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異世界でツンデレちゃんは恋に落ちた。~unstable・story~  作者: 十六夜零
3章ーThere is a shadow behind the fun. ー
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第17話・死んでも尚続く苦しみよ、過去を返してはくれないか?

私は彼が回復魔法をかけてくれた瞬間に悟った。

彼が、私をひとまず動けるようにして、何とか二人で逃げようとしているという事を。

でも、回復をされても尚、彼に手が届かない。

意識が朦朧とする。

(此処で終わりなんて…

私は…まだ…まだっ!…)

声すら喉から㎜単位の息を掠める程度に出すだけ。

すると、彼は吸血鬼に転送魔法をかけられた。

多分…私を殺してから彼を殺すため…彼に私を殺す邪魔をさせないためだ…。

『…そ…そんな…!』

私は絶望にうちひしがれ、もう、動く気力も湧かなかった。

このまま私は吸血鬼に殺される…

その筈なのに…

此処で死ぬ筈なのに…

『ほら、攻撃をしないから回復のポーションを飲め。

持ってるんだろう?』

怪物であり、敵の筈の彼は攻撃をしてこない。

しかも、回復しろと言う。

私は最後の力を振り絞って、言われるがままに回復のポーションを飲む。

それしかなかった。


たとえ、その意味がまだ(・・・・・)理解できなかったとしても。


『シュワ…』

私の周りで炭酸のような音を立て、緑色のエフェクトを纏いながら、HP等が回復をしていく。

『え…』

回復のポーションを飲むと何か私に不利な事が起きる何かを仕掛けていて、それで飲ませたのかと思えば、そんな事は無かった。

怪物のような顔をしていた彼は、まるで人間のような、寂しそうな顔をしていた…


『何か…辛い事でも有ったのか…?』


聞いてはいけないと、何だか直感で思ったが、思わず聞いてしまった。

すると彼は…少しだけ驚いたような顔をした後に、又、寂しそうな顔をして、話を始めた…


『俺は…何度も蘇る怪物だ。

そして、お前ら人間の敵だ』


その声さえ辛い気持ちが滲み出ていた。

これから辛い話が始まる事が、私には分かった。

そして、それを私は最後まで聞かなければいけないと事も分かった。

なので、私は黙って話を聞く事にした…






俺の名前は…無いのかもしれない。

それすら忘れる程、両親との楽しい記憶は昔の事だった。

優しく頭を撫で、微笑む母の顔。

その隣で楽しそうに話をする父。

そして…俺と一緒にその話を聞く…親友の姿は…もう、思い出所か、思い出せない程、昔に成ってしまった…

その親友と俺はとても仲が良かった。

その名前は…

それすら出て来ない。

それでも、その時は名前を呼び合って、よく遊んだ気がする。

本当に仲睦まじい、幸せな家族と親友だったと思う。

しかし、それは、普通ではなかった。

俺達は駆り出された。

永遠の眠りの無い苦しみの世界へと…











あの日だけは、鮮明に覚えている。

『一緒に遊ぼう!!』

そう言う親友の声。

『おう!何して遊ぶか?』

と、楽しそうに返す俺の声。

『今日はあれしたい!』

楽しそうに何かをしたがる親友。

『良いぜ!何したいんだ?』

それが何か気になって仕方がない、好奇心旺盛な俺の笑顔…

『あのね!それはね!』

それが映る、親友の俺に聞かれて嬉しそうに輝く瞳。


『ザザッ…』


すると突然、頭にノイズのような何かが響く。

視界がほの暗く、歪んでいく…



『…此処は?…何か暗い…?…此処って…洞窟?…』

ふと、目が覚めると、暗い暗い、本等でしか見た事の無い、洞窟のような光景。

すると、隣には親友の姿。

『何処だろう…確かに本の洞窟にそっくりだぁ…』

親友は突然の事に、いつも明るい筈の声が震えていた。

それが更に無理矢理隠していた俺の恐怖心に、意図もなく追い討ちをかける。


皆の悪戯だよきっと


そう言うつもりが…


『ギンッ!!…ブシャッ!』

目の前で光る残光と、飛び散る赤い液体に、遮られた。


『   !!』

親友の名前をきっと、あの時は呼んだのだ。


これが、親友の名前を呼ぶ、最後の日に成るなんて知らずに。






『嘘…嘘だ…そんな…馬鹿な…

    !!目を覚ませ!!』

冷たく成り、消えかけの床に横たわる親友にそう叫ぶ内に又、あの残光と血の香り。


そこで意識は途絶えた。






それから、一度だけ親友にそっくりな吸血鬼を見かけた。

『もしかして…!』

久しぶりに明るくなる顔。

『ギィ!!』

何を言っているのか分からなかった。

そう、親友はもうどこにも居なかった。

低く唸るような鳴き声を鳴らすだけの、文字通りの怪物に成り果てていた。

そして、皆は殺される毎に生き返るが、その都度、記憶を無くす事を知った。

そして、姿は変わらないで生き返る事を知った。

冒険者は俺達を怪物としか見ない事を知った。


(俺らが何をしたって言うんだよ!…話を聞いてくれよ!…)


嘆く声さえ誰にも届かない。

分かっていても…声さえ枯れる程に一人で洞窟の奥で叫んだ。


皆は記憶が消えるのに…俺だけ記憶が残る…


だったらこんな記憶なんか…皆みたいに消えてくれれば…!!


何度も願おうとしても願えなかった。

親友の記憶と言う、一本の唯一無二の心を持って生きるための糸を手放せなかった。

ただただ辛かった。

ただただ苦しかった。

ただただ寂しかった。

ただ…ただ…親友が欲しかった。

ただ…ただ…ただ…親友を取り戻したかった。


でも…叶わなかった。

親友との思い出として、覚えているあの日。

あの日に親友が首に付けていた銀のネックレス。

それだけが頭から離れない。

何度も探しても見つからない。

生き返った親友の首を見ても見つからなかった。

もう、親友は何処にも居ないのだ。

俺はそれを認めるしか無かった。


俺は、親友を殺したあの日の奴を探した。

見つからなかった。

それでも探した。

何度も探した。

でも…見つからなかった。


行き場を無くした感情は、無関係な冒険者達へと向かった。


(『あんたの仲間が!俺の仲間を殺したから!俺は!俺は!!』)


何度も何度も、俺は、あの日の事を考え、怒りのままに冒険者を切り裂いた。

あの日の親友のように。

その血の香りに苦しめられているのは、自分なのに。

馬鹿げていると分かっているのに。


分かっていても、止められない。

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