薫の友人
朝陽彩たちと教室に入った時には、思っていたほどの騒ぎにはならなかった。
恐らく赤木さんたちが一緒にいたことで、あれ珍しい組み合わせだな?くらいにしか思われておらず、特定の誰かと特別な関係であると考えられていないからだろう。
しかし、登校の様子は結構な人に目撃されているので、何かしらの噂が広まるのは時間の問題である。
現時点ではこれといった騒ぎが起こることもなく、ほぼ平和に午前中の授業が終わり昼休みとなった。
陽彩は昼休みになるとすぐにこちらに来ようとしていたが、その前に赤木さんたちに連れられて行ってしまった。
代わりに今目の前にいるのが、中学の頃に出来た俺の友人である荒牧慎也だ。
慎也は横の席に座ると、昼飯らしきパンをかじりながら話しかけてきた。
「朝から中々に羨ましい光景だったな薫さんよ」
「羨ましいって。たまたま外で会っただけだから」
「たまたま会ったのが本当だったとしても、一緒に話しながら教室まで来る理由にはならないだろ?」
「何だよ、紹介してくれって言っても無理だからな」
冗談ではぐらかそうとしたが、これはあまり効果がないな。
なんせ慎也には中学の頃から付き合っているそれはそれは仲のいい彼女がいるからだ。
その熱はというと、別々の高校に進学して距離が出来ても冷める気配も見せぬほどである。
「いやー、俺には可愛い可愛い彼女がいるからな。その心配はないぜ」
「はいはい。そうでしたね」
予想通りの反応だ。
ちょっと前までは慎也の彼女自慢も多少イラッとすることもあったが、今は陽彩といい関係に戻れたおかげか特に気にならない。
「順当に考えて例の幼馴染ちゃんと仲直りしたってところかな」
「何を順当に考えたんだよ」
慎也には陽彩との過去の様子をある程度話している。だから、慎也は小学校は同じではないが仲が良かったことを知っているのだ。
陽彩と二人で仲良くしているところは見たことがないから、いつも信じられねーとか言っていたが。
「さっきの委員会決める時だ」
「はぁ、やっぱり気づいた?」
「何人かは、ん?って思ったんじゃないか? だって、シュバ!って感じだったし」
笑いながら慎也は、そのシュバ!ってやつを真似してみせる。
彼が何の話をしているかというと、ホームルームでクラス委員を決める時のことだ。
誰かしらが委員を担当しないといけないので、部活もやっていないわけだしどれか受けようかと思い適当に美化委員のときに手を挙げたのだ。
そしたら陽彩も周りが驚く速さで続いてきたという話だ。
「どうしたんだ?別に嫌がることでもないだろ」
「嫌がってはいないよ。ただ少し目立ちそうだなって」
「それは慣れだよ慣れ。少しすれば周りも気にしなくなるさ」
「そうだといいが」
「それよりどうやって仲直りしたんだ。俺はそっちの方が気になるわ」
慎也にそう言われて、どこまで話すか悩む。
別に広められるかもとかそういうことを心配しているわけではない。
説明しようとすると、ただただ話すのも恥ずかしいようなことばかりだからだ。
簡単に言ってしまえば、陽彩にぎゅーされて頭なでなでしました。それで、よく分からないまま仲直り出来ましたになる。
言えるわけがないので、どうにか要点だけ話して恥ずかしい部分は隠すことにする。
「なーるほどねぇ。結局喧嘩の原因は何だったんだ?」
「喧嘩というかすれ違いのようなものだ。本人に確かめてはいないが、心当たりはある」
「それは?」
「教えない」
「なんでだよー! ここまできて教えないとか余計気になるじゃないか!」
こっちもこっちで黒歴史だ。
小学生の頃だからこそ言えたのであって、今の自分が口にするのは中々に厳しいものがある。
「あ。弁当がない」
「え、どうしてだ。いつも妹さんが作ってくれてるんだろ」
そうなのだが、鞄を何度見ても弁当は出てこない。
朝のことを思い返してみると、いつもならリビングを通る時に里奈から弁当を受け取るのだが、今日は母達から逃げるように飛び出してきたので受け取っていないことに気づく。
ご飯を食べれないのは午後が辛くなるし、何よりせっかく作ってくれた里奈に悪い。
「弁当受け取るの忘れてたわ」
「マジか、珍しいな。それでどうするんだ」
「ほんとどうしようか」
「どうしてもって言うなら俺のパン分けてもいいぜ。ただし秘密を教えることが条件だ」
それなら自分で何か買ってくるわ。
そう思い売店に行くために席を立とうとすると、後ろから声をかけられた。
「その心配はない。私に任せて」
「陽彩? 心配ないって?」
「行くよ。荒牧くん薫かりるね」
「はいはーい。どうぞお幸せに~」
ひらひらと手を振る慎也を横目に、いつの間にか教室に戻って来ていた陽彩の後をついて行く。
どういうことだろうか。陽彩が弁当を分けてくれるってことでいいのか。
考えても仕方ないので、取り敢えず大人しく彼女について行くことにした。




