半吸血鬼で転生者 ~最強の力を持っていても気ままに生きていたいのでなるべく自重したいのですが、後輩吸血鬼がすごく絡んできて困っています~
『神聖カンカレシア帝国』の帝都、ルヴェンテ。
私――アルシャ・グレンティアはそこの『聖騎士団』で働く騎士の一人だ。
周囲からの評価は、決して悪くはない。むしろ、良い方だと思う。騎士になった時から真面目で、直属の上司からもよく褒められた。
出世したいというわけではないけれど、私は騎士として立派に務め上げてきたのだ。――それも、将来の安泰のため。
はっきり言ってしまえば、私はそういう打算的な考えて、騎士をしている。
表向きには真面目な騎士だけれど、安定した職業である騎士になって、お金を稼いで、私は普通に気ままな人生を送りたいと――そう思っているだけだ。
悲しいことに、私自身は普通からかけ離れてしまっている。
まず、私には前世の記憶がある。記憶と言ってもそれは薄っすらとしたもので、今ではあまりはっきりと思い出せはしない。
けれど、こことは異なる世界で生まれ育ったという事実が、私の知識に備わっていた。
だからだろう……私が、幼い頃から安定した仕事に就きたいと考えるようになったのは。
冒険心でもあれば、それこそ私は冒険者という道も選んだのかもしれない。
実際、この世界にはそういう職業は存在しているし、今日も今日とて、冒険者達はロマンを求めて冒険に励んでいるところだろう。
でも、わたしはやっぱり違う。転生者として幼い頃から大人に近い知識を持っていたのだから、それを生かして楽をしたいと……そう思ったのだ。
もう一つ、私があまり目立ちたくない理由がある。
それは、私には『吸血鬼』の血が流れているということ。
吸血鬼は、かつて世界を支配するほど強大な力を持った種族だと言われている――が、結果的に彼らはその道を選ばなかったという。支配者の道が辿る末路を予期してのことだというが、実際のところは分からない。
私はそんな吸血鬼の血まで引いてしまっている――しかも、半分だけ。
母は吸血鬼で、父は人間という種族ハーフであった。……なので、普通の人に比べたらフィジカルも強い。自分で言うのもあれだけど、見た目は普通に金髪の可愛らしい女の子なのに、本気を出せば屈強な男も軽々と殴り飛ばせてしまうほどだ。
だから、私は『優秀な騎士』としての生活ができていた。
転生者で半吸血鬼――そんな珍しさもあって、できる限り自重はしたいのだけれど、騎士としてはそれなりに活躍してしまっている……そういう人生を、今の私は送っていた。
それでも、比較的上手くやれていたと思う。
この先誰にもバレることがなければ、私はきっと望むままの気ままな人生を送ることができるだろう、と。
「あれ? 先輩も吸血鬼ですよね?」
そう思っていた先ほどまでの私の想いを砕くように、教育係に任命された私の前に現れた後輩騎士は、そんなことを言い放った。
吸血鬼であることが、こんな簡単にバレることなんてあるのかと、私は思わず息を飲む。
「え、えっと……私は吸血鬼じゃ――」
「えー、だって匂いで分かるもん! あたしも吸血鬼だから」
――後輩騎士に吸血鬼が配属されるなんてミラクル、あるのだろうか。
「先輩はもしかして、あたしが吸血鬼だって気付けなかったってことですか? 鈍感――ってわけでもないですよね? どうしてです?」
「それは……その……」
「あー! もしかして、半吸血鬼ってやつですか!?」
「! 知っているの!?」
「やっぱりーっ! 見るのは初めてですけど。ふぅん……吸血鬼の匂いはするのに、血が薄いからなのかな? 先輩は吸血鬼を判別できないんですね。面白いなぁ」
くすくすと、いたずらっぽい笑み浮かべて言う彼女。さらに思いついたように、言葉を続ける。
「そうだ! 半吸血鬼なんて珍しいし、少し血を飲ませてほしいなぁって」
「あなたなにを言って――!」
私が追い詰められていると、その様子を目撃していた少女がもう一人いた。
同じく、今日から私が担当することになっている後輩騎士の一人で、彼女は呆れたような視線を私達に向けて言う。
「そういうの、人前でやらない方がいいですよ」
極めて冷静な口調だった。
私と目の前に立つ後輩騎士は、お互いに顔を見合わせてから、彼女の方を見て尋ねる。
「もしかして……」
「あんたも吸血鬼?」
「そうです」
そんな答えが返ってきた。
ダブルでミラクル――私の元に配属となった後輩騎士は、二人とも吸血鬼でした。
人生で他の吸血鬼に会ったことすらなかったのに、こんな『望まない奇跡』があるなんて、私は想像もしていなかった。
***
私には二人の後輩ができた。
一人は小悪魔系の後輩の名前はレイテ・ネーミラ。ネーミラ家という貴族出身の子で、小悪魔というのはその名の通り、随分といたずらっぽい笑みを私に向けてくる子だ。
もう一人はクール系の後輩の名前はローナ・ファミルトン。田舎出身らしく、とても素直で人の話をよく聞く、真面目でいい子だ。
そんな似ても似つかない二人の共通点は『吸血鬼』であるということ。
同時に、私の元に騎士の『後輩』としてやってきたこと。
そして――
「先輩、先輩、あたしに血を飲ませてくださいって!」
「だから、ダメだって」
「それなら、わたしには……?」
「ローナも、その、ごめんね?」
「あーっ、どうしてあたしの時と態度が違うんですか!? ローナには優しげなのおかしいですぅ!」
「それならあなたも、少しは先輩である私に敬意を払いなさい」
「払ってますよっ。あ、先輩、あそこの喫茶店のコーヒーすごくおいしいんですよ? よかったら飲んでいきませんかっ? 先輩の奢りで」
「今仕事中だからねっ!?」
「……先輩、すごく真面目で素敵」
騒がしいくらいに元気な子、レイテ。
そして私をうっとりとした表情で見る子、ローナ。
二人の吸血鬼に絡まれて、今日も私は困っています。
趣味の吸血鬼物です。
この後は毎日こんな二人とお仕事しながらきゃっきゃうふふしていくと思います。
こういうの好きって方は評価してくださると嬉しいです!