作業に飛び入り参加、最後のトラックが出発後も、格納作業を終了まで継続する。
あまり目立ってしまうとお声がかかってしまうのであくまでも程々にしているつもりなのだが、匙加減は微妙なところだ。
いざとなればまた場所を移れば良い。
そんな開き直りもあって、ついつい人助けを優先している。