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それは、満月の夜に現れた。

私の村を滅ぼしたのは、たった一匹の、しかし怪物だった。

大切な人を守る為、私はそれと無我夢中になって戦った。

戦って戦って戦い抜いて、手にしたものは彼女の自由と、私の不自由だった。

私はサブロウ、彼女はイサミ。

そしてそれは、クスクスと名乗った。

正確な場所は伏せるが、私は北海道の大地で育った。

私の暮らしていた村は人を寄せ付けない山奥にあって、山の恵みを頼りに少数の人々が細々と暮らす、そんな隠れ里だった。

源平の合戦で落ち延びた平家とその主達と、先住民との戦いに厭きて疲れた開拓民達を祖先に持つ、

戦から逃れる為に、俗世から離れた世間知らず達の集まりだった。

全員が安徳天皇の子孫であり、神器の剣を祠に祭っている事にさえ、目を瞑れば、それはそれは平凡な隠れ里だった。

私は、そんな村の狩人の家に生まれた。

母は私が幼い頃に病で亡くなっていたが、強く優しい父と、これまた強く優しい幼馴染のイサミがいてくれたお陰で元気に育った。

五つ年上のイサミは私にとって母のようであり、姉のようであり、時には妹のようにもなる、賢く美しい自慢の友人だった。

私は当然のようにイサミに恋をした。

しかしそれは叶わぬ恋でもあったのだ。

イサミは村長の一族の娘であり、生まれついての巫女。

彼女を娶れるものは神だけだ。

誰よりも近くにいながら、生涯手の届かない相手、その筈だった。

全てが変わってしまったあの日、私はまだ10歳でしかなかった。

それは、満月の夜に現れた。

村の頑丈な門を一撃で破壊した轟音で、村中が即座に臨戦態勢に入った。

全員が覚悟をしていた、戦いの時だった。

先代の巫女、イサミの母が予言した通りの日にそれはやってきたのだ。

戦から逃れたとはいえ、戦の深い業を持つ一族の村だ。

準備も万全の筈だった。

しかし、敗北する事もまた予言されていた通りであった。

唐突だが、人には逃れられない業というものがある。

罪や呪いと言い換える事も出来るそれは、様々な形の災いとなる。

そして、災いの中には意思を持つものも当然のようにいるのだ。

人は、自然を搾取し過ぎた。

この星の王を気取る傲慢さにはそれ相応の罰が下る。

文化の絶頂を誇る国、日本。

俗世を離れているとはいえ、生粋の日本国民の主達の村だ。

襲う意思持つ災厄も、王の中の王だった。

国の為、民の為、村の為、家族の為に、負けると知りながら、しかし逃げられない戦い。

多くの村人が死んだ。

戦えなかった者と私とイサミだけが生き残った。

村は滅んだ。

紛れもない敗北だった。

私は、

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