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後輩ちゃんのお姉ちゃん

最近不満に思っていることがある。

不満と言ってしまうと、また先輩に怒られてしまうけど、これでも少し心配しているのだ。



「西川さんおはよう、最近よく合うよね」


「ん?そんなに見てもあげない」



今日も美しく可憐な私の先輩である松葉陽彩の頭に、心配の原因となっているその男、森重薫は手をのせていた。


先輩!心配しなくても私が気になっていることはなでなでではありません。

よくわからない人にそんなことされても恐ろしいだけだ。


それに撫でられるなら先輩にしてもらいたい。あの時のように優しくされれば、きっと至高のひと時となるだろう。



「いらないですよ!だからあなたもそんな困ったような顔しないでください」


「あ、ああ」


「遅刻する。いこう」



先輩は彼女の言葉になぜかひるんだような様子を見せる森重薫の手を取って歩き出す。私もその後をついていく。

こんなに自然な感じで二人の世界をつくられたら、私がいるのが申し訳なくなってくる。



でも、でも!気になるものは気になるのだ。先輩は私にとってお姉ちゃんのような人でもあるから。


先輩が私のことをはっきり認識したのは、情けなくもスーパーの前で何もできずに棒立ちしていた時だろうけど、実はそれよりも前に助けてもらっていた。そのときから私には輝いて見えていたのだ。




中学2年生のちょうどおばあちゃんが亡くなってしまっていたころ、私には何をするにも気力が湧かなかった時期があった。


自分で言うのも変な感じはするが、私は男の人に好かれる方だ。大切な妹たちを放置するわけにはいかないので、特定の相手を作るといったことはしたことはないが。

でも、そんなこと周りの人は考えてくれないし、素行の悪い人や強引な人に絡まれることだってある。


私が初めて先輩のことを認識した日、おばあちゃんがいなくなってしまった悲しみからいつもなら軽くかわせるナンパにも苦戦していた。


見た感じ年上で怖いし、急にどこか行こうといわれても迷惑だった。効果的な解決策を見いだせずにいると、彼らからすれば手ごたえがあると感じたのか、どんどん強気になってくる。


ナンパしてきたやつらの一人に手をつかまれると、なぜか腹が立ってきた。私だけこんな思いをしていて、彼らは何でこんなに身勝手でいられるのだろうと。いっそのことこの衝動に任せて殴ってしまえば楽になれるのかと考え始めたときのことだ。



「嫌がっている。また、あなたたち。自分の都合を押し付けるのは迷惑」


「ん?ひいろちゃんじゃん!」

「ついに俺らと遊んでくれる気になったんだ」

「ひいろちゃんなら大歓迎だよ!」


「あそばない」



「へぇー、だれでもいいんだ。なら私とあそぶ?この後習いごとだからさ、アップをしたくてね」

「あなたたちついに後輩にまで手を広げていたのね」


「赤木!お前の習い事ってボクシングだろ」

「丸山もいるぞ、守護獣たちだ」「逃げろー!」



慣れた手つきで追い払った3人組。赤木、丸山と言っていた。なら、この無表情で何を思っているのかわからない人は松葉陽彩なんだろうと思った。

名前だけは知っていたのだ。クールでお姉さんのような落ち着きと素っ気なさで数々の男子の好意を集める人が一つ上の学年にいると。


そして、彼女を守る二人の守護獣、赤木美玖と丸山早百合。彼女らも十分すぎるほどかわいいが安易に差し伸べられた手を取ると痛い目に合うらしい。



「大丈夫?」


「あ、はい。ありがとうございます。助かりました」


「怖かった?」


「いえ!慣れてますから大丈夫ですよ」


「じゃあ、何か嫌なことでもあったの」


「え?」


「泣きそうな顔してる」



心配そうな顔で見つめてくる先輩、なんだ無表情なんかじゃないなとか思っていると、次の瞬間には彼女に抱きしめられていた。



「泣いていいんだよ」



頭の上で何か動いている。感覚を向けると、撫でられていることがわかった。

驚いて先輩の方をみると、優しい表情で笑顔を見せてくれた。なぜか段々と落ち着いてきて、その次はどんどん感情があふれてきて泣いてしまった。



おばあちゃんの葬式でも両親は忙しそうだった。ちゃんと私のことを気遣ってはくれていたけど、仕事のこととか忙しい理由が理解できてしまう私は我慢するしかなかった。


妹たちの前でも泣くことはできない。なぜなら既に泣いている妹たちを慰めないといけないから。私も泣くと不安にさせてしまうだろう。



簡単なことだった。誰かに聞いてほしかった。そんなときに本当に見つけてもらえることって少ないはずだ。

それでも、その日私は見落とされることなく救われたのだ。



だから、陽彩先輩は私のヒーローであり、心を弱さを見せれるおねえちゃんみたいな存在でもあるのだ。

でも、おねえちゃんだからって頼りきりになるのはいけない。たまに疲れてしまうことを私は知っている。先輩の心に入り込むこの幼馴染とやらをしっかり見極めるのだ。


代替この男もそうとう怪しいと思っている。数年ぶりにポンっと現れたら、その次の瞬間には先輩の奥底にまですぐ入り込んでいる。

付き合っているというのであれば、まだ情状酌量の余地もあるのだが、どうやらそういう関係ですらないらしい。先輩のやさしさに甘えているその姿勢も気に入らない。



陽彩先輩、今度は私が守って見せますからね!







「西川さんには妹さんがいるんだったよね?」


「何で知っているんですか?絶対に渡したりしませんからね!」


「二人ともれいみちゃんに似ていてかわいい。でも、浮気はダメ」


「はっ!ありがとうございます、先輩!!さくらともも達も会いたがっています」



決意を新たにして、先輩の横に並び立った私に要注意人物が話しかけてきた。

まさか、先輩だけじゃ飽き足らず、私の妹にまで手を出そうというのか。

疑いのまなざしを向けていると必死に弁明を始めだした。



「いや、変な意味じゃないから!!俺にも妹がいて、気になったんだよ。家族の家事を担当しているんだろ、すごいよな!俺はお兄ちゃんだけど、最近までは弁当も妹に任せっきりだったよ」


「私の妹たちはちゃんとお手伝いもしてくれます。あなたも感謝を忘れないことです」


「わたしの料理を喜んでくれた。本当にいい子たち」


「共に長い時間を過ごし、先輩の料理を習得した私は完璧なのです」


「レシピ通りに作ってもレシピ通りに出来上がらないことをそこで初めて知った」


「せんぱいーー!!」



実は陽彩先輩が救ったのは私の心だけではない。西川家の食卓も人知れず守っていたのだ。

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