帰り道
「ばいばい~、ひいろちゃん! また来るんだよ!」
「うん。明日にでも来る」
「どっちも明日は普通に授業あるだろ」
里奈が参加したことにより、思い出話やらで時間はどんどん過ぎて行って外が徐々に暗くなってきていた。
陽彩もそろそろ帰るということで、俺は陽彩を送って行くために外に出ている。
里奈は見送りだ。
「それじゃ、行くか」
「ん。行く」
ずっとこちらに手を振り続けている里奈に振り返しながら、陽彩は横に並んで歩き出した。
陽彩の家はここから10分くらいのところにある。完全に暗くなる前には、送り届けることができるだろう。
「今日は楽しかった。こんなに楽しいの4年ぶり」
「それは大げさだろ。クラスに仲がよさそうな友達だっているじゃないか。確か..」
「美玖と早百合?」
「そうそう。中学の頃から仲良かっただろ」
陽彩が俺といることがなくなって、代わりによく近くで見かけるようになったのがその二人だったはずだ。
進学直後には、周囲の人の視線を容易に集める可愛いさもあり、陽彩の周りには多くの人が集まったが最終的には二人といるとこをよく見た。
「うーん、美玖たちといるのも楽しいけど薫が一番」
「彼女たちが聞いたら、泣くんじゃないか」
「大丈夫。薫こそ友達いる?」
「いるよ。流石にな」
妹の里奈がからかう際によくするニマニマとした顔に少し似た表情で聞いてきた。
俺だって陽彩と疎遠になってからは、いつまでもうじうじせずに新しい関係を築いていった。
同じ小学校にいた生徒は、年中可愛い陽彩といたため疎まれていたが、別の小学校からきた生徒はそんなこともなく普通に友達となることが出来た。
「でも良かったな。美玖さんと早百合さんに出会えて」
「何で?」
「他と比べても楽しそうに見えたから。里奈といるときに似ているよ」
「二人ともいい友達だよ。里奈ちゃんと同じくらい優しい。でも、薫そんなところまで見てたんだ。」
「まあ、心配だったからな」
人との関わりを余り経験してこなかった陽彩に変なやつが近づかないか心配だったのだ。
コロッと騙されてしまいそうで、そうなりそうなら今以上に嫌われても止めに入るつもりだった。
美玖さんたちが逞しくてそんな心配も無駄になったのだが。
下心丸出しで近づこうとしていたやつらは、彼女たちに撃退されていた。
「気にしてくれてたんだ。嬉しい」
ふんわりと笑う彼女にまたドキドキさせられる。
昔は見慣れていたはずなのに。ずっと綺麗になったことも影響しているのかも知れない。
少なくとも、あの頃とは違った意味で意識しているのは確かだ。
自覚し始めると、ますます照れくさくなって顔をそらした。
「あ、あの公園。まだあったんだ」
「ずっとあるよ。私たちが出会った場所」
顔を向けた先にあったのは懐かしい場所。陽彩が言うように俺たちが出会った場所だ。
小学生になってすぐにここで知り合い、それからもよくこの公園で遊んでいた。
家で遊ぶようになってからも、陽彩を送る時にはここを通るので見慣れた場所だった。
だが、彼女を送って行くことがなくなると通ることもなくなったので、懐かしい感じがする。
「どうした陽彩?」
「ん」
返事はするが立ち止まったままだ。
視線は公園の方を向いている。
「公園行きたいのか?」
「行きたい。薫と一緒に」
俺のように陽彩も懐かしく思っているのだろうか。
それならば、一緒に行くのもいいが今日はもう遅い。
「また時間がある時に二人で来ようか」
「分かった! 行く」
そう言うと納得したようで陽彩は再び歩き出した。口が緩んでいて嬉しそうだ。
彼女にそんなに喜んでもらえるのなら何よりだ。
行くならいつにしようかとか考えながら俺も彼女の横に並んだ。