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「万里お嬢様。これから私共がお嬢様の身の周りのお世話と担当させて頂きます」
そんなことを言いいながら、両親の葬儀が終わったその日の内に、彼らはわたしの家にやってきた。
わたし、三條目万里が5歳の頃の話だ。
三條目グループ。
日本を陰から牛耳る、十大グループの中の1つ。
その総帥がわたしの祖父――三條目幻水だった。
本来であれば、祖父の座を継いで総帥になるのは、祖父の1人娘である母であったが、その母が飛行機墜落事故によって帰らぬ存在をなってしまい、その代打と選ばれたのがわたしだ。と言ってもわたしにもまた兄妹がいなかった為、選ばれるのは必然だったけど。
三條目グループの総帥という立場に憧れはなかった。
ただ、幼い頃より、それが当たり前だとだけ思い、日々、とても優秀な人たちと共に己の研鑽に励んでいった。
「っ! 何度言えばわかるのです! その死んだような顔を表に出してはなりません!」
7歳の頃だ。
わたしは、わたし自身を否定されていることに気付いた。
暗くて、陰湿で、誰とも関わりになりたくない。そんな側面を出せば即座に教鞭を振るわれた。
それが痛くて辛くて。
気付けばわたしは、誰しもの理想である〝三條目グループの令嬢、三條目万里〟という仮面を被っていた。
一度その仮面を作ってさえしまえば楽だった。
見本となる材料はそこら辺に転がっていたし、聞けばすぐに教えてくれた。
わたしは、まるでシミュレーションゲームのように、朝から夜、更に眠っている時まで、架空のキャラクター、三條目万里をカタカタと操り、「笑える。誰も気付かないんだ」と日々面白可笑しく過ごしていった。
転機が訪れたのは、高校2年に上がってすぐに訪れた修学旅行。
その飛行機の中で、エンジンの爆発が起きた。
幼い頃に両親の死因が、事故に見せかけた他殺と聞いていたわたしは、当然両親と同じ目に遭わないように、飛行機墜落に於いてのマニュアルを叩きこまれていた為、すぐさまコックピットへ向かいそこで意識が途切れた。
気付くと、白と金で構成された美しい神殿の中にわたしを含むクラスメイト24人がいて、神殿内には女神と名乗る存在が鎮座していた。
女神は、わたしたちの〝死〟と異世界転移について説明した。
その際、異世界は魔法や精霊があるファンタージー世界だということや、異世界で簡単に死なないように、元の世界では有り得ないような超常的な力、『能力』が各々与えられるなどという説明をしてくれたが、三條目万里にとってはともかく、〝わたし〟としては、どうでもよかった。
生きている間は絶対出せないと思っていたわたし自身を解放する機会が巡ってきたからだ。
女神による異世界レクチャーが続く中、誰からも求められた完璧かつ完全な、三條目万里から、誰からも求められることのなかった、わたしに、その時、切り替わった。