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精霊……王。こんな冴えない中年が?
だらしない見た目や雰囲気はともかく、名前がヤバいと思ったわたしは、一瞬、完全、完璧の三條目万里を操作しようか悩んだけど、そうすると他の4人が混乱してしまう、と考えを改め思い留まった。
「……えーと」
「待って。……何この空間。ボクの力、繋がってないんだけど。……んー。完っ全に〝外〟と隔離された世界なんだ。凄いねコレ。キミが作ったの?」
「……違い、ます。……『魔導死霊の頭飾り』という魔道具の効果で、100年間、魂だけを閉じ込める効果があるみたいです」
わたしの敬語を初めて聞いたであろう4人が、わたしの後ろでわちゃわちゃやっている。……お願いだから黙ってて。
「あー。そういう人間にしか伝わらない言葉使いいらない。ポイだポイ。ほら、後ろの子たちもビックリしちゃってるじゃん。……ふーん?でも、そんな効果を持つ魔道具なんてあるんだ。ふーん。ま、でもそのお陰で、あの子たちの代わりになる上位精霊が生まれてくれたんだけど」
「……ええと」
完全に置いてかれてる。
溜まったもんじゃないのだから、情報を共有して欲しい。ただ言っていいものか迷う。
「ま、色々聞きたいことあるよね? でも、悪いんだけどボクの〝たった1つのお願い〟以外は、その子たちから聞いてくれるかな? ……うん、〝水〟と〝金〟は問題なし。〝火〟と〝木〟は……。ま、せっかく無理矢理来たんだし、オマケかな?」
冴えない中年男こと精霊王は、頭を支えてない左手を軽く振る。直後、わたしの周囲を漂っていた4人が一斉に光り出した。眩しい!
ふと、わたしの左腕をぐるんと絡む感触を感じ、薄く目を開けると、見た事もない人間がぎゅっとわたしの左腕にしがみ付いている。なにこれ? 誰これ?
「あー。やっぱり火と木は早かったか。ま、問題があるのは見た目だけだし、いいよね? というか、内包魔力にそれだけ差があるってことは、この子に差別される何かをしたってことでしょ? ぷぷっ。自業自得だね」
赤い小鳥と緑の蛇のことだと思われる話題を出した精霊王はケラケラと笑ってる。
光自体は収まった。だけど最初の光が目に焼き付いてしまっていて、未だに視界が開けない。
「ええ!? くーちゃんもしーちゃんもズルいぞ! アタシ、もっと大きくなりたかったのに! しーちゃんしーちゃん! アタシと身体取っ換えて! 早く!」
「え……あの……すみません……」
「ふふ。丁度いいじゃないか。この見た目だからこそ、僕らが犯した罪をいつまでも忘れないでいられるということさ。しかしだ、しーちゃん。これは兄からのささやかな忠告だけど、見た目がすべてだなんて思わないことだ。決してね?」
「は、はい……。みーちゃん。それは当然のことです」
……あれ、おかしいな?
初めて聞く声だし、目は見えないのに、それぞれの名前を出すことなく誰が誰なのかわかっちゃったよ?
むしろ、イメージそのまんま過ぎて驚いちゃったよ?
あーちゃん、みーちゃん。あとで覚悟してね?
「じゃ、みんなの希望も叶えたし、ボク帰るね? あ、そだそだ。お願いがあるんだった。キミが外に出るタイミング……今からだと……うん、3年と6か月後かな? で、今閉じ込められてる上位精霊、4体全部回収しちゃうから、新しい大精霊が育つまで、この子たちの面倒みてあげて? それまでにキミが死んじゃうと、その子たちも顕現できなくなっちゃって、世界滅んじゃうから。じゃ、そういうことでー」
「……………………はい?」
わたしの返事を待つことなく、大精霊はバイバイと手を振りながら勝手に送還されていった。結局涅槃の恰好を一度も崩すことなく。
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