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少し賑やかな登校

準備を終え朝食も軽く済ましたので、陽彩が待っているはずの里奈の部屋に向かうことにする。


扉の前に行くと楽しそうな明るい声がしてきた。

陽彩は声が大きい方ではないので、主に聞こえてくるのは里奈の声なんだが。



「あんなに抱きしめあって~。やっぱりかおるにぃに襲われた?それはないか、あいつヘタレだし」


「里奈、陽彩入るぞー」



不穏な話題が繰り広げられているようだ。

里奈の言いようもどうかと思うが、それ以上に陽彩が何を言い出すか怖いのでノックをしてさっさと部屋の中に入る。



「えー、もう来たのー。いいところだったのに」


「はいはい、また今度にしとけ。陽彩悪い待たせたな」


「大丈夫。里奈ちゃんと話してたから」



里奈と話せてか少しご機嫌な様子の陽彩が俺の横に立った。


時計を見るといつもよりも少し早いが、学校に行ってもいいくらいの時間になっている。

準備も済ませているので、このまま家を出ようということになり玄関に向かう。



途中でリビングの横を通ることになるのだがそこには母と父がおり、特に母にこの状況を見られたくはないので一気に駆け抜けることにする。



「あっ、お父さんお母さんー! 二人とも行くって!」



俺のそんな企みも後ろからついて来ていた里奈の一言で失敗に終わった。

しかも、早く通り過ぎるために陽彩の手を取っていたので、周りから見れば仲良く手を繋いでいるように見えるだろう。

想定よりも状況は悪化している。



「あら、かおるったら仲良く手をつないじゃって~。そんなに急がなくてもいいじゃない」


「陽彩ちゃんか久しぶりだね。里奈が朝から騒がしいとは思ってはいたがそういうことだったんだね」


「繫さんお久しぶりです。お邪魔してます。朝早くからごめんなさい」



里奈のようにというかあいつ以上にニマニマしている母と、その横でうんうんと頷きながら朝食を食べているのが父の森重繫だ。

小さい頃はよく家にも来ていたので、もちろんお互いに面識はある。


父のほうに向かって、頭を下げる陽彩に母が笑いかけた。



「そういう約束でしょひいろちゃん。許可は出したんだからもっと堂々としていていいのよ」


「ひとみさん!」


「繫さんもひいろちゃんがお相手なら文句なんて言わないわ!」


「そうだよ。薫は考えたらずなところはあるが、その分ちゃんといいところもある。それを知っている陽彩ちゃんなら心配はない。不出来な息子だがよろしく頼みます」


「繫さん!」



感激した様子の陽彩と温かい雰囲気を出してくる家族たち。

一切話についていけないのに何故か俺が恥ずかしくなってくる。どうして久しぶりに会っただけで、こんな付き合っている相手のご両親との初対面みたいな感じになるんだ。


話が別の方向に変わる様子もなく、耐えきれなくなった俺は再び陽彩の手を取って家を出ようと歩き出す。



「あー、もう! いってきます!」


「え、薫?あっ、お邪魔しました」


「はーい、いってらっしゃい!」



昨日のように大きく手を降ってくる里奈が見えなくなるところまで来ると、陽彩と繋いでいた手を離した。

いつまでもそうしている訳にはいかない。



「急がせて悪かったな。どうした?」



陽彩は俺の後を付いてくることもなく、その場に立ち止まっている。

そして、手のひらを向けてきた。



「手繋いだままがいい」



手を離したことが原因のようだ。


一緒に登校するするだけでも騒がれそうなのに、手も繋いでいたらますます騒がれそうだ。どちらにしろ騒がれるなら変わらない気もするけど。



「色々と騒がれることになるぞ」


「これくらいは大丈夫。みんなしてるし」



みんなはしていないだろう。するとしても恋人関係にあるもの同士だ。そういう人達のことを指して言っているのかも知れないが。


そこでふと思う。

俺と陽彩はどういう関係なのだろうか。


いや流石に陽彩が好意をよせてくれているのは分かる。それも4年も待ち続けれるくらい大きな。

俺だって似たようなものだが、明確にお互いの想いを口にはしていないのだ。

こんな微妙な関係で、これ以上何かしてもいいのだろうか。


さっさと告白でもすればいい話と言えばそうなのだが、今すぐにというわけにはいかない。



「薫はいや?」



考え込んでしまっている間も陽彩は、俺のことをじっと見ていた。


上目づかいをすることもなく、可愛らしくおねだりするわけでもない。

何か彼女にとって大切なお願いをする時の仕方。


ずっとこのお願いのされ方に弱かった。断れないというか、断りたくないといった感じだ。


普段はめちゃくちゃに甘えてくる彼女が真剣な表情で聞いてくるのだ。

そのお願いを大切にしているのが伝わってくる。


それにこういう時は俺が嫌だと思うような内容の場合はなく、むしろこっちもそうしたいと思っていることばかりである。


陽彩は手を繋ぐのは嫌かと聞いてきた。嫌なわけがない。

俺は面倒なことを考えるのは止めて陽彩の手を取る。



「いこうか」


「うん」



繋いだ手は少し暖かかった。もしかしたら、陽彩も少しくらいは照れているのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、可愛い [気になる点] やっぱり約束が気になるなぁ [一言] 頑張って!
[良い点] もう完全に外堀りうまってますね
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