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11/21

放課後は終わらない

陽彩を送って帰るつもりだったが、突然の乱入者によってそれは叶わなくなった。後輩である西川さんは、納得するまで大人しく返すつもりはないらしい。説明すれば納得するのかと言えば、そうでもないような気もするが。

陽彩と仲が良いようなので放置するわけにもいけないので、どうしようかと思っていたところ彼女たちはこう言いだした。



「困った。こうなったらこの子止まらない。この先にカフェがあったはず」


「カフェ!先輩とカフェ!行きたいです」


「あの、、」


「これは仕方ないこと。断じて寄り道には当たらない」


「いや、、」


「先輩にお誘いしてもらえるなんて!嬉しいです、さあ行きましょう!」



目的は違うだろうが、団結した女子たちは強かった。言葉を挟む隙もない。

こうして寄り道が決定した。まあ、少しくらいなら暗くなる前に帰れるだろう。それに、ここで騒ぎを起こすのはとても目立つので何処かに行くのは賛成だ。




三人で向かうこととなったカフェは、通学路の途中の脇道にある落ち着いた雰囲気の店だ。本を買った帰りとかに立ち寄ることがあるのでよく知っている。

カランコロンと昔ながらのよくある音のなるドアを開けて店の中に入ると、いかにも店のマスターといった男性が作業していた。彼はこの店の主人で、ここに来た時はおすすめの本を聞いたりしている。

もう一人店員がいるはずだが今日はいない。



「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」



そう言われて、店内を見渡すとぽつぽつとお客さんがいた。窓際の端の席が空いていたのでそこに座ることにする。

しかし、さっき目が合ったときの店長の笑顔が気になる。子供を眺める親の微笑ましそうなものだった。いつも1人で来ているので、何か思うことがあったのかも知れない。

今日いるのが店長で彼女の方ではないことが唯一の救いだ。何か問題があるというわけではないが、急にこの状況を見せるのは少し気まずい。



「薫は何飲むの」


「アイスコーヒーかな、陽彩はカフェオレ?」


「うん!」


「目の前で自然とイチャイチャされて悔しいです。私は、オレンジジュースで」



メニューの中で陽彩が好きそうなものを選ぶと、彼女は嬉しそうに頷いた。正解のようだ。陽彩と過ごしていると、昔の記憶が段々と鮮明になってくる。小さい頃は、紙パックのコーヒー牛乳をよくごくごくと飲んでいた。


上機嫌な陽彩の前にいる西川さんはとても不機嫌そうだ。陽彩が素早く俺の横に座ったので、向かいに座るしかなくなった彼女は、運ばれてきたオレンジジュースをちびちびと飲みながらこっちを睨んでくる。



「それで!どういうことなんですか!」


「しー!あんまり騒ぐと怒られるよ」


「はっ!どういうことですかー」



陽彩に注意されて、周りを見渡し小さくなった西川さんは今度は小声で聞いてきた。せわしなく動く姿は、小動物みたいで可愛いなとか思っていると今度は陽彩に睨まれた。



「どうもこうも、ただの幼馴染だよ」


()()()?そんなわけないです!お昼も近かったし、さっきは手も繋いでいました」



確かにその通りである。ただの幼馴染はそんなことはしない。説明に困る。

しかし、お互いの気持ちがどうであれ俺たちは付き合ってはいない。クラスメイト、幼馴染以上の関係ではない。


隣を見ると、さっきまで上機嫌だった陽彩が少し不満そうな顔をしていた。



「ただの幼馴染じゃない。()()()幼馴染」


「せ、先輩⁉」


「そうだな、大切な幼馴染だ」


「だから、イチャイチャしないでくださいー!」



ただのと言われたことが気になっていたようだ。でも、言葉の綾であると分かっていたのか、すぐに機嫌は戻った。

ただ、西川さんの機嫌はどんどん悪くなる。少し涙目でキッと睨んでくるが怖くはない。



「私は、先輩が心配なんですよ。男の人なんか全然寄せ付けなかったのに、急にあんな風に先輩らしくないことされるから」


「大丈夫。薫は昔から知ってる」


「騙されたんじゃないかって」


「これは私の願っていること」


「うー、、」



真っ直ぐ見つめる陽彩に、西川さんは次第に何も言えなくなっていった。

どうやら、彼女は本当に慕っていて心配しているようだ。陽彩のことを大切に思ってくれる人がいてくれることは嬉しい。

そして、その関係を築いたのは彼女自身の力だ。2人だけの閉じた世界にいた小学生の頃では考えられなかった。


黙ってしまった西川さんに陽彩は声をかけた。



「れいみちゃん、タイムセールが」


「はぅ!」



それを聞いた西川さんは、ジュースを一気に飲みお代をおいて立ち上がった。慌てて店を出ようとするが、思い出したかのようにこちらを振り返る。



「先輩に変なことしないでくださいね!」


「しないよ!」


「しないんだ」


「え?」



走って何処かに行く西川さんが窓から見える。会話からすると、目的地はスーパーだと思う。

ここに残ったのは、面白くなさそうな顔をした陽彩とどうしていいか分からない俺だけ。気が付けば他のお客さんも減っている。つまり、声はよく響く。恥ずかしくて店長の方は見れない。



「冗談、、かも」


「かも?」


「まだ飲み終わってないから、ゆっくりしていこ」


「そ、そうだな」



少しずつ空も赤くなってきている。窓から差し込む夕日にあたりながら、笑う彼女はとても綺麗だった。

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