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「お前、女運悪過ぎ」
「それには君も含まれるのかい?」
「オレはメスだ、女じゃない」
「そうだったね、クスクス」
深夜の無人の公衆浴場で湯舟につかりながら、私はため息をついた。
「幸せが逃げるぞ?」
「誰も見ていなければ良いのさ」
「オレがいる」
「自分自身を見る事は決して出来ないさ、私達は一心同体なのだから」
決して外れる事の無い呪いの毛皮、契約の代償である。
あの満月の夜の戦いの中で、クスクスの災厄を一身に引き受ける為には、神の権能を使っての契約しか手段がなかったのだ。
神器に触れれば神となる事はわかっていた。
人の世の理から外れ、真なる孤独に落ちるとわかってなお、イサミを助け、クスクスを止めたかったのだ。
イサミが傷を負った時、イサミを失ってしまうかもしれない恐怖に打ち勝つ事など、私には出来なかったし、
クスクスと対峙した時、予言の災厄の正体が、かつて私が育てた子熊だとわかった時に、私の道は決まっていたのだろう。
「女は恐いな」
「同感だよ」
クスクスと笑った。
この世には男と女しかいない。
キャラクターの性別は自由だが、プレイヤーの性別は選べない事が唯一の縛り。
この世は巨大な恋愛シミュレーションゲームであり、無限のキャラクターが繰り広げるMMORPGでもある。
プレイヤーの数だけストーリーがあり、自らのパートナーと出会える事を奇跡と呼ぶ。
神とは人類の始祖。
このゲームの最初のプレイヤーにしてゲームマスターでもある。
その真名を、アダムという。神器の持ち主である。
神器とはプレイヤーとキャラクターのランクを最大にまであげてしまう禁忌のアイテムである。
神話の数だけあり、それぞれが伝わる地域でのみ効果がある。
例えば、日本の神器を使えば、日本神話の神となるように。
私達の村に祭られていたのは草薙の剣、またの名をアマノムラクモ、日本の三種の神器の一つだった。
アメノミナカヌシの化身、国を作り、神々を作り、人を作った、人類の始祖神、イザナギ。
その座にまで登り詰めてしまった私が知ったのは、この世が巨大な一つのゲームであるという真実だった。
プレイヤーが魂、キャラクターが肉体だ。
多くのオタク達の夢、ゲームの中に行きたいという夢は最初から叶っていたのである。
コンティニュー?