第2話・恥ずかしいイベント
『ねぇ、似てるかなー?』
そう言いながらエリーゼはその場で私にその姿を見せるようにくるくると回る。
そんなエリーゼはカンナギらしさ全開の、白い着物のような服に、赤い帯の目立つ、巫女のような服を着ていた。
そして、その頭には長い金髪をポニーテールにするように結われた帯と同じ布と色のリボン結びがワンポイントという感じに目立つ。
金髪には綺麗に映えているようにも見えた。
そして、オレンジ色の目を輝かせる彼女の回転に合わせて、ふわりと巫女服の裾が揺れて、どこかエリーゼらしさを醸し出す。
エリーゼと呼ぶけれど此処は現実世界。
3次元。
リアル。
そうこれは、WORLD MASTERのコスプレイベントなのである。
そして、ここはコスプレイベントの会場だ。
コスプレしてきた人には全員に限定アイテムが貰えるし、コスプレ大会でそこそこの順位に入れば、更にレアな限定アイテムが貰える。
なので、コスプレが好きじゃない人でも皆ほぼほぼ集まっている。
私のギルドの人達も又、そうだった。
特に私の班の人達は、エリーゼのイベント好きと少しばかりの強引さにより、全員集まっていた。
ちなみに今は、エリーゼと私が居る所が待ち合わせ場所で、此処に会場の別の場所に居る二人が来るのをエリーゼと待っていたのだ。
『エリーゼは似ている…だが…しかし…
これは…似合ってるのか…?
似ているのか…?』
私は不安だった。
アサシンのスカーレットがマイキャラなのだが、完璧主義の私から見ても結構頑張った方だと思うのだが、自分の元々の姿に合わせると似ない者も居る。
そもそも服も服だ。
黒い革製のこの服は…簡単に言うと布面積が少ない。
いや、少なすぎて心許ないし、なんだか色々とスースーして落ち着かない。
何故ならばこの服は、高校か何かの制服かのように段の入っている黒い革製の短めのスカートと、上半身を隠すかと思いきや、大胆にもお腹やら腕やら首やら鎖骨やら…を、晒した革製のトップスだけであり、他は、某ゲームのような、ガーターベルトに小さなナイフが装着されていたり、控え目な黒いローファーと長めの黒い網の靴下だけなのだ。
己の黒い髪の毛で隠すなんて事も、同じく黒い革製のリボンで、エリーゼと同じく、ポニーテールになる様にリボン結びされており、出来ずじまい。
きっと、私の赤い瞳は不安さを物語まくっていることだろう。
そんなの、鏡を見なくても分かる程に分かりきった事だった。
そして、他にも不安な事は有った。
私はマイキャラとほぼ同じ身長だが、少しばかり美化されているのは二次元ゆえ、致し方ないわけで…
似ているのか、不自然じゃないか等々…内心、とても不安だったのだ。
『いやいやー!
めっちゃ似合ってるし、めっちゃ似てるよー!』
と、エリーゼが褒めてくれる。
ついつい少しだけにやけながらも喜んでいると…
『おい、スカーレット…』
私は、ゲームのチャットで聞き慣れた声に思わず振り返った。
『飛竜…』
初めて現実で会った飛竜はとても格好良かった。
すらっとした細い体に私より少し高めな身長。
そして、少し猫っぽくてクールな青い瞳。
それを少しだけ隠すように少しだけ長く伸びた前髪。
そして、ショートカットに綺麗に切られたサラサラの黒髪。
そして、その黒髪と同じ様な色…つまりは、私の服と同じ、黒い革製のマントの縁には、金色の金具が控え目に有ったりと、彼の雰囲気にぴったりだった。
その、手に持っている黒い杖の先端で光る青い宝石のような物は、まるで彼の服装や髪と、彼の目のように映えていた。
そして…私を真っ直ぐ見つめるその青い瞳の目線。
私はどんな次元の者を含めても、初めて男に見とれてしまった。
思わず、その…び…美貌に…恥ずかしさと見たい気持ちでぐちゃぐちゃに心を掻き乱されながらも、見とれていると…
『どうした…?…』
と、本人に聞かれてしまう。
恥ずかしい。
恥ずかしい以外の何者でもない。
と、私が内心物凄く焦っていると…
『…後さ…』
『な、何だ…?…』
恥ずかしさと不安で、思わず飛竜へと返事をする声がか細くなってしまった。
『似てるし…その…可愛いと…ま…まぁ…
思わなくもない…
あ、いや、今のは忘れてくれ…』
と、飛竜は不自然に私から顔を背けた。
どうかしたのだろうか?
もしかして…私の格好があまりにも不自然で…笑うのを堪えてる…?
いや、飛竜はそんなにも人の事を笑うような悪い人ではない筈だ。
そう考えると…
私の格好があまりにも不自然で、それを言うのを彼独自の優しさで言えないが、言いたくならないように目を背けた…?
いや、彼ならば言いたくなったりしない。
なら…何故だ…?
分からない…全く分からない…
何故だかそれが物凄く辛かった。
飛竜の事を一番理解できるのは、私だと思っていた。
だけど、理解できなかった時点で、違うのだ。
そう、軽く落ち込みかけていた。
すると…
『…可愛いって素直に言えなくて照れ隠ししてるだけだよあれは…』
と、とてつもなく恥ずかしいレベルの、自惚れた誘惑の多い希望的な言葉を、私の耳に向かってエリーゼが囁くような小さな声で残した。
私の顔は真っ赤だっただろう。
そんな…そんな事…考えた事も無かったのだから…
そう、顔を真っ赤にして、恥ずかしがっていると…
『あの…エリーゼさん…ですよね?…間違ってませんよね?…
ミミです…似てないとは思うのですが…ミミです…』
エリーゼがにやにやと私の真っ赤な顔をいたぶっていると、エリーゼの後ろから聞き覚えのあるか弱い声が聞こえてきた。
『あ、ミミちゃん!!
可愛いっ!似てるし、似合ってるー!!』
そう、エリーゼが反応した目線の先には、中学一年生か小学六年生位に見えるが大人の、小柄で幼い大きな桃色の瞳と長い焦げ茶色の髪を姫カットにしている少女が居た。
といってもれっきとした大人だが。
そう、この班の最後のメンバー、ミミだった。
ミミはドルイドらしい、麻の布でできたシンプルな白いワンピースを着ていて、その上から緑色の透けた布を肩からかけていて、その頭には緑色の鮮やかな葉っぱと綺麗な白い花達でできた冠。
まさに植物の精霊の少女といった雰囲気だ。
その困ったように眉を下げた表情は、まさにそれらしいとしか言えなかった。
ハイテンションな状態でエリーゼは、そんなミミを褒め、抱き締める。
その状態のミミはまるで、ぬいぐるみのようだった。
『あ、ありがとう…ございます…』
ミミは少しだけ顔を赤らめて、恥ずかしそうにたどたどしく照れる。
『よーし!皆集まったしー!!
コスプレ大会行きますかー!!』
『お…おー!…』
恥ずかしそうにミミは手をグーにして、ゆっくりと腕を上げる。
『『…』』
『いやいや!?二人ともノリ良くね!!』
『行きたくもない物に、ノリもなにも無い…』
『同感だ』
私は飛竜に賛同する。
『も~!そんなんじゃ優勝できないよー!』
『別に優勝したくない』
『同感だ…』
今度は駄々をこねるエリーゼに、冷たく返した私の言葉に、飛竜が賛同する。
何だか飛竜に賛同されるのは、他の誰に賛同される事よりも、一番気分が良いと今思った。
しかし、そんな“別に優勝したくない”と言う気持ちは…
ズタズタに切り裂かれるのだった…
『わ…私が優勝…だと…?…嘘だ…』
私は震えて怯え、顔を青ざめさせながら、ステージの真ん中で固まった。
『いえ、現実です!!ゲームじゃないですよー?
あ、スカーレットさんは、二次元みたいに見えますけどねー!
いやー!そっくり過ぎですよー!』
と、司会は私の動揺ぶり等を無視して話を進める。
『では、レアな限定アイテムとゲーム内のお金…そしてー!!
何と、現金をプレゼントしまっす!!』
『おーー!!』』』
私の気分や気持ちなんてそっちのけで、会場は司会の言葉に合わせる様に盛り上がりを見せる。
『現金、百万円です!!』
『おーーーー!!!!』』』』』』
先程の二倍位の歓声が聞こえる。
もう私は何かを諦め始めた。
すると…
『しかもー!!なんと、同率一位が居ます!!』
『おーーーー!!!!』』』』』』
え、他にも居たのか…?と、そっちに注目が集まって私の存在が薄れないか?だの、変な希望を見出だしたりしていたら…
『それは…飛竜さんです!!』
は?
私は思わず固まった。
しかし、夢でも嘘でもない。
隣にはよく知るギルドの仲間、飛竜の姿があった。
その顔は青ざめていて、私の顔と同じように“早く帰りたい”だの“なんで俺が”だのと書いてある様に見えた。
『いやー!美男美女で優勝!!
しかも、同じギルドだそうで!
凄いですねー!!
飛竜さんにも、同じ、商品が渡されます』
そして、先程の私への対応の如く、彼の落ち込み様をスルーして、司会は会場を盛り上げつつも、話をさっさと進めていくのだった…。