噂と後輩
雑談を交わしながらの陽彩とのご飯を終えて教室に戻ると、昼休みの時間はほとんど残っていなかった。思っていたよりも話し込んでいたようだ。
午後の授業の準備があるのでお互いに分かれて自分の席に戻ることにする。
「遅かったな薫。さては愛妻弁当か?」
「弁当を分けて貰っただけだ」
準備をしようとしていると、すぐにこっちに来た慎也に話しかけれた。いつになくうずうずしているようだ。陽彩とのあれこれが朝から積み重なり好奇心が抑えきれなくなっているように見える。
「いやいや、それは無理があるぞ。いくら中庭といえども隠しきれるわけがないだろ」
「なんで中庭にいたって知って...まさか!」
「ああ、さっそく噂になっていたぞ。クラス内では幼馴染ちゃんのお友達が沈静化させていたから今はそこまで騒がれてはいないがな」
いくら噂といえども広まるのが早すぎだろと思う。
とは言え一緒に教室から出て行ったのでその時点で隠せていなかったと言えばその通りだし、そもそもいつかはバレると思っていたので問題はない。
ふと陽彩はこの状況をどう思っているのかと気になり彼女の方を見ると、見られていることに気が付いたようでにこにこと笑顔を向けてきた。
それを見た周囲の視線も集まる。俺と陽彩を交互に見渡して、最終的に説明しろという圧をこちらにかけてくる。
「ほらほらそんなみないー!中学生じゃないんだからそこは察しなよ~」
陽彩のそばにいた赤木さんの何とも誤解を生みそうなフォローのおかげでとりあえず視線は散った。
しかし、助かったのは事実なので心の中で感謝する。クラスの中心人物である赤木さんの言葉であるという事実も大きいだろうが、含みのある言い方もこの手の話題が大好きな高校生の興味をそらすには良かったのかもしれない。
「へー、なるほどな」
「何がなるほどだ。本当に今は何もないぞ」
「今は、か」
楽しそうな慎也を横目に次の授業の準備を終わらせるとちょうどチャイムが鳴った。
これといった事件が起きることもなく午後の授業も終わって放課後となった。特に用事もないので帰るために玄関から外に出た。
もちろん隣には嬉しそうに手をつないでいる陽彩もいる。
慣れてきたおかげか、ついには周りの視線もそれほど気にならなくなってきた気がする。元々気にも留めていない陽彩はいつも通りだが。
決定的な噂が広まったと思われる昼休み以降では、何度が事情を知りたがる同級生に詰め寄られることもあったけれど、慎也が手を貸してくれたため上手くかわすことができた。確実に面白がっているが、経験があるおかげかこういう時には頼りになる。
「陽彩も用事はなかったよな。このまま帰ろうか」
「うん。でも寄り道してもいいよ」
「今からだったら遅くなりそうだからまた今度な」
「分かった。今日はいっぱい一緒にいれたから満足。でも家まではついて来てほしい」
「ああ、そのつも..」「せ、せんぱーい!」
陽彩に元々送る予定だったことを伝えようとしていたが、後ろからかけられた声にさえぎられた。
振り返ると、そこには陽彩といい勝負が出来そうなくらい美少女がいた。元気いっぱいといった感じで可愛さの方向性は違うとは思うが、中々の数のファンがいてもおかしくはない。
胸に赤いリボンをつけていることから一年生であることが分かる。ちなみに二年生である陽彩は青色のリボンをつけている。
「やっと追いついた。先輩!何ですかその男は!」
「薫だけど?」
先輩とか呼ばれているが俺に向けられたものではない。キッと睨んでくるこの一年生の彼女とは初対面である。
そうなると陽彩の後輩であるとしか考えられないし、実際に会話をしているので間違ってはいないはず。
陽彩に仲のいい後輩がいるとか初耳で少し以外でもある。赤木さん達以外にも親しい人がいたようだ。
「陽彩の後輩か?」
「何で先輩のことを呼び捨てにしてるのですか!」
「うん、西川怜美。何故か気に入られている」
「当たり前です!先輩は私にとってヒーローですから」
少し食い気味な陽彩の後輩、西川さんはぎゅっと握られた手に気がつくとさらに目つきを厳しくした。
お前には陽彩はふさわしくない!とかいう展開も起こりそうだとか考えていたが、さすがに陽彩の後輩の女子に標的にされたことは予想外だ。
隣にいる陽彩は少し面倒くさそうにしている。こんなことが前にもあったのかもしれない。
何より何事だという周りの視線が集まることで、せっかく慣れてきていたのにまた胃が痛くなってきた。穏便にすましてくれないだろうか。




