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魔法や能力の一部を使う際に必要となるMP。
基本的には、魔物を倒すことによって上がるレベルに比例してMPは増えていくけれど、それ以外にもMPを上げる方法は存在する。
それは、MP枯渇による強制気絶を繰り返すこと。
この方法は世間一般的に広く知られ渡っていて、気絶そのものに対するデメリットはない。
起きた際にはもうMPが上がっているし、実際、一定のMPに到達するまではこの方法でMPを上げていくのが一般的だ。
MP量に比例して気絶時間が延びるというデメリットが辛いとこ。
気絶時間は、人によって若干の差異が出るものの、わたしの場合は1回の気絶は3時間と少し。
MP40に満たない状態で、だ。
気絶時間はMPに比例して伸びていき、200を超える頃には、丸1日近く一切目覚めない。
気絶時間は当然食事も摂れない上に糞尿も垂れ流し。
当然ずっと寝たきりになる訳にもいかず、健康バランスを考えても数日に一度程度しか試せない上、上がるMPは全体の1%。つまり例えば500のMPがあったとしても、MPはたったの5しか増えない上に、気絶時間はどんどん伸びていってしまい、身体に致命的なダメージを与えてしまう。
つまり、大きなデメリットにメリットが釣り合わず、方法こそは流通していてもそれを使って、飛躍的にMPを伸ばそうという存在は皆無だった。
わたしが女神から得た能力は『召喚』。
効果は『MPを消費し対象を召喚する。召喚した対象は従属状態となる』というモノで、一度召喚した対象は、二度目以降指定して喚び出せるらしいけど、初回は捧げるMP量によって強さは異なるらしいけど、基本的にはランダムで喚び出されるという、使い勝手的にも微妙な上、強烈なデメリットもあった。
それは、わたしの最大MPなんかで喚び出せる対象がいなかったということだ。
この為、肉体的な能力値は一般女子よりは優れていたとはいえ、それでも能力なしに魔物と対峙できるかと言われれば厳しく、パーティー内では〝役立たず〟の烙印を押されてしまっていた。
ちなみに、それなら一定のMPまで強制気絶をしていけば、と思うかもしれないけど、オートロックのある室内で、というならともかく、セキュリティも低く、安全性がほとんど確保できない異世界において、数時間絶対に起きれない、というデメリットは見過ごせるはずもなく、召喚能力を試しに使って、クラスメイトの前で気絶してしまった時以来、その方法は使えずにいた。
ま、ここならそのデメリットはほとんど消えちゃうんだけど。
この真っ白な精神世界に於いては、食事も排便も必要なく、長い気絶時間による健康被害も、他者による襲撃、強姦の可能性も皆無。
まず間違いなく、あの魔道具、『魔導死霊の頭飾り』は、この為に作られたと断言できる……けど、木南が――ううん、教会がそのことに気付かなかった訳がない。
教会も当然、この強大な効果には気付けたはずだ。
外の世界に於いて体感時間は一瞬。中では気絶し放題、MP上げ放題。
そこのみ綴れば、最早神の魔道具に等しい。
それなのに、櫟原は『まともに返ってきた者は誰一人いない』って言ってた。つまり――。
「――誰一人として、精神が保てなかった」
100年。言葉にすると一言だけど、そう簡単な時間じゃないらしい。
「……ふっ。あは。あはははは。…………じゃあ勝負だ、100年。わたし。そして、三條目万里の心が壊れるのが先か、それとも……ふふっ……ふふふあはははは!」
――100年を突破するのが先か。