18
……。
黒龍のロリィによって砂浜に降り立ったわたしは、砂浜から続く森に視線を向けた。
人は、いない。……確かに〝コレ〟はいない。
映ったのは、わたしより頭一つ以上大きい樹玉朔也の背をも越える長さの雑草が、一面生い茂っていたからだ。
よくよく見れば、獣道っぽいものは確認できるけど、それは本当に小さな道で、人が通れるレベルのものじゃない。名前通り、獣の通り道になっているに違いない。
これ、逆に危ないんじゃ。
この異世界に魔物がいるってことは理解してるし、ある程度の危険は仕方ないと思っていた。
だけどここは余りに視界が悪過ぎて、相手がわざわざ自己主張してこない限り、それらの接近に気付ける気がしない。
(ロリィって魔物の接近は気付けるの?)
(むぅ。当たり前なのです。この島中の魔物の位置もわかるのです。ちなみにこの近辺にいた魔物は、わたしを見るなり一目散に逃げ去っているのです)
そう言って、ドヤ顔をわたしに向けるロリィ。
龍の顔でその顔って。器用なことするね。
あーそうですか。無駄に警戒して損した。
やっぱり、ロリィって凄いんだね。クラスメイト相手に無双した時点でわかってたけど。
じゃ、心配ごともなくなったから早く4人を喚ぼう。
チラっと一緒に連れて来た2人を見る。
千奈津はキョロキョロしながら周囲の警戒を。樹玉くんは抱えていたエリザベスを砂浜に置いて心配そうな表情を浮かべている。
……人形であるはずのエリザベスがOTLの形を作っているけど見なかったことにしよう。
「2人共、今から4人召喚するけど驚かないで」
「はい」「わかった」
(聞こえた?)
(むぅ。何を喚んだとしてもわたしが驚くことなんてあり得ないのです)
あ、そう? ……ホントに?
2人と1匹の許可が取れたので、召喚を開始する。
まずは朱莉。必要MPは109万2000。……最初は9999だけだったのに。……ホント、必要MP上がっちゃったね。
ボロ服少女やロリィでわかる通り、基本的に二度目以降の召喚に必要なMP量は減少する。
ただし、文字通り存在の格が違う4人を喚び出す為のMP量は膨大になってしまっている。
まぁ、今のMP1800万以上あるし、一日寝れば全開するからほとんど問題ないんだけど。
つまるところ、今日使った40万MPはわたしの中じゃ誤差でしかない。……まだレベル18なんだけどね。
朱莉を始めとして次々と召喚を続ける。
朱莉召喚必要MP……109万2000P。
黒梔子召喚必要MP……126万6000P。
緑神楽召喚必要MP……109万2000P。
白苑召喚必要MP……148万8000P。
合計召喚必要MPは約500万。
これを多いと見るべきか、4人纏めても3分の1しか消費しないわたしのMP量が凄いと言うべきか迷うところ。
各々必要MPが違うのは、わたしがあげたMPご飯量の差。
あーちゃんとみーちゃんは、よくしーちゃんを揶揄っていたので、2人分へあげるご飯をくーちゃんとしーちゃん。特に揶揄いの対象となっていたしーちゃんに多めに流していたのだ。
それが更なる原因となってあーちゃんとみーちゃんに睨まれたしーちゃんだったけど、わたしがそれを易々とが許すハズもなく、発見(くーちゃんからの密告含む)次第、厳しい罰則(完全存在無視、勿論ご飯抜き)を繰り返した結果、ようやく表立ってしーちゃんを揶揄われることはなくなった。
つまり、相性の関係もあるだろうけど、4人の中で一番力を持っているのは白苑なのだ。だから、姉兄に負けるな頑張れしーちゃん。
「アタシがぁーーキタッ!」
あーちゃんが飛び出る。例によって学生服。
くーちゃんも変わらず着物姿。そのままわたしの左腕に抱きつく。
「無事のご帰還、心より祝福申し上げます」
仰々しく片手を胸元に当てお辞儀するみーちゃん。
体形が子供なのに執事服を着こなす姿は最初違和感凄かったけど今やすっかりも見慣れた。
「えーと……この前はいってらっしゃいを言えなくて……すみません、でした」
しーちゃんだけは、恥ずかしそうにロリィの影に隠れていたせいでほとんどメイド服が見えない。えっと、それ龍だよ? ちゃんとわかってる?
「……ッ!?」
(……まさか、精霊なのですか?)
自身の死が間近に迫った際も表情を崩さなかった2人、千奈津と樹玉が物凄いビビってるのがわかった。なんとなく存在がヤバいってわかったのかな? 実際そうだし。
そしてロリィ、当たり。
んと、二度説明するの面倒だから声出してもロリィには伝わるよね?
「それぞれ紹介するね。今しーちゃんが隠れてる黒龍がロリィ。その子に助けられてダンジョンは脱出できた。こっちはわたしの記憶で知ってると思うけど、北大路千奈津と樹玉朔也。成り行きで連れてきた。詳しくは省くからあとで(記憶を読める)あーちゃんから聞いて。で、ロリィ、千奈津、樹玉くん。左から朱莉、黒梔子、緑神楽、白苑。全員大精霊」
あっと、わたしは腰に下げてた『魔法の収納鞄』から『魔導死霊の頭飾り』を取り出す。
「『魔導死霊の頭飾りのせいで100じゃなかった、ちょっと理由があって300年魂だけ閉じ込められてて心が死んじゃうトコだったけど、この子たちを召喚して楽しく暮らしてた。精霊の立場は知ってると思うけどあんまり恐縮しないで仲良くしてあげて』
「「……」」
誰もがわたしの説明を沈黙で返す。
ん? 何か問題あった?
取り敢えず千奈津、樹玉くんペアを見ると、2人共固まってる。まぁこれは仕方ない。この世界じゃ精霊=神様って教えこまれてるしね。で? 精霊グループの4人は? ……? なんで全員目を輝かせて……――
「チナツ!? 本物!? 会いたかったぁ! 今までバンリを守っててくれてありがとな! 何かあったら言え! アタシが助けてやる!」
……え?
あーちゃんが千奈津に飛びつくのを皮切りに、緑神楽、しーちゃんも感謝の言葉を。更にはわたしにベッタリだったくーちゃんまで一時わたしと離れ、丁寧にお辞儀と礼を口にした。
その光景を目の当たりにしてようやく状況を理解する。
そっか。あーちゃん、わたしの記憶を読めるから……。
異世界に来て、架空のキャラクター〝三條目万里〟から〝わたし〟に戻った際、それまでと変わりなく、わたしの傍に居続けてくれた千奈津。
わたしの子供と言っても過言じゃない4人にとって、そんな千奈津は感謝を尽くすべき存在だったということだ。
当の千奈津はと言うと、会った事もない4人の大精霊に、次々と謝辞を述べられ、どうすればいいかわからず、涙目でこっちを見ていた。
その姿は、ずっと彼女の傍にいたわたしでさえ滅多に見れないモノだった。
最後にチラっとロリィを見ると、我ここにあらずといった感じで、大精霊たちと千奈津のやり取りを眺めていた。
ほらね、驚いた。
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