登校前の朝
「かおるにぃーー! 起きて!!」
里奈が部屋にドタドタと入ってくる音と、カーテンを開けられ窓から入ってくる朝日で目が覚める。
普段は自分で起きることが出来るのでこんな感じに起こされることはない。
なので、寝坊したのかと思い時計を確認したが、そろそろ起きる時間ではあるがまだ寝坊ではない。
ちなみに里奈はお嫁さん修行とか言って家族全員のお弁当を作っているので、俺よりはだいぶ早起きなのである。
「...どうしたんだ」
「そんなだらしない格好でいていいの?呼んじゃうよ、かおるにぃ?」
「呼ぶって誰を?」
こんな朝早くから訪ねて来て、里奈がわざわざ部屋に上げるような人には心当たりがない。
正確には昨日から一人この条件に当てはまる人物がいるが、俺が迎えに行く予定だったはずだ。
陽彩の性格を考えればありえなくもないが、まさかな...
「ひいろちゃんーー! かおるにぃ起きないから起こしてあげてー!」
「え?」
俺が里奈の言葉を理解しきるよりも先に彼女は部屋に入ってきた。
昨日と同じ制服姿で、少し大きな鞄を持っている。陽彩は学校に行く準備は万端のようだ。
「薫おはよ」
「ああ、おはよう」
驚きで一気に目が覚めた。
どうしてこんな朝早くから来ているのだろうか。こっちから迎えに行くのではなかったのではないか。
分からないことだらけで寝起きの頭が止まりかけるが、取り敢えず起きなくてはいけないので立ち上がると、陽彩が不満げに頬を膨らませていた。
「どうしたんだ?そんなに膨らませて」
「布団、潜り込もうと思ってたのに。薫が起きるから」
これは色々と危なかったのかも知れない。目覚めたら真横に陽彩がいるとか、どう考えてもまずいだろう。さらに、うちには陽彩を止めようとする人物は存在していないので危機であった。
確かに昔は添い寝くらいしていたが、今はお互い高校生だ。陽彩が大丈夫だとしても、俺の理性が大丈夫ではない。
「そんなことしなくても起きるよ」
「私がしたいからするの」
周りから見ているときには大人びているように見えたが、甘えたがりな所は余り変わっていないようだ。学校の人達がこの陽彩を見ればさぞ驚くと思う。
まあ、俺も朝から驚かされた訳だが、何故陽彩の方が迎えに来ているのだろう。
「こっちが迎えに行く話だったはずじゃないか?」
「急に来て、起こしてごめん。里奈ちゃんに用事があった。用意してしまっていたら悪いから」
「もう起きる時間だから大丈夫。用事?」
「今は秘密。でも、すぐ分かるから期待してて」
「そう!よかったねぇ、かおるにぃ。存分に期待しておくんだぞ!!」
用事といっても、今は携帯で簡単に連絡は取りあうことができるし、普通に遊びに来たかったのだと思う。考えてみれば、遊ぶ日には待ちきれないのか陽彩はとても早起きで、約束の時間よりも早く家に来ていたこともあった。
そして、秘密か。すぐに分かるのなら教えてくれればと思うが、サプライズ的な何かなのかな。陽彩が何かしてくれるのであれば、言われたように大人しく楽しみにしておくことにする。
「朝からお楽しみのようですねぇ、二人とも」
「そんなんじゃない」
「私は楽しい」
里奈にからかわれたので否定するが、陽彩は肯定する。昨日も見たようなやり取りがあったが、恥ずかしくはないのだろうか。
ニマニマとされながら聞かれると、恥ずかしさがこみ上げてくる。
元々里奈の前で布団に潜ろうとしていたので、陽彩にとってはこれくらい許容範囲内ということかもしれない。
学校でもこの調子のままだと周りの反応が怖いが、たぶんそのままだろう。別に嫌ではないが、学年でも上位に入る可愛さの陽彩が急に今まで関わりのなかった男にべったりなのだ。
しばらくは注目の的になるのは確定だと思う。
「良かったねひいろちゃん! さっ、かおるにぃは準備しないといけないから私の部屋でお話でもしとこ!」
「うん。待ってるね薫。ゆっくりでいいよ」
里奈が陽彩を連れて出て行ったので、やっと一人になる。
昨日から驚かされてばかりで懐かしい感覚だ。
昔からこんな風に陽彩に振り回されることが大好きだった。自分一人で味わえる感覚ではないから。
俺が考えもしなかったことを平気でやってみせ、嬉しそうに楽しいに笑うのだ。
彼女とまた話せるようになってから何度も思う。本当に4年も何をしていたんだと。
陽彩にはまとめてお返ししなければな。何をすれば彼女に驚いてもらえるか考える。
だが、考えてばかりもいられない。
予定とは違うとはいえ、余り待たせるのも悪いので俺は支度を始めた。