表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20


「……何も、ない」


 どのくらい眠っていたのかわからない。

 その場からゆっくりと身体を起こすと、辺り一面真っ白な世界に覆われていた。


 ……手足の凍傷も綺麗サッパリ消えてる。……『魔導死霊の頭飾り(リッチ・ティアラ)』も頭にない。……『魔導死霊の頭飾り(リッチ・ティアラ)』を被らされた木南(きなみ)の様子を見るに、外の世界じゃ一瞬だったけど。この空間ではもう数分経ってる。……凄いね魔法……というか呪いか。


 櫟原(いちはら)が効果をバラしてくれた呪われた魔道具、『魔導死霊の頭飾り(リッチ・ティアラ)』は100年間、魂だけが閉じ込められる。という内容だった。

 

 成程。魂だけって言うだけあって、魔物と戦った際の細かい傷は全部ないし、服も下着もこの世界に来た時の制服のまま。……へぇ。髪まで戻ってる。


 転移した異世界は、中世ヨーロッパレベルの文明しかなく、シャンプーやリンス、トリートメントといったものが存在しない。

 そのせいで、腰ほどまで伸ばしていた髪を切ってしまおうかと一時本気で考えてた。


 最初の頃は、ただの水だけでフケとか出ちゃってたなぁ。……ま、途中で頭皮が慣れたのかそういうこともなくなったけど。


 アスファルトに咲く花、という言葉があるように、劣悪な環境なら環境なりに身体が慣れてくる、というのをその時身を以って実感した。


 ……まずは自由、って呼ぶには不自由な環境過ぎるけど、それでも自由を満喫しようかな。


 そう呟いて、べちゃっと崩れ落ちた。

 他人からどう見えているのか、というのは一切気にせずに。


 色々、思うとこもあるし仮説も立てれるけど、まずはだらけよ。


 この異世界に来てから、約半年。

 毎日が本当に慌ただしく、せっかく〝わたし〟に戻れていたというのに、気を抜ける時間なんてほとんどなかった。

 だから、せっかくの機会を満喫しようと、まずはぐったりと過ごすことに決めた。

 ――おやすみなさい。


 

 ▽



 飽きた。

 残念なことに、体感でまだ3日も経ってない。

 三條目万里として過ごしてきた12年と、異世界に来てからの半年分の〝ツケ〟がこの程度だったことに少し驚いたけど、ちゃんとした暇つぶしがあれば違ったと思う。多分。

 

 はぁ。……さ、諦めて、100年分の過ごし方を考えようかな、と言っても、もうやる事なんて1つしかないんだけど。


 真っ白な地面の上で溶けている間にも、『魔導死霊の頭飾り(リッチ・ティアラ)』を被らされ、変わり果ててしまった木南の姿から、わたしは幾つかの仮説を立てていた。

 

 髪が白髪になっていたし、絶望的な顔を浮かべていたけど、年自体は変わった感じはなかった上に餓死したような雰囲気もなかった。だから、多分食事は必要ない。


 仮説はだらけている間に立証できた。

 空腹までの時間を計測するついでに、どれくらいまで起きていられるか試してみたけど、体内時計で24時間経過した時点で、一切の空腹や眠気、更には便意も感じなかった。


「………………はぁ」


 ずっと逃げてたけど、これが100年間の過ごし方がどうなるかの分かれ目。


「――『能力値ステータス解放オープン』」


 ===========


 バンリ・サンジョウメ 

 LV18(+1)

 HP45/45(+3)

 MP39/39(+1)


 ===========


 目の前に表示された半透明のパネルに表示されたのは、わたしの名前、レベル、HP(ヒットポイント)MP(マジックポイント)だ。

 HPは0になれば死に至り、MPが0になれば全回復まで強制的に気絶してしまう。

 当たり前に魔物が蔓延るこの世界に於いて、HPは当然のことMPを使い果たすということも死に等しい。


「……39。……さぁ、どうかな。――『召喚』。っ」


 一瞬でMPの表示が0に代わり、グラりと視界が揺れ、上体を起こすだけの恰好だったけどその維持すら不可能になり、べちゃりとその場に横たわる。

 世界が闇に包まれるまで、そう時間はかからなかった。



 ……。


 MP枯渇による強制気絶から目覚めたわたしは、再び能力値ステータスを確認する。


「……『能力値ステータス解放オープン』」


 ===========


 バンリ・サンジョウメ 

 LV18

 HP45/45

 MP39/39


 ===========


 ……変わってない。……まだ


「――『召喚』」


 

 ▽



「…………『能力値ステータス解放オープン』」


 ===========


 バンリ・サンジョウメ 

 LV18

 HP45/45

 MP40/40(+1)


 ===========


 その画面を見た瞬間、わたしは大の字に転がった。


 100年間の過ごし方が決まった瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ