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――――――――――――――――ペチ。
……。
――――――――――――ペチ、ペチ。
……。
――――――――ペチ、ペチ、ペチ、ペチ。
……んん。
――ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ。
……ああ。もう。
「……起きる、起きるからちょっとだけ待って。……あーちゃん」
気絶から強制的に目覚めさせられた〝わたし〟は、重い身体をゆっくりと起こす。
真っ赤に燃える、まるでルビーを思わせるような雫であるあーちゃんは、わたしの覚醒を喜ぶかのように、縦横無尽にわたしの周囲を飛び回っている。
「あーちゃん……。ちょっとそこに停止」
わたしの不機嫌さを感付いたのか、びくりと小さな身体を震わせた後、ゆっくりとわたしが指示した地点に移動し、止まった。
「あのね? 何度も言ってるようでゴメンだけど、わたしのMPが回復した瞬間を見計らって、頬に体当たりするの、お願いだから止めて。早くわたしと遊びたい、もしくはご飯食べたいって気持ちはすごくわかるよ? わかるけど、MPが回復してからたかだか十数分で起きるんだから、ちょっとだけ我慢して。起こされる側も辛いから」
怒られることがわかったのか、あーちゃんは発光を弱めて、反省の意を示す。
ふと胸元を見る。
まるでブラックダイヤモンドのような輝きを放つ、黒い雫、くーちゃんがわたしにくっつくように佇んでいる。
くーちゃんはいつも通り、甘えん坊さんだね。
くーちゃんを指先で撫でながら、未だ姿を見せない2人の行方をあーちゃんに尋ねてみる。
「わかってくれたならもう大丈夫だよ。ちょっと遊んでからご飯にしようと思うんだけど、みーちゃんとしーちゃんどこ行ったかわかる? わかるなら呼んできて貰っていい?」
みーちゃんは、エメラルドのような輝きを放つ緑色の雫で、しーちゃんはホワイトパールのような艶やかさを放つ白い雫だ。
あーちゃんの召喚後、くーちゃん、みーちゃん、しーちゃんの順番で次々と召喚に成功したのだ。
消費MPは全員9999。
我ながら、引くレベルのMP消費。
クラスメイトの中で、最も高いMPを誇る『統率者』でさえ、MPは800ほどしかなかった。
こんな場所に飛ばされ、MPを増やしまくってない限り、4人の召喚は決して成し遂げれなかったと断言できる。
しーちゃんの召喚成功後も召喚能力を試し続けたけど、4人の召喚後は1度たりとも成功せず、尚且つ、最近は別の目的でMPを使い切ってしまっているので、しばらく召喚は試していない。
わたしの問い掛けに、あーちゃんは小さな身体をぐるんぐるんと振り回し、一目散にとある方向に飛び去ってしまった。
それからほんの十数秒で、赤い光が見えなくなるほど遠くに行ってしまったあーちゃんを見送ってから、胸元で佇むくーちゃんに話しかける。
「くーちゃん。今回わたしどのくらい眠ってた?」
わたしの問い掛けに、ふわっと浮き上がったくーちゃんは、空中に『9』と『7』の数字をなぞるように移動した。
「97日。……ごめんね、ずっと寂しい思いをさせて。……やっぱり、MPを使い切って気絶するんじゃなくて普通に眠った方がよくないかな? そうすれば1日でMP全快するし、ご飯もたくさん食べれるよ?」
わたしの言うご飯とは、MPを4人に注ぐこと。
ある日、4人と遊んでいる際、偶然にも雫の身体にMPを注げることを知り、その際、全員が物凄く喜んだことから、召喚でMPを使い切るのを止め、全員にご飯としてMPを注いでいたのだ。
わたしの言葉にくーちゃんは身体を左右に振る。わたしが教えた否定のジェスチャーだ。
この子たちは言葉を話すことはできないけど、わたしの言葉はどうしてか理解し、その上で、どうもわたしのMPを更に伸ばしたいという意図があるらしく、何度同じような話をしても断られてしまう。
こちらとしても、100日近くこの子たちを放置するのは忍びないけど、彼らの願いを無碍にする訳にも行かず、未だにMP上昇に務めている、という訳だ。
「でも、100日か。あの子たちも戻って来ないし、そろそろくーちゃんには〝年〟という概念を教えようかな? 聞く?」
くーちゃんは、嬉しそうに身体を前後に倒した。「勿論」と。
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バンリ・サンジョウメ
LV18
HP45/45
MP16231/16231(+160)
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各雫たちの名前の由来。
あーちゃん……赤色だから。
くーちゃん……黒色だから。
みーちゃん……緑色だから。
しーちゃん……白色だから。
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