第5話・気付かれない恋心と隠された恋心。
『取り敢えず、エリーゼとミミに連絡する…』
と、言いながら、先程飛竜にも説明したメニュー画面を出す。
『お、本当に出るのか…』
と、飛竜が少し驚いたような顔をした。
どんどん現実味を増していく、この“ゲームの世界に来てしまった”と言う現実。
それをやはり、嫌だとか思っているのか、飛竜の眉間にはシワがよっていた。
『あぁ…』と、その声に答えながら、私は“精神感応”をかける。
電話ではなくテレパシー。
そう、ゲームなので、電話のままの名称だと、ゲームの世界観を壊してしまうと言う運営側の判断によって、このような名称に置き換えられている。
しかし、結局はこの機能は電話と全く同じである。
そして、ひとまずエリーゼに連絡をする。
ミミだとテンパりそうだし、やはり、ここは年が少しでも上の方の人に連絡すべきだと言う、私なりのギルドマスターとしての判断だった。
『♪~』独特の効果音的な物が鳴る。
『…』そこもゲーム仕様かと、飛竜は更に眉間にシワを寄せながら私を見る。
すると…
『わっ!スカーレット!
今、連絡しようとしてたの~!』
『そうか
取り敢えず集合するぞ
場所は、ギルドホーム
以上、話はそれからだ』
と言って、私はテレパシーを切る。
彼女…エリーゼなら分かってくれる筈だ。
私はギルドマスター。
そう、この『unstable・story』と言うギルドの責任者。
皆になるべく短時間で連絡し、人を集めないといけない。
何故、早くするかなんて、理由はひとつだ。
“ずっと一人で放置していたら、死者が出る可能性が有る”のだ。
いつもは、勝手に死んでから放置しても、一定の時間と経験値を消費して生き返っていた。
しかし、今回は異常事態だ。
そうなるとは限らない。
なので、とにかく人を直ぐに安全な此処へと集めたいのだ。
他にも異常事態が起こる可能性も有る。
そして、普通の事態だって起こる可能性が有る。
ミミのような見習いが、モンスターに一人で立ち向かうのには、レベル的に不可能なモンスターも居る。
そんなモンスターに出くわしたら?
急に何処かにモンスターが大量発生したら?
色々な可能性を考えると、ギルドホームには確実にモンスターが来ない設定なので、一番安全に思えた。
それすら、異常事態で…
と、言うことも無くはない。
なので、取り敢えず此処に居る二人で、空間魔法をかけていた。
そう、技は発動できたのだ。
とにかく、アサシンの私の、“Asashin・Place・Guard”と…
エクソシストの飛竜の、“Darknight・Melt・Talisman・Place ”は、同じ英単語が使われているだけあって同じような効果の物だった。
一言に簡潔にまとめると…
“ある程度の範囲に敵が入らなくなる技”と言う物だ。
二人の次に使えるまでの技のメーターの回復時間を考えて、交互に使う事にした。
そんな事を考えながらも、私はテレパシーを様々な人にかける。
(あと一人…)
と、思いながらテレパシーをかける。
そして、ギルドメンバー全員への説明が終了した。
『ヴァインが一番近くに居るようだ。
私の記憶による此処からの距離を考えると…後、10分程で着くだろう』
『分かった…』
私が説明をすると、彼はそう言って頷いた。
(しかし、今、気付いてしまったのだが…
飛竜と二人っきりと言うのは…)
(少しばかり、緊張するのだ)
いつもは、四人で行動している。
飛竜と二人っきりの時間は数分どころか、数秒も無かったと思う。
班長との会議をするのも、飛竜は班長ではないし、班長は私だ。
私は戦略などを考える事が多いが、飛竜は武器などの修繕などの管理が仕事だ。
とにかく、そんな彼と二人っきりの空間。
しかも、短くても二人っきりの時間は10分間…
一言で言うと…長い。
何故今、飛竜との二人っきりの空間に気恥ずかしさを感じるのか、私にも分からないが、居心地悪い感じはしない。
むしろ、何故か心が暖かい気持ちになる。
何故だかは分からないけれど、悪くない感覚。
私は、たまには飛竜と二人で雑談でもしてみたくなった…
こんな非常事態が起きている時こそ、落ち着くために雑談をすべきと言う考え。
そういう事にした。
何かが腑に落ちなかったけれど…
『ヴァインが一番近くに居るようだ。
私の記憶による此処からの距離を考えると…後、10分程で着くだろう』
『分かった…』
スカーレットが説明をすると、俺はそう言って頷いた。
(しかし、今、気付いてしまったのだが…
スカーレットと二人っきりと言うのは…)
(少しばかり、緊張する)
いつもは四人で行動している。
スカーレットと二人っきりの時間は数分どころか、数秒も無かった筈だ。
班長との会議をスカーレットはギルドマスターとしてするものの、俺は班長ではないし、班長はスカーレットだ。
スカーレットは戦略などを考える事が多いが、俺は武器などの修繕などの管理が仕事だ。
とにかく、そんなスカーレットと二人っきりの空間。
しかも、短くても二人っきりの時間は10分間…
一言で言うと…長い。
今、スカーレットとの二人っきりの空間に、気恥ずかしさを感じる理由は…まぁ、理解しているのだ。
そして、勿論居心地悪い感じはしない。
しかも、心が暖かい気持ちになる。
単純かつ簡潔にまとめると悪くない感覚。
俺は、たまにはスカーレットと二人で、雑談でもしてみたくなった…
こんな非常事態が起きている時こそ、欲が出るのかもしれない。
そう、俺は…
ギルドに入る前、
彼女がこのギルドを作るよりも…
ずっと前から…
彼女が好きなのだ。
そんな彼女とやっと仲良くなって、彼女のギルドに入れて、彼女の班やパーティーに入れる。
それだけで満足な筈だった。
心の底から満足していた筈なのだ。
なのに人はやはり貪欲で。
人間とは、満足していた筈なのに、貰うと次が欲しくなる生き物だ。
俺は彼女…スカーレットを欲していたのだ。
強くて優しくて仲間想いで…時に、少しだけ照れたりする…そんな彼女が好きなのだ。
そんな彼女が欲しいのだ。
スカーレットと話したい。
スカーレットと二人っきりになりたい。
なんて我が儘言っちゃいけない…
なんて想っていたのに…
酔っぱらう彼女の弱味に漬け込んで、純粋さに漬け込んで、俺は彼女を家に招き入れた。
自分のベッドに寝かせた。
彼女の寝顔を覗いた。
寝惚けていたからとか彼女が一人だと寒いからとか、理由を付けて彼女の眠る俺のベッドに俺は入った。
そう、彼女に好かれたくて作ってきた完璧な人間だって、結局は嘘なのだ。
只のカッコつけ。
それでも…彼女と此処で、二人っきりを堪能したかった。
エリーゼと彼女のように、彼女と他愛もない話をして、盛り上がりたかった。
ミミと彼女のように、彼女に甘やかされたかった。
そして…甘えてほしかった。
俺だって男なんだ。
(いつも優しい只のエクソシストじゃない。
いつ狼に成るか、分からないんだぞ?)
なんて言える程、心から優しくなかった。
俺は寝ぼけた彼女におはようと、笑顔で言われるのを待ち望んでいた。
目が覚めたら、大好きな彼女と二人っきりの時間が長くなった事を知った。
本当ならば俺達は此処に居なくて、来る筈もなくて、彼女は目が覚めれば、俺にこれ以上迷惑をかけまいと考えるだろうから、足早に彼女の家に帰宅して、二人とも各々の自宅で二日酔いにやられる筈だった。
又、ゲームで会うだけの関係に戻る筈だった。
だから、目が覚めて、彼女と此処に来れた事は奇跡とも思える程に嬉しかった。
どうやら、俺の愛は重いらしい。
でも、理性は人一倍有るらしい。
彼女の寝顔を覗いて、襲わなかったのは、本当によく耐えたと思った。
彼女に嫌われたくはない。
そんな、俺の欲望も有るのだろうけど。