後編
この作品は黒森冬炎様の企画『ライドオン・テイクオフ~移動企画~』参加作品です。
ここは戦地。
戦いはまさに今、始まろうとしていた。
兵士たちは心を奮い立たせて、お互いの自国の発展のためにその命を捧げようとしていた。
殺気が段々その場に満ちていき、何故戦うのかの理由も分らなくなりそうな程の憎しみの色で兵士たちの目が染まってゆく。
風が吹いた。
一羽の鳥が、ふと、戦地の真ん中へと降り立った。
そして物々しい雰囲気に驚き、飛び立つ。
それが合図だった。
それぞれの兵士たちが雄たけびを上げて走り出す。
前衛の剣同士が激しく触れ合い、火花を散らす。
歩兵同士の槍が、鍔迫り合いをして一方の槍がもう一方の兵士の首を刺し貫こうと迫った。
その兵士は自分の命が消えたことを確実に悟り、目を伏せた。
その時だった。
「お待ちなさい!」
少女の澄んだ声が辺りに響き渡り、曇天だった空から眩い光が零れた。
その光の強さに、兵士たちは思わず目を瞑る。
どの兵士たちも光にやられた様に身を伏せた。
「い、一体、何が……⁉」
ある兵士がよろよろと立ち上がり、なおも剣を構えようと手を上げる。
が、
「動かない!」
「お、俺も、だ!」
剣を持つ手がピタリと止まり、それ以上一ミリたりとも動けなかった。
そしてあろうことか、剣という武器が全て粉々となった。
兵士たちは驚愕する。
一人が天を見て、叫んだ。
「あれを見ろ……!」
天から、神々しい白いペガサスがゆっくりと舞い降りてきた。
その背には、少女が乗っている。
リィアーラであった。
リィアーラはまさに聖女としての自覚を持ったのに相応しい、神懸った雰囲気を出していた。
「戦をしてはなりません。もう誰も傷付いてはいけないのです」
リィアーラの声は、まるで一人ひとりの兵士たちに直接語りかけているように聞こえていた。
その真摯な声に、最早誰しもが聞き入っていた。
「戦を止めるのです。これは、神の御意思です」
それを振り切るように、誰かが叫んだ。
「けれど、この戦は国の存亡がかかっているんだ!」
「そうだ、国がかかっているん……⁉」
同調した兵士の言葉は途中で途切れた。
その兵士の前にいつの間にかリィアーラが立っていたのだ。
「ひっ……!」
兵士は驚いて尻もちをついた。
リィアーラの背後からは、まるでオーラが漂っているかのように後光が差していた。
「あなたが傷付くのを、私は見たくはありません。どうか、神の御意思を受け取ってください」
もう兵士は口をパクパクさせるだけで、何も言えなかった。
兵士は思った。
この娘は、神からの使い。それに背くことは、何を意味しているのか。
「お願いします」
リィアーラが頭を垂れて懇願すると、ペガサスも同じ様に傍らで頭を垂れていた。
「あ、あ……」
その兵士はどうにか言葉を発すると涙を流し剣を放り出して号泣しだした。
自分だって、死にたくない。
生きて、故郷の家族のもとに帰りたい。
その思いで胸がいっぱいになったのだ。
号泣する兵士を見た、他の兵士もつられたように泣き出した。
次々に兵士たちは剣や武器を放り出して、リィアーラの元に集まりだした。
その光景を見た、誰かが呟く。
「あの娘は、聖女だ。聖女様が戦いを、神の御意思で止めに来られたのだ」
「聖女様!」
「聖女様!」
もう、誰も戦おうとしない様子を見届けたリィアーラの顔に笑みが浮かぶ。
「神は必ず、両国が平和に暮らせるように、采配なされます。皆は国にお帰りなさい」
「聖女様万歳ー!」
「聖女様、聖女様!」
兵士たちが叫ぶ中、リィアーラはペガサスの背にまた乗る。
ペガサスは、大きく羽ばたいて空へと舞いあがる。
そして、そのまま何処かへと旅立って行った。
こうして、戦は止められたのであった。
聖女として、領国を救ったリィアーラ。
そして、その後、リィアーラの姿を見た物は誰もいないという……。
これは、戦いを止めた、一人の聖女のお話……。
リィアーラの聖女としての物語、如何でしたでしょうか?
この企画を主催してくださった、黒森等炎様に熱くお礼を申し上げます。
ありがとうございました。