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「……何も、ない」
どのくらい眠っていたのかわからない。
その場からゆっくりと身体を起こすと、辺り一面真っ白な世界に覆われていた。
……手足の凍傷も綺麗サッパリ消えてる。……『魔導死霊の頭飾り』も頭にない。……『魔導死霊の頭飾り』を被らされた木南の様子を見るに、外の世界じゃ一瞬だったけど。この空間ではもう数分経ってる。……凄いね魔法……というか呪いか。
櫟原が効果をバラしてくれた呪われた魔道具、『魔導死霊の頭飾り』は100年間、魂だけが閉じ込められる。という内容だった。
成程。魂だけって言うだけあって、魔物と戦った際の細かい傷は全部ないし、服も下着もこの世界に来た時の制服のまま。……へぇ。髪まで戻ってる。
転移した異世界は、中世ヨーロッパレベルの文明しかなく、シャンプーやリンス、トリートメントといったものが存在しない。
そのせいで、腰ほどまで伸ばしていた髪を切ってしまおうかと一時本気で考えてた。
最初の頃は、ただの水だけでフケとか出ちゃってたなぁ。……ま、途中で頭皮が慣れたのかそういうこともなくなったけど。
アスファルトに咲く花、という言葉があるように、劣悪な環境なら環境なりに身体が慣れてくる、というのをその時身を以って実感した。
……まずは自由、って呼ぶには不自由な環境過ぎるけど、それでも自由を満喫しようかな。
そう呟いて、べちゃっと崩れ落ちた。
他人からどう見えているのか、というのは一切気にせずに。
色々、思うとこもあるし仮説も立てれるけど、まずはだらけよ。
この異世界に来てから、約半年。
毎日が本当に慌ただしく、せっかく〝わたし〟に戻れていたというのに、気を抜ける時間なんてほとんどなかった。
だから、せっかくの機会を満喫しようと、まずはぐったりと過ごすことに決めた。
――おやすみなさい。
▽
飽きた。
残念なことに、体感でまだ3日も経ってない。
三條目万里として過ごしてきた12年と、異世界に来てからの半年分の〝ツケ〟がこの程度だったことに少し驚いたけど、ちゃんとした暇つぶしがあれば違ったと思う。多分。
はぁ。……さ、諦めて、100年分の過ごし方を考えようかな、と言っても、もうやる事なんて1つしかないんだけど。
真っ白な地面の上で溶けている間にも、『魔導死霊の頭飾り』を被らされ、変わり果ててしまった木南の姿から、わたしは幾つかの仮説を立てていた。
髪が白髪になっていたし、絶望的な顔を浮かべていたけど、年自体は変わった感じはなかった上に餓死したような雰囲気もなかった。だから、多分食事は必要ない。
仮説はだらけている間に立証できた。
空腹までの時間を計測するついでに、どれくらいまで起きていられるか試してみたけど、体内時計で24時間経過した時点で、一切の空腹や眠気、更には便意も感じなかった。
「………………はぁ」
ずっと逃げてたけど、これが100年間の過ごし方がどうなるかの分かれ目。
「――『能力値解放』」
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バンリ・サンジョウメ
LV18(+1)
HP45/45(+3)
MP39/39(+1)
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目の前に表示された半透明のパネルに表示されたのは、わたしの名前、レベル、HP、MPだ。
HPは0になれば死に至り、MPが0になれば全回復まで強制的に気絶してしまう。
当たり前に魔物が蔓延るこの世界に於いて、HPは当然のことMPを使い果たすということも死に等しい。
「……39。……さぁ、どうかな。――『召喚』。っ」
一瞬でMPの表示が0に代わり、グラりと視界が揺れ、上体を起こすだけの恰好だったけどその維持すら不可能になり、べちゃりとその場に横たわる。
世界が闇に包まれるまで、そう時間はかからなかった。
……。
MP枯渇による強制気絶から目覚めたわたしは、再び能力値を確認する。
「……『能力値解放』」
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バンリ・サンジョウメ
LV18
HP45/45
MP39/39
===========
……変わってない。……まだ
「――『召喚』」
▽
「…………『能力値解放』」
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バンリ・サンジョウメ
LV18
HP45/45
MP40/40(+1)
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その画面を見た瞬間、わたしは大の字に転がった。
100年間の過ごし方が決まった瞬間だった。