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「キュルーン」
「シャーシャー」
「かおー」
『べんきょう おしえて』
何もない真っ白な空間が、とても賑やかになった。
黒い雫が亀に変身したのは、くーちゃんのカタコト空中文字を整理した結果、〝進化〟に近いものだと結論付けた。
あの後も大変だった。
くーちゃんの進化で大騒ぎした後、緑の雫を挟んで白い雫にもMPご飯をあげたところ、しーちゃんも進化し、手のひらサイズの白猫に変化した。
それをよく思わなかった赤い雫とみーちゃんが、わたしとの約束を破って暴走し、逃げ惑うしーちゃんを、視界から消えるまで追い回した。
そんなしーちゃんを救う為、滅多に動かないくーちゃんを狩り出して、馬鹿2人を追いかけて貰い、その結果が、精霊全員迷子事件。
追いかけたくーちゃん含む4人が、2日経っても3日経っても帰ってこなかったので、精神的にしんどくなってきたわたしは、一旦待つことを諦めて、召喚能力使用による強制気絶を行った。
それから約250日後、強制気絶から目覚めたわたしは愕然とする。
未だに誰も戻ってきていないことに。
焦ったわたしは、4人を送還して、再度召喚。全員2度目なので、問題なく召喚は成功。
途端に、4人全員わたしに抱きつき、進化していたくーちゃんとしーちゃんは泣きっ放し。
事情を聞くと、どうやら4人はそれぞれの位置を把握する力が備わっているらしく、これまではくーちゃんがわたしの傍に居続けてくれたお陰で、どれだけ遠くに遊びに行っても迷わず帰って来れたらしい。
ところが今回、わたしがあーちゃんとみーちゃんの暴走を止める為にくーちゃんを送り出してしまったことから、くーちゃんは2人の暴走を止めることに成功したものの、わたしへの帰還ルートがわからなくなってしまったのだという。
途方に暮れた4人は、再召喚されるまでずっと、わたしを探し続けていた。
そういう話だった。
わたしは、くーちゃんが離れてから3日経った時点で、全員を送還、再召喚しなかったことを反省し、くーちゃんとしーちゃんに謝り続け、あーちゃんとみーちゃんには、最低5年は話し掛けないことを強く心に刻み込み、赤と緑を絶望の淵まで叩き込んだ。神様のように崇められてる精霊? だから?
その後、10回の気絶――実に、7年と11か月(くーちゃんカウント)の懲罰を終え、ようやく許された赤と緑は、その直後のご飯で無事進化を果たし(あーちゃんは、小鳥に。みーちゃんは小さな蛇になった)、今ではとても騒がしい日々を送っていた。
▽
『ごはん いらない しょうかん』
いつも通り気絶から目覚めたある日、神妙な感じで4人揃ってわたしの前に並び、代表してくーちゃんが空中文字を描いた。
何となくピリついた雰囲気だったので、ご飯の前の遊びもなしにして、くーちゃんに言われた通り、召喚を使ってみることにする。
「――『召喚』……………………誰?」
久し振りに成功した召喚。
現れたのは、まるで涅槃を思わせる、横向きに寝ながら、欠伸をしている冴えない中年男。
冴えない中年男は喚び出されて早々、こんな言葉を口走った。
「……や。ボク、精霊王」
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バンリ・サンジョウメ
LV18
HP45/45
MP270/100269(+992)
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