第6話・The world still unseen-対となりし指輪-
『あの!』
話し掛けたい気持ちで勇気を振り絞って私は飛竜に話し掛けた。
『何だ?…』
飛竜は急に話しかけられ、不思議そうにそう言った。
『いや…その…ヴァインが来るまで時間が有るから…雑談でもしようかと思っただけだ』
と、私は思った事を何とか伝えた。
“只話したかったのも有る”のは、言わなかったけれど。
『そうか…』
と、俺は頷いた。
スカーレットは恐らく、この緊急事態過ぎる状況なので、気を紛らわすつもりでも有るのだろう。
むしろ、それが主な理由だろう。
スカーレットは非常に素直じゃない。
だから、そう言う事なのだろう。と、受け取る事にした。
『…大会、優勝したから、所持金、俺達は多いな…』
飛竜は、私の気まずさを読み取ったのか、話を振ってくれる。
大会とは勿論、コスプレ大会の事だろう。
優勝賞金として、ゲームでのお金も1000000G、リアルでのお金も1000000円貰ったのだ。
まぁ、他にも色々貰ったのだが。
『あぁ…コスプレ大会の事か。
あれは、散々だった。
エリーゼのイベント好きには、いつも振り回される』
と、私は呆れた顔をする。
『あぁ、そう言えばエリーゼとスカーレットは、幼なじみだったな…』
と、思い出したように、飛竜は言う。
『そうだ。
たしか、幼稚園からだ』
『かなり前だな…』
と、親友との付き合いの長さに感心したように、飛竜は言う。
『エリーゼはどんな性格の奴とも合いやすい。
だからだろうな』
『そうか…』
それもそうだなと言うような雰囲気で、飛竜は頷く。
『昔から、エリーゼには、あー言うイベント以外も勧められて、ひとまずやっていたな』
『もしかして、このゲームもか?…』
と、疑問を純粋に飛竜は向けてくる。
『いや、違う。
このゲームは、エリーゼに私が勧めた』
『それは意外だな…
なんで、始めたんだ?…』
更に疑問が浮上したようで、飛竜がそう聞いてくる。
『ちょっと…な』
彼女がそう言った瞬間の顔は、とても寂しそうな、悲しそうな顔をしていた。
『そうか……』
俺は、思わず声のトーンを下げてしまう。
ちょっとやってしまったというか、地雷というか、辛い過去か何かを踏みにじったような気分になった。
俺まで悲しそうな言い方に成らなかっただけ、ましな気がするが。
『そういえば、色々アイテムをもらったけど
これは一体なんなんだろうな』
『…あぁ、確かに分からないな』
彼女は話をそらすように、コスプレ大会で貰った物の話へと話を戻した。
そう、俺と彼女には、御揃いというか、色違いの宝石のような物が付いた、指輪が渡された。
その名前は
『The・The・still・unseen』
この指輪には、The world still unseenという名前がついていた。
The world still unseenと言えば、ワルマスのオープニングテーマであり、ワルマスユーザーなら誰でも一度は耳にした事の有る…いや、むしろログインするごとに毎回聴いているわけであり、慣れ親しんだ名前であった。
そして、彼女の指輪も俺の指輪も、黒い金属のようなものでできていて、細く、そして細かい文字が書いてあった。
『この文字…この世界の文字に似てるな…』
俺がふと、気付いた事を口にする。
『確かにこの文字は、ゲームでよく表示されるやつだな』
彼女も賛同するように、そう口にした。
そう、そこに掘られていた文字は、ゲームでよくある、四角やらなんやら等と簡単に口には出来ない変な形をしている物が、不規則に並べられていて、それが文章として使われている…とかなんとかなアレである。
全文を考えるのが面倒だったのか
本や新聞といった小道具で、必要な所だけ人間の言葉で、他がそんな記号というのはしょっちゅう見かけた。
それこそ、The world still unseenを耳にする回数並に目にするのである。
『というか…この宝石…なんだろうな…』
俺は、更に疑問に思った事を口にした。
『貴女の指輪の宝石は炎の様に燃え上がり、対となりし宝石は、二人を新世界へと導くだろう?』
彼女は、自分の指輪の方の説明を読み上げた。
俺もつられて読み上げる。
『貴方の指輪の宝石は氷の様に凍てつき…対となりし宝石は二人を新世界へと導くだろう…?』
『よく分かんないな』
『あぁそうだな』
『取り敢えずこの指輪は、外しておこう…て、あれ!?』
俺達はイベントの時に、何故かやたらとステータスの上昇が凄いこの指輪を、取り敢えずマイキャラに着けたのだ。
だが、今となっては恐ろしい。
なんか、揃ってはいけないものな気がしてしまう。
だからと、彼女は外そうとした。
だが、抜けない様で…
『俺もやってみる…っ…!?』
一緒に俺も指輪を取ろうとするも、抜けなかったのだ。
前に載せた時より、かなり内容を変更しました。