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上空3000メートル。
嘘。高いのはわかるけど、流石に正確な高度まではわからない。
ただ、地上にいる人の姿が視認できないほどには高い。
40階層ボス部屋から無事転移門を通じて脱出したわたしたちは、ロリ黒龍によって雑に転移門に投げ飛ばされた11人の介抱をしていた〈エルシオ聖国〉所属兵士からの追求を、再度召喚し直したロリ黒龍を使って力尽くで空に逃れ、逃避行に勤しんでいた。
ちなみに再召喚で負担したMPは7万1000。
ボロ服少女に使った10万MPを含めると40万ポイントくらいMPを消費してしまっているけど、それでもあの子たちの1人分にも満たない程度なので余り気にしないことにする。
「大丈夫、エリザベスたん。この子は安全だから」
何故か、震えながら主にしがみ付いてるようにしか見えない人形、エリザベスに優しく話し掛ける樹樹玉朔也。
「万里。どこ行くの?」
「今決めるから待ってて」
命綱なし、落ちたら一発終了なのにも関わらず、普段の態度と変わらずわたしに接してくる北大路千奈津。
不老不死の加護がついてるわたしは、ある程度高さへの恐怖は抑えられるけど、千奈津も樹玉くんも動揺なさすぎない?
(ロリツンデレ黒龍?)
(むぅ。その名を今すぐ撤回しなければ、急降下と急上昇を繰り返しますけど)
むしろ千奈津と樹玉くんの慌てふためく顔を見てみたくはあったけど、自分でも酷い名前だと理解していたので、少し反省する。
(名前呼ぶから教えて)
(ないのです。名など龍の世界では必要ないですから)
(じゃあ何て呼べばいいの?)
(わたしが不愉快にならなければそれで)
黒龍だから……くーちゃんはもういるし。
というか、むやみにちゃん付けは止めた方がいいよね。
(ロリィか、ツンディどっちがいい?)
(…………………………。ロリィ、で)
……物凄い葛藤が伝わってきたんだけど。
どっちも嫌なら別に違う名前でもよかったんだけど。
まぁ、選んでくれたならもう変える気ないけど。
「千奈津。この子の名前、ロリィに決まったから仲良くしてあげてね」
「はい。……それで、目的地は」
「あ」
そうだった。完璧忘れてた。
(えーと。空に浮かんでる島ってある?)
(わたしの知る限りないです。雲の上まで連なる山はありますけど)
(んー。いいや。別に高い場所に行きたい訳じゃなくて、安全なところを求めてるから)
(何を基準とした安全かによりますけど、完全な完全は存在しないのです。人のいない場所には魔物が。魔物のいない場所には人がいるのです)
(成程。じゃあ人のいない場所で)
最悪、魔物はロリィに頑張って貰うけど、人はなるべく殺したくない。今は、だけど。
ロリィはわたしの意見を聞いて、巨大な湖の中央にある孤島を提示してきた。
ロリィの話によると、湖には強烈な強さを誇る〝主〟が住み着いている為、島には誰も近づけず、島内は独自の生態系を築いているという。
(そこでいいよ。不便そうだったらまた別の場所をお願いするから。えーと。ちなみになんだけど、わたしたちを降ろしたあとって、すぐ送還しないとマズい?)
(不要、というか止めて欲しいのです。サイズの問題で先程の転移門を潜れず、仕方なく帰りましたけど、わたしは帰っても暇なのです。だからすぐに喚び出してくれて嬉しかったのです)
言葉の節々から感じられる嬉しそうな感情から、余程刺激に飢えていたことが伺える。
ツンデレじゃなかったんだ。ただ素直にお願いできなかっただけで。
……ツンディの方、選ばれなくてよかった。
(わかった。見てわかると思うけど、わたし召喚以外に能ないから、何かあったら宜しく)
(その召喚がどれだけ……いえ、わかったのです)
何か呆れられたように感じるんだけど。
見栄を張ってても仕方ないよね?
無人島に向かうことになったことを千奈津に告げ、しばらく空の旅を楽しんだ。
やがて、進行方向に目的の場所が見えてくる。
「海? ……違う」
視界に広がる水面の広さに海と誤解してしまいそうになったけど、空から見える景色のギリギリ範囲に岸が見える。空からでさえこれだ。地上からだとまず海にしか見えない。それほどの広さだった。
目的地の孤島は、丁度湖の中央に位置するところに存在していて、直径5キロくらいはありそうなのに、余りに湖が広い為に、どうしても小さく見えてしまう。
島は瓢箪、というか洋梨のような形をしていて、見える範囲はほとんど木に覆われているけど、中央部分は円状に切り開かれている。
かなり不自然だけど、ロリィが人間はいないと断言している以上、島に住む他の何者かの仕業だと思われた。
降りられそうな場所を見つけたロリィは、周回しながら高度を下げていく。
そうしてわたしたちは、無人島に降り立ったのだった。
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