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新しい日常

日が昇り始める早朝。いつもより早めに起きて、いつもと違う道を進んでいく。

今日は平日で当然学校に行く必要があるが、別にサボろうとしているわけではない。向かう先は陽彩の家だ。


陽彩が突然こちらの家に来た日から3日間、あの日以降は彼女の家まで迎えに行っている。当然今日も同じ目的のために、少し早起きをしたのだ。

正直朝は強い方ではないが、早起き耐性のある里奈の協力があれば問題ない。



「かおるにぃー!!起きるんだよー!」



満面の笑みで、布団を剥がしてくる里奈の姿が思い出される。

まあ、協力というには少し荒々しい気もするが、いつも助かっているので文句を言うことは出来ない。



そんなことを考えながら歩いていると、陽彩の家が目に入る位置に来ていた。大通りから横道にそれて行く。

始業式のある一週間も今日で終わりとなる。街路樹として植えられている桜もだいぶ散っていた。


緩やかな坂を登りながら進む。

毎朝一緒に登校しているので、学校中に陽彩との関係が知れ渡っていることも想像がつく。

隠そうともせず、手を繋いで歩いているので当然ではあるが。


しかし、当初心配していたような嫌がらせのような行為はどちらも受けていない。

高校2年生となれば、わざわざ他人の関係に口を挟まないのだろうか。いや、自分は特に目立つことはないが、陽彩の場合は話が変わってくるだろう。

知らないうちに彼女の友達であり、保護者のような立ち位置の赤木さんや丸山さんの補助を受けていると思うべきか。



「おはよ、かおる」


「おはよう」



目的地に到着すると、陽彩が朝の挨拶と共に出迎えてくれた。

すでに玄関で待機していたようだ。



「昨日も言ったけど、家の中で待っていてくれればいいからな」


「大丈夫。見てたから」



どうやら家の窓から向かっているところを見ていたらしい。昨日も同じような状況であったから、外で待たせていたのかと思ったが安心する。

陽彩の方に顔を向けると、少しこちらを見つめていた。



「考えごとでもある?」


「そんなことないけど、どうして」


「むぅーって顔していた」



顔に出ていたのか。周囲の通行人に変な目で見られていなかったのか気になるが、陽彩くらい注意深く見ていなければ特に気づかれることもないだろうと思い直す。

そして、深刻な事情があるわけでもないので、考えていたことを素直に陽彩に伝えた。



「視線が気になることはあっても、直接的に何かあるってことはないよな。陽彩も困ったことはないか」


「大丈夫。目立つようなことしてない」


()()とかもかなり目立つのではないでしょうか」


「周りにもいる」



ごく自然に繋がれているお互いの手に視線を向ける。

言われてみれば、男女共学の学校で手をつないで登校することも、昼食を二人でとることも珍しくはない。



「でも、やっぱり陽彩は...かわいいからさ」


「!!」


「周囲の視線を集めているのではないかと思いまして」



照れくさいことにふれる時、敬語を使ってしまうことあると思います。告白の言葉が敬語になることが多いイメージがあるのも、似たような心理なのだろうか。陽彩以外とそういう関係になったことはないので事実は分からない。


当の彼女はみるみるうちに上機嫌になってきた。にこにこしている様子は可愛さがいつも以上にあふれている。この笑顔を守るために常にほめ続けていれば理想であるが、そう簡単にはいかない。恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。



「薫だってすごい!薫のなでなでは天国みたい」


「そ、そうか」


「ほかにもね」



目を輝かせて陽彩は必死にアピールしている。しかし、陽彩さんなでなでが優れていたとしても、それを披露する機会はほとんどないと思います。

周囲の視線を集める要因にはならないと思うが、普段の様子からは想像できないくらい一生懸命に語ってくれているので、気が付くとだんだん口元が緩んできた。



「どうしたの」


「ありがとうって思ってさ」



照れ笑いのような表情となっているだろう様子が気になったのか、話を止めてじっと見てきている。

何が一番嬉しかったかといえば、昔のことを大切に覚えていてくれたことだ。現実から逃げていた自分を陽彩はなんてことないように受け入れてくれている。


せめて、これから先は間違えないようにしたい。

いつの間にか歩くのを止めて頭を控えめに向けてくる陽彩の求めているものはさすがに分かる。彼女の頭に手を伸ばして、天国みたいと言われるなでなでを披露した。

ここ最近は人の頭をなでる機会はなかったが、陽彩と西川さんと一緒に行った行きつけのカフェでは、常連の猫たちがいる。彼らを相手に鍛えられているのだ。


黒猫のようになでられて気持ちよさそうにしていた彼女は、進んでいた道の先に視線を向けて急にいつもの表情に戻り言った。



「何もないって言ったけど、一つだけ例外がある」



彼女の見ている先には、ここ最近で急激に関わりの増えた一人の少女の姿があった。

一年生の証である赤いリボンをつけていて、少し茶色が入っているふわっとしたショートがよく似合っている。入学早々何人かの同級生に止めを刺しているのではないかと思う。



「目立たない高校生は頭を撫でたりはしません!」


「おはよ、れいみちゃん」



腰に手を当てて、もう片方の手でびっしと指をさしている。

今日も賑やかな朝になるのだろう。

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