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18/21

公園で食べる休日

しばらくの間ベンチに座って陽彩と話していたが、公園内で軽く散歩でもしてみることにした。

昼ごはんの時間が近づいているからか、遊んでいた子供たちもちらほら見かける程度となっている。


この公園はここらでは大きい方なので、全部回るとするとそこそこ歩きごたえがある。


俺や陽彩が住んでいるこの地域はどちらかといえば田舎寄りだ。とは言え、周囲に何もなく買いものにも困るようなレベルではないので地方都市といったところか。ここからでも少し電車で移動すれば、商業地や海沿いに出ることも容易だ。


周辺にはほかにもいくつか公園があったが陽彩と遊ぶときは決まってここを選んでいた。大きいだけあって環境が整備されているし、陽彩と仲良くなった場所でもあるから思い入れがあったのも影響していた。



「なつかしい」


「そうだなー、子供たちを見ていると色々思い出すよ」



例えば、シーソーとか滑り台。そういった動きが素早い遊具は里奈のお気に入りだ。

陽彩も今でこそ落ち着いた感じとなっているが、この公園で見かける子供たちと同じ頃はかなり活発であった。よくブランコに乗って押してくれと頼まれたり、ジャングルジムの中を里奈と走り回ったりもしていた。


そんなやんちゃ少女の彼女だったが、木陰で一緒に本を読むこともよくあった。陽彩は元々積極的に読書をするタイプではなかったが、俺が本を読み始めるとそれにつられて読み始めたのだ。だから、読み終わった本は大体陽彩のもとに横流しされていた。


歩きながら記憶に良く残っていた場所を眺めていると、陽彩も同じ方を見て指をさした。



「あそぶ?今ならひといない」


「さすがに遊具が壊れないか心配だぞ。それにちょっと恥ずかしいな」


「うーん、あれならいける」



とことことブランコが置かれているコーナーに向かってかけていった。久しぶりにこれに乗りたいようだ。これなら高校生が遊んでいても許されるだろうと思う。俺たちもすでに小さい子からすればほぼ大人だ。滑り台とかで遊ぶ大きなお友達がいたら怖がられるかもしれない。

いやそれでも、陽彩だけであれば絵になるのか。


赤い塗装がされたブランコに腰掛けた陽彩をみるとやはりそうなのかと感じた。はやりの歌を口ずさんで、上機嫌な様子で足を振っている。機嫌がいい時に足がくるくると動くのは昔から変わっていない。

だが、変わっているところもある。あの頃であればかわいらしい子供といった範囲に収まっていたが、可愛いお姉さんとなった今であれば別の意味で子供たちの興味を引いてしまうのではないか。



「どうしたの?」


「いや、いいなと思って」


「ん?おしてー」



ブランコの大きさからするとぎりぎり陽彩くらいなら動きそうだ。少し窮屈な感じもするが、激しく動かさなければ問題ないと思う。


こんなことするのは久しぶりなので、力加減を間違わないようにゆっくりと陽彩の背中を押した。

ブランコが揺れだすと、陽彩の髪も風を受けてなびいているが、今日の彼女の髪はきれいにまとめられているので暴れだすことはない。



「風が気持ちいい」


「それならよかった」


「やっぱり薫ものる?」


「やめとくよ」


「里奈ちゃんものってたのにー」



里奈もあれでも女子高生である。高校生男子とはわけが違うだろう。まあ、別に誰にも引かれないとしても、気持ちよさそうに風を受けている陽彩を見ている方が個人的に性に合っている。


それにしても、里奈とはこの公園で最近になっても遊んでいたのか。定期的に何かしているのは知っていたが、なんか意外だった。小さい頃のイメージのまま考えるのであれば順当であるかもしれないが、現在の印象からすると、、、何をするんだろうか?

もはや自分からするとそうは見えないが、周囲の印象としてはクールなお姉さんみたいな感じらしいが、世間一般のクールなお姉さんは普段何をして遊んでいるのか。いきつけのカフェとか図書館で読書とか?



「ん?読書もするけど、里奈ちゃんとはおでかけとか料理研究会とかがおおい」



疑問に感じたことをそのまま口に出すと、里奈と遊ぶ時を例にして教えてくれた。

公園に来るのもそれをその日の一番の目標にするのではなくて、買い物とかで出かけたついでに寄るといった感じみたいだ。これが普通の女子学生たちの過ごし方なのだろう。別に誰もが特別なことに時間を費やしているわけではない。


しかし、気になるのは料理研究会とやらだ。気になるといっても、その名の通り料理についての意見交換や実践を二人で行っているのとは思うが。



「料理研究会って、定期的に開催されているのか」


「そう。里奈ちゃんは料理が上手。それに分析力がすごい」


「分析力?」


「ん」



分析力とは何だろうか。いや、料理に分析力が必要ないとは言えないが、何を分析するのか分からない。分量とかレシピとかか。


隠されているわけでもないので、予測するのを諦めて陽彩に聞いてしまおうとしていたが、目の前でブランコを満喫していた彼女は飛んだ。

少し勢いをつけて、体を浮かし離れていった。振り返って、自慢げにこちらを見てくる様子が過去の姿と重なるように見えた。根幹は変わらないのかもしれないな。



「そろそろご飯にする?」


「そうだな、行こうか」



周囲にちらほらと子供たちの姿が見え始めていた。あまり長時間いても彼らの邪魔になるからと、昼食をとるために移動を開始する。

一時的に乗り手を失ったブランコだったが、すぐに新しい遊び相手が見つかるはずだ。目を離す直前に先ほども見かけた男の子と女の子が見えた。










芝生広場の隅にある木陰で昼ご飯を食べることにした。遠足中の小学生がお昼の時間を過ごすのに使われそうな空間だ。

陰を生み出してくれている桜の木はほとんど散っているので、所々日がすり抜けて差し込んでいる。

シートを引いて座り、里奈に持たされた弁当箱を取り出した。里奈は連絡済みといっていたが、この弁当はどうすればいいのだ。



「これ」


「ああ、ありがとう」


「それはもらう」



陽彩も弁当箱を取り出していて、それを渡された。いつもの二人分の少し大きめの重箱のような弁当箱ではなく、一般的な一人用のサイズとなっている。

少し戸惑っていると、里奈に渡されていた弁当を要求されたので渡した。ごく自然な流れで弁当交換が行われたが、そういうことかと納得する。陽彩は里奈が作ったものを食べる食べる手はずだったのだろう。


まあ、交換といっても俺は何もしていない。妹の弁当を渡して、幼馴染から弁当を受け取っただけだ。何だかダメ人間みたいだ。



「では、いただきます」


「どうぞどうぞ」


「今日はサンドイッチなのか、おいしそうだ」


「ピクニックっぽいから。私もいただきます」



頂いた弁当箱を開くと、そこには何種類かのサンドイッチが詰められていた。

定番のミックスサンドや好物の卵サンドもある。


まず、卵サンドを手に取って口に運んだ。ふわふわな卵の甘みが口に広がる。小さめ目にカットされているゆで卵の白身の食感も好みにちょうど刺さっている。ミックスサンドの方も、トマトやレタスに特製調合のマヨネーズで甘さが引き立っていて美味しい。



「今日もおいしいよ。口が幸せになる」


「ん!ありがと、色々と工夫した。薫はちょっと甘めの味付け好きだから」


「そうだな、そんな分かりやすかったか?」



考えてみれば、陽彩が作ってくれる弁当はいつも好みの味付けがされていた。美味しさとかだけじゃなくて、味の好みにも配慮されていたのだ。


例えば、高価な料理とかだったら、美味しいとは思うけど好みじゃない。大量にカップラーメン食べていた方が幸せになれるみたいな感覚になるときもあると思う。

失礼な例えかもしれないがしれないが、とにかくそんな思いを陽彩の料理でしたことがない。好みの把握が早すぎないか。


結局何が言いたいのかというと



「ずっと食べていたくなる。毎日三食作ってもらったとしても、陽彩の料理なら一生飽きる気がしないよ」


「んっ!! まかせよ」



驚いた様子の陽彩は箸でつまんでいたミニサイズのコロッケを落としかけていた。落下先が弁当箱内であることを確認すると、ふうーと息を吐いて安心したみたいだ。

そして、こちらを見ながらまかせよまかせよと自分の胸をたたいている。そんな彼女の顔は若干赤い気もする。


よくよく考えてみると、毎日あなたのご飯が食べたいとかプロポーズみたいなことを言っている気もするがセーフだ。そんな直接的に言っていない。


あまり深く考えているとまた恥ずかしくなってくるので、気を紛らわせる何かを探そうと陽彩の手元に目を向けた。



「足りなかった?」


「十分おなかいっぱいだよ。ただなんか見覚えのあるメニューだなと思って」


「んー?あ、料理研究会の定期報告みたいなものだから」


「そうなのか?」



量が足りなくて陽彩分を狙っているわけではない。弁当のおかずの構成が気になったのだ。卵焼きとかマカロニサラダとか。

里奈が作った弁当なので見覚えがあるのは当然だが、何か違和感を感じていた。


俺の好物が多い気がする。里奈はバランスよく献立を組んでいるので珍しいな。

あと、定期報告とはどういう活動なんだ。最近の自信作でも披露しているのだろうか。














昼食を済ませて、自室で一人くつろいでいる少女がいる。彼女の兄は今頃幼馴染と楽しくピクニックでもしているはずだが、彼女自身には特に予定はなかった。同じく暇を持て余している友達を見つけようとしているのか、少女はスマホを手に取ってメッセージアプリを起動した。

メッセージアプリには一件の通知が届いており、それに気づくと少女は退屈さが感じれた表情から自分のことのように嬉しそうに喜ぶものへと一瞬で変わった。



「かおるにぃもひいろちゃんも楽しそう」



彼女の見ている先、退屈さを振り払ったそれはメッセージアプリ内のあるグループ、そこに投稿された写真だ。少女の兄と少女の大切な親友が共に写っている。シートを引いてくつろいでいるみたいだ。

彼らの様子からは幸せな気持が伝わってきて、見ている側もつられて優しい気持ちになるのだろう。



そのグループの参加者は2人しかいないが、わざわざ彼女らによって作成されたものだ。2人であれば、個人チャットとそう変わりないが気合を入れるために作られたという背景が存在している。

グループの名前は()()()()好きな料理研究会、そこに新たなメッセージが送信された。



『薫にプロポーズされたかもしれない!!!』


「かおるにぃがそんな大それたことできるはずない。たぶん、何も考えずにまた恥ずかしいことをいった。ひいろちゃんも本気にはしてないと思うけど」



彼女の名前は森重里奈。兄と親友の恋を応援するために、まず兄の胃袋をつかめと兄の好みを情報提供している。日々の兄の様子から好みを完璧に把握しているため、分析力にも一定の層から評価を得ている。

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