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「――あれ? もうご飯いらないの? くーちゃん」
いつも通り、MPご飯を4人順番に与えていた際、赤い雫に次いで2番目だった黒い雫が、僅かなMPを回収してからふわりとわたしの手から離れていった。
「ふぁ!?」
直後、くーちゃんの身体からよくわからない何かが噴き出しはじめ、気付くと黒っぽい手のひらサイズのメロンパンみたいなモノが浮かんでいた。
よく見ると、それは亀の形をしていて、尻尾の方からはうにょうにょした蛇のようなものが伸びていた。
「……くーちゃん、だよね?」
浮かんでいたくーちゃんらしきモノは、わたしの問いに応える為、蛇のような尻尾を操り空中で文字を書き出した。何故か尻尾がなぞった部分は、そのまま光として残り続けている。
「そ……う? そう? くーちゃんで合ってるってこと? どうなってるの? どうして亀の形に? それにこの文字……」
くーちゃんが書いた文字を理解した瞬間、空中に浮かんでいた『そう』が消え、改めて『できた あがった』と尻尾で文字が描かれた。
まだ訳がわからなくて、若干テンパっていたわたしは、そこから長い時間をかけ、くーちゃんに何が起こったのかどんどん質問していった。
十数分後、すべてを知ったわたしは、膝から崩れ落ちた。
「……精霊? この異世界で神様のように崇められてる?」
あんまり考えないようにはしていたけど、ずっとおかしいなとは思っていた。
それもそのはず。
赤、黒、緑。そして白色の雫型生物なんて、普通に考えているハズがなく、それに加え、まず間違いなく、外とは隔離されているであろうこの空間内で、どうして召喚が成功してしまったのか。どうして召喚に9999ものMPが必要だったのか。どうして4人を召喚して以降、再び召喚が成功しなくなってしまったのか。
ヒントはあった。そう。幾らでもあったのだ。
精霊、という頭を抱えてしまう答えを得てしまったわたしは、もういいや、と言わんばかりに正解と思われる道筋を辿っていく。
この異世界には、5種類の精霊の存在が確認されていて、わたしたち、人種が住む中央大陸から東西南北――つまり、
東にあるエルフが治める大陸、アルテリオには木の精霊が。
西にあるドワーフと獣人が治める大陸、ヘルハイドスには金の精霊が。
南にある鳥獣族が治める大陸、ゼアースには火の精霊が。
北にあるウンディーネが治める大陸、ポセイラには水の精霊が。
それぞれの大陸の守護精霊として神の如く崇められている。
現在この異世界において、顕現している精霊はその4体。
わたしは改めて、周囲を漂う4人を見る。
赤い雫は、火の精霊。緑の雫は木の精霊。黒い雫と白い雫は見た目じゃわからないけど、金の精霊と水の精霊、だよね……。つまり、今外の世界から精霊が消えちゃってる……。……信じられない。
間違いなく、ここ最近の生活の中で心身ともに消耗している中、これだけは聞かなきゃという質問をくーちゃんに投げかける。
「……ねぇくーちゃん? くーちゃんって今まで守護精霊として世界を見守ってきたの? それをわたしが無理矢理喚び出しちゃったの?」
質問の意味を正確に読み取ったくーちゃんは、空中に浮かぶ文字を消し、再び尻尾で文字を描いていった。
『ちがう せいれい べつにいる つかまってる』
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バンリ・サンジョウメ
LV18
HP45/45
MP72204/72204(+714)
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