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公園で過ごす休日

春休み明け最初の休日だ。長期休みで生活習慣を乱している人にとってはオアシスのようなものかもしれないが、昼過ぎまで眠る怠惰な一日は送らずに活動を開始していた。

比較的休日でも早起きをしている里奈と共に、朝ご飯を食べられているのがその証拠だ。



「かおるにぃ、あれ。持って行ってね」


「あれ?いつもの弁当箱、何か作ってくれたのか」



里奈が指さす先には、陽彩が弁当を作ってくれるようになってから役目を失った元俺専用の弁当箱があった。そのそばにはちょうど弁当箱が入るくらいの紙袋も置かれている。これにいれて持っていけということだろうか。



「お昼も公園で食べるんでしょ。ひいろちゃんだけに作ってもらうの悪いじゃん」


「一応お菓子でも持っていこうかと思ってけど」


「ひいろちゃんには連絡済みなのでとにかく持っていくべし」



里奈の言う通り、本日の目的は陽彩とのおでかけとして公園に行くことだ。そのついでに、公園に置かれているベンチでお昼も取ろうということになっている。


しかし、昼ご飯はいつものように陽彩が作ってきてくれるという話だったが、里奈も弁当を用意してくれているのか。まあ、いつもの一人用の弁当に詰められているので、そこまで量は多くないはずだ。連絡は取りあっているらしいので、役割分担でも決めているのかもしれない。



「やっぱり、里奈もいくか?」


「今回はいいって。ひいろちゃんとたのしんできなー」



弁当だけ受け取るのも悪いので誘ってみたが、すでに朝食を完食していた里奈はそう言って席を立った。

里奈も陽彩と幼馴染のようなものなので思い入れがあるはずだ。もちろん今日の目的地である公園で三人で遊んだことも何度もある。

だが、気をつかってくれているのだろうと思う。何かお礼をしないといけないな。



陽彩とは現地集合することにしてある。迎えに行こうかと聞いてはみたが、その公園はお互いの家の途中にある。昔のように待ち合せればいいと言われた。


余裕をもって準備するために、食事に集中して食べる速度を少し早める。

だから、台所で洗い物をしている里奈のつぶやきに意識を向けることはなかった。



「かおるにぃよ、グループで出かけるのと二人きりのデートは意味が違うのだぞ。それにあんなに楽しみにしている姿を見たら邪魔できないよ」











あれから食事を済まして、弁当箱の入った紙袋にいくつかのお菓子も詰めて家を出る。十分に余裕をもっていたはずだが、公園につくと陽彩は先に来ていた。ベンチに座って待っている彼女のところに慌てて駆け寄る。



「ん!」


「えーっと、ごめん!またせたか?」


「大丈夫、待ってない」



きりっとした感じで答えられた。なぜか陽彩は満足そうだ。

聞いてみると、最近読んだ恋愛小説にも登場したこの王道の流れを再現できたことが嬉しかったらしい。思い返していれば、陽彩は昔から小説とか本の内容に影響を受けやすい子だった。


これは過去の話だが、リトル陽彩が木の枝をふりふりして走り回っていたこともある。そのときは魔法使いが出てくるファンタジーものに影響されていた。



そいて、嬉しそうに頭をふりふりしている現在の陽彩は、見慣れたいつもの雰囲気と全く違う。透き通った黒髪は一本にまとめられているし、何より見慣れた制服ではなく私服を着ている。青みがかった白色のワンピースだ。所々に花の模様が散りばめられていて、とても似合っている。


そんなことを考えながら見ていると、彼女は期待した様子でこちらを気にしている。すべきことは決まっているだろう。



「似合っているよ、そのワンピースも髪型も」


「んーー!!ありがと」



咲き誇る花のように彼女の笑顔があふれた。

ここまで嬉しそうにされると、こっちも笑顔になる。ここ最近で何度も体験した流れ。陽彩に幸せをおすそ分けされている気分だ。素直に気持ちを伝えあうのは心地がいい。



ずっと立ちっぱなしも変なので陽彩が座っていたベンチに一緒に腰掛ける。



「こっちにすわる?おかえし」


「陽彩がつぶれてしまいそうだから遠慮しとくよ」


「薫くらいならだいじょうぶ!」



陽彩は自分の膝をポンポンと叩いている。仮に重量的に大丈夫だとしても、絵面的には問題しかない。ここは公園だ。周囲には子供たちもいる。そんな不審な行動を取っていれば保護者に通報されてもおかしくない。


陽彩も本気ではないと思うが、さあ来いと言いたげな感じがじわじわと伝わってくる。

取りあえずこの話題をかえるため、昨日慎也との会話で気になっていたことを聞いて話を逸らす作戦に出た。



「そういえばさ、陽彩はどうして今の学校を選んだんだ」


「薫がいるから」



足をふらふらさせている陽彩は、当たり前のように言い切った。

どうやら受験の期間中、里奈に連絡をとって確かめていたらしい。学力的にも適正な範囲だったので特に問題が発生することもなかったと教えてくれた。



「そうか、ありがとう」


「どういたしまして?」



少し恥ずかしい気もするが、感謝を伝えることにした。すると、陽彩も不思議そうではあるがうなづく。



「よく一緒にいるから知ってるかもしれないけど、慎也っていうやつがいるんだけどさ」


「うん、知ってる」


「彼女さんが看護師になるために進学したから学校が別々になったんだよ。その話を聞いていたら陽彩と別の高校に行ってた可能性もあったのかと思って」


「私は...私の一番は薫のそばにいることだから。あんまり遠くにいくのはいや」



遠くに行くつもりはそもそもないんだが、寂しそうな表情をしている陽彩はあまり見たくない。この苦しさを乗り切っている慎也はすごいな。


目の前ではいくつかのグループに分かれて子供たちが遊ぶ光景が広がっている。その中のひとつ、砂場で遊んでいた男の子と女の子が目に入った。男の子は砂場遊びに飽きたようで別の場所に行こうとしている。それを見た女の子はぐずり出した。



「薫はなにか夢ある?」


「夢?」


「その彼女さんは看護師になるっていう夢があるから離れることになったんだよね」


「あー、すぐには思いつかないな」



陽彩に言われて改めて考えてみるが、思いつくものはない。父は普通の会社員であるし、母もパートだ。看護師の母に憧れている慎也の彼女さんのような動機もない。

この話を始めたのも何となくだ。強いて言えば、里奈が元気で陽彩がいる今の日々が続けばいいと思う。これは夢とは少し違うか。



「べつに重大発表がありますとかじゃないからな。このまま過ごしていくんだと思う」


「薫がどっかいくことがあるなら応援するよ。ついていくけど」



まっすぐな思いが伝わってくる。真剣な眼差しの陽彩だ。

迷いのない様子からは優先することをはっきり決めているのが分かる。陽彩の好きなところの一つだ。色々と考えてしまい、迷いが先に来る自分と違うから魅力的に映る。



「あ、仲直りしたみたい」



先ほどの子供たちのことだ。陽彩も気になっていたのか。

女の子は砂場で遊ぶのを諦めて、男の子の後ろをついていくことにしたようだ。男の子がそばに立った女の子の手をとると、二人ともまた楽しそうな様子に戻って歩いて行った。

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