第32話・強気なお姉さんの愛の鉄槌
時は戻り、まだ、スカーレットがアトランデ第17洞窟に来たばかりの頃…
ミミと同じように、何かを察するお姉さんが居た…
そう、ギルドでのハイテンション&姉担当と言っても過言ではない彼女…言わずもがなエリーゼの事である。
彼女はわざと、それに気付いていながら、飛竜に付いていった。
(多分、スカーレットの方はミミに任せておけば良いよね)と、思っていたからだ。
あぁ見えてミミは意外と芯が強い。
スカーレットを叱る位は出来るだろう。
…その後に我に返って慌てそうだが。
それはさておき、私は敢えて飛竜と二人っきりになり、そこで叱ろうと企てていた。
そして、それに気付かぬ鈍感不器用馬鹿ペアの片方の飛竜が、アトランデ第1洞窟へと私を案内した。
事情はテレパシーと飛竜が出迎えてくれた洞窟入口から此処に来るまでの間に飛竜が話してくれたので、なんとなく把握していた。
『で、その吸血鬼?は、どこなわけー?』
と、平静を装って、いつものように呑気な声で問い掛ける。
『そこの岩の陰に…あ、居た…』
と、飛竜は私に教えるように吸血鬼の方を向き、彼が言う通り其処に居た吸血鬼に近付く。
『モンスターに何か…治癒とか出来る能力とかはあるか?…』
私は、咄嗟にとある物を鞄から取り出した。
『これ、カンナギの能力を込めて、回復の薬として使えるやつなんだけど…試してみる?』
そう言って彼に見せたのは緑色の液体の入った、理科の実験に出てくるフラスコのような形の物だった。
回復系の職業の者なら、誰でも扱える物であり、レベルが高く、能力が高ければ高い程回復の力が強まるポーションとして有名な物だった。
『あぁ…お願いする…』
ひとまず、私は目を閉じてポーションを握り締め、精一杯力を込める。
すると…少しずつ私が緑色に発光し、その光がポーションへと流れ込んでいった。
そして、その光が全てポーションに流れ込むと…私はそっと目を開けた。
『こんなもんかな』
と、見つめるポーションは、先程の只の緑色の絵の具を溶かした水のような物から、緑色の蛍光ペンのインクを入れたような物へ変化していた。
『じゃあ…飲ませてくれ…』
と、飛竜が私が吸血鬼にポーションを飲ませやすくするために、顔を少し持ち上げて吸血鬼に膝枕をした。
私は、吸血鬼の頬を押さえ、口を開かせて少しずつポーションの中身を流し込む。
すると…吸血鬼の体が発行し…
『あ、ステータスのHPんとこ、回復したね!』
先程まで少なすぎて真っ赤だったHPが、MAXになり、真緑に変化していた。
『…有難う、助かった…』
と、彼が礼をするが…
『何が?』
私は、彼を睨み付けた。
『え…』
彼はまさかの反応と言った感じに固まる。
それもその筈、この鈍感不器用馬鹿は鈍感で不器用な馬鹿なのだ。
スカーレットがこんな事をされて勘違いしてしまう事など知る訳もない。
いや、知っていたらまず、彼はこんな事をしないだろう。
『好きな女の勘違いする事すら知らない奴に礼なんて言われたくないわ』
私は、更に冷酷な瞳で睨み付ける。
『好きな女…スカーレットが何を勘違いするんだ…?』
私は、飛竜の好きな人がスカーレットである事を理解していて、その事を彼も分かっていた。
(あんだけ分かりやすいアピールしておいて、分からない鈍感不器用馬鹿なんてあの子だけよ…)
と、心の中で幼馴染の彼女に呆れつつ、私は話を続けた。
『君、まだ分かんないわけ?
君のやってる事と同じことをスカーレットにされてみなさいよ
スカーレットが何かあった時に、君じゃなくて私を呼ばれてみなさいよ』
私は、暗に、考えろと、想像しろと指示をする。
(此処で気づかなかったら…許さない…)
と、心の中で思いながら…




