第39話・忘れたい人と忘れたくない人
それは、あの“合法的あーん事件”から、一週間が過ぎた頃の事だった…
『ザー……』
窓の外で雨が降り続けていた。
その滴る水に俺は見惚れていた。
こう見えて、俺は雨が好きなのだ。
なので、ぼーっと、窓を伝う雫達を見ていた。
宝石のような、綺麗なその光景が、俺は何故か昔から好きだった。
(…あの夕焼けが好きなのも…雨が好きなのも…やっぱりどこかで…忘れられないからなんだろうな…)
と、昔の誰かを思い描くも…
(いや、俺はもうスカーレットしか見ないんだ)
と、ハッキリと心の中で言いながらも首を横に振る。
(もう…俺は忘れるんだ…あの人の事も、あの日の事も…!)
俺は、自分に暗示をかけるように、何度も何度も心の中でそう口にする。
すると…
(?…あれは…)
目に入ったのは、窓の外、この二回にある俺の部屋から見ると下にある道で、雨の中で傘をさす1人の女性。
その女性のさしている傘は、まるで…いや、気のせいだ。
と、首を振ってもう一度見ると…
(黒髪のポニーテール…???)
そう、よく見ればポニーテールが傘から見え隠れしていた。
もしかして…と、思い、俺は傘だけ持って外に出た。
『あ、飛竜』
彼女は俺を視界に入れると、即座にそう口にした。
『なぁ、良ければ私と一緒に買い物に行かないか?
持てないんだ荷物がかさばるから邪魔で助けてほしい』
ちょっと俺は喋り方に疑問を持った。
(あれ…?スカーレットなら…
『あ、飛竜か
良かったら…その…一緒に…買い物に…出掛けてくれないか…?』
とか…顔を赤らめそうなものだが…
というか…口調が地味におかしい…
…そもそも…スカーレットはあまり…素直に助けてほしいなんて…言えない性格の筈…)
と、少しずつ違和感が確かなものへと変わっていく。
よく見ると、前髪の分け目が、鏡で写したように左右反対になっていた。
(…もしかして)
俺は、ふと、ある事に気付いた。
(サブ職業は…おふざけめいたものも…有った筈…
確か…エイプリルフールのイベントで…限定で得られる…サブ職業の選択肢として…嘘つきピエロと言うものが有ったような…
もしかして…この人は…エイプリルフールのイベントに参加していた経歴があるのか…?)
と、真剣に考えていた。
すると…
『どうかしたのか?』
と、いつの間にか近付いていたスカーレット(?)が、俺の顔を覗き込んでいた。
いつもならドキッとしてしまう所だが…なんだかむしろ怖く感じてしまう。
背中には冷や汗が伝う。
(こいつは…偽物だ)
ハッキリと俺は、そう、思ったのであった…




