53話・頭を抱える他ない現実
すると、プツリとその着信音が切れ、無音になった。
そしてそれから数秒後…
『んん…………ふあぁぁぁ〜…』
と、間延びした大きな大きな欠伸の後に、
『なーちゃんってばぁ…ふあぁ…朝からどーしたのー?』
と、話すエリーゼの声が聞こえた。
『どうしたもこうしたも…!』
一瞬、本名を元にしたあだ名呼びなんてリアルの時みたいな…て、今ここはリアルだったか…
まぁ、とにかく、そんな風に呼ばれた上に、更にはこんな事態にも関わらず、間延びした欠伸をしたり、どうしたの?と言い出すエリーゼを叱ろうかと思ったが、そこでふと気付いてそれを私は押し殺した。
『……エリーゼ、もしかして覚えてないのか?』
私は恐る恐る、その言葉をエリーゼに突きつけた。
『なになにー?
エリーゼって呼ぶって事は朝っぱらからお二人でゲームかなぁ?
ナニソレ聞いてないわよ!面白そう!ひゅーひゅー♪
ていうか、覚えてないって何の話ー?』
そこで、スピーカーにして通話をしていたので、私と同じでエリーゼの話を聞いていた飛竜が何かを悟った様な顔をした。
『……エリーゼ…………昨日は何があったか覚えてるか?……』
先程の私よりも慎重に、恐る恐るといった声で飛竜はエリーゼに問いかけた。
すると、エリーゼは一言、
『え、もしかして酔っ払ってたから昨日の記憶無いのー?』
と、間延びした、いつもの明るすぎるハイテンションな声で聞いてきた。
そこで私達二人は硬直した。
最早想定外の事態過ぎて思考が停止してしまった。
そこをなんとか動かそうと意識をなんとか取り戻した後に、必死に考えて一言、私はエリーゼに言った。
『ゲームの世界に行った覚えはあるか?』
勇気を振り絞って言ったその言葉は、
『え?なになにー?
二日酔いでテンションおかしくなっちゃったー?
え、いつもはそんな事言わないじゃん?え?なんかあったー?』
という、無知で純粋そうな言葉の前に玉砕してしまった。
『いや、な、なんでもない…
あ、その、えっと、急用を思い出したから切るな
ま、また会おう』
と言う、苦し紛れの言葉を残し、私はエリーゼの返事も待たずにブツリと通話を切った。
そして、今度は即座にミミに電話をかける。
数秒後に着信音が途切れ、
『もしもし…御早う御座います…ミミです…
どうかしましたか…?
スカーレットさん…』
と言う、か弱くも礼儀の正しい声が聞こえてきた。
そこで私は飛竜の方を向き、真顔で一言。
『ミミが…無事だ…な』
と、言ってしまう程には驚いた。
そしてそれに対して飛竜も一言。
『…ミミが…居る…な…』
と、真顔で言い放った。
その瞳は大きく見開かれ、本気で驚いているのが見て取れた。
ひとまず私は無事を確認し、エリーゼにした様な質問をしてみたものの、同じ様な答えしか返ってこなかったので、ひとまずまた見苦しすぎる雑な言い訳をして通話を切った。
その日は今年初の雪が降っていた。
今日から寒くなる様子で、それはまるでこれからの私達の不安な過酷な未来を表している様で…
私達は頭を抱えるのだった…




