第16話・予想外は行き場の無い決心へと
しかし、そう簡単に行かないのが現実である。
『グオォ!!』
突然、この洞窟には出てくる覚えがないモンスターの鳴き声がした。
『『っ!?まさか!?』』
彼女と同時に同じ言葉で驚いた事すら二人とも気付かない程に俺達は驚いた。
『…Bloody・vampire…』
それは、人形の吸血鬼だった。
その姿は人だったが、人間らしい所は少ない。
その、微笑むように薄く細められた赤い瞳は、人間の血液を求める、狂気をはらんでいた。
しかし、それでも立ち向かう力を持つのが彼女だった。
『Light thatmeltsinthedark!!』
彼女は技名を叫んで、怪しく蠢くような、美しく光る短剣を敵へとさばく。
その美しさは敵の心すらも奪う。
しかし…
『そうはいかないさ…ははっ!』
そう、嘲笑って吸血鬼は暗闇にそれこそ溶けそうな程の黒のマントを翻す。
すると彼女が作り出した衝撃波は消える。
いや、消えたかのように見えていただけだった。
『シュー…』
後ろから不穏な音がした。
『スカーレット!後ろ!!』
俺は柄にもなく叫ぶ。
『っ!?』
彼女は驚く。
『喰らえ!!Bouncing・darknes!!』
『なにっ!?うわっ!?』
彼女は攻撃を避けようと退くも、咄嗟過ぎた事により、ふらついてしまう。
『ギンッ!!』
重い錆びた鉄の音が低く唸るように洞窟内に響く。
『うわあぁーっ!!』
『スカーレット!!』
彼女に叫んだのも束の間、今度は俺にその狂気的な殺意が向けられる。
『目の前で大切な仲間を殺される苦しみを…
お前にも味わさせてやる!!』
そう叫ぶ彼の顔が少し寂しそうで苦しそうだったのは、この時の俺は気付けなかった。
そして、気付けなかったからこそ、彼に敗北し、俺は死ぬ寸前のところで彼女の回復を何とかかけるも、そのまま吸血鬼に転送魔法をかけられ、目が覚めたら自室のベッドの上だった。
(このまま戻っても無意味…)
そうするしかなかった。
彼は、彼女を守るために力をつけて吸血鬼の元へ返り咲き、吸血鬼を討伐するしかなかった。
彼女を今の俺では守れない。
そう確信したのだ。
『俺は…このままで終われない…必ず…
アイツに勝って俺のスカーレットを取り返す!!』
彼の瞳には、行き場の無い事をまだ知らぬ、決心が蠢いていた。
それからと言うものの、彼はひたすら鍛練をした。
無茶な上に無謀な挑戦をした。
そして、圧縮したように濃度の高い苦痛の練習の時間には、彼女の姿ばかりが頭に浮かび、自分の弱さを悔やむ彼が居た。
そして、彼は無謀な挑戦を越えた。
その越えた先には…
彼女を助ける事しか頭に無い彼が居た。
ー一方その頃のヴァインとアンネはー
『うぅ…』
アンネは困り果てていた
何故かと言われれば…
此処が、木の上であり、アンネは木から降りる様な技術を持ち得て居なかったからである。
(うぅ…どうしよう…どうすれば…助けて…ヴァ…)
と、アンネがとある人の名前を心の中で言いかけた瞬間であった。
『アンネ、もしかして降りれないのか?
大丈夫か?
おーい?』
まさしく、その言おうとしていた名前の…言わずもがなヴァインが其処には居たのである。
『な、何で此処に…!?』
と、アンネが驚くと…
『別に…お昼になっても…来ないって…夜月さんが心配してたとか…その…連絡が来てたのを…別に…その…偶然聞いたから…さ、探しに来てやっただけだし…別に…し、心配なんかしてないし…その…』
と、分かりやすく嘘過ぎる長台詞を辿々しくも、ヴァインは口にした。
『…』
アンネは正直、それどころではなかった。
ヴァインが来たことにより、助かったと言う安堵でそれどころではなく、今にも泣き出しそうになってしまったのだ。
『うぁっ…あ、ご、ご免な…
え、えぇと…と、飛び降りてこい
受け止めるから』
長ったらしい弁解をしている場合ではなかったとふと我に返り、ヴァインは大きく手を広げてそう言った。
実際、この世界ともあれば、アンネ一人で飛び降りようが、ちょっとダメージを受ける程度で死にはしないし、骨折なんてこともない。
だが、気持ちの問題と言うものはそんな理屈めいたものではなく…
『うん、分かった…っ!』
と、アンネがヴァイン目掛けて飛び降りる位の問題なのである。
そして…
『っ…軽いな…って、そうじゃなくて…大丈夫か?怪我とかないか?』
と、受け止める程度には、ヴァインの心配も、気持ちの問題だったのである。
『大丈…っ…』
すると、突然アンネが顔を赤くした。
『アンネ…もしかして…風邪か?
え?この世界にも風邪があるのか?
というか大丈夫か?おい?て…っ』
そこでやっとヴァインも意味を理解して顔を真っ赤にした。
要するに、二人は抱き締めあって顔を近付けている状態なのである。
(っぁ…う…超絶至近距離すぎて耐えらんない…)
(顔…近いしハグしちゃってるよこれ…うぅ…)
互いに同じような理由で顔を更に赤くさせる。
『と、と、ととと、とりあえずけっがはないっんだよなぁ!!』
『う、うんだいじょっぶ!』
互いに変なところで噛んだり、っを入れたりと、慌ててしまう。
『な、ならっと、取り敢えずギルドハウス向かうぞっ
つ、連れてくっ』
『あ、ありがと…う』
そして、そのまま夜月の元へと向かい、夜月のギルドの男達に、どうせ二人で話し込んでて遅れたんだろだのなんだのといじられ、かといって木に登って降りれなかったなんて恥ずかしい事をアンネが口にすることも出来なければ、アンネにギルドに向かう道中口止めされたヴァインにも言えるわけもなく、そのままひたすらいじられるのであった…




