第13話・もう一つの朝と、The world still unseen-指輪の鑑定の開始-
俺は、ヴァインがアンネの世話をしている事を知り、敢えて二人にしておこうと思い、一人で足早に自室へと向かった。
『キィィィー…』
古い木製のドアを俺が押すと、それらしい音をたてて開く。
『キィィィー…バタン…』
俺は無言で後ろ手にドアを閉めつつ、自分のベッドを見た。
(此処に…あいつと一緒に寝てたんだよな…)
すると、急激に顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。
同時に、顔が真っ赤に成っている事も。
(こんな所、誰にも見せられねぇ…)
そう思い、俺は、本棚に敷き詰められた、本に集中する事にしたのだった…
そんな事も知らない、彼の顔が真っ赤に成った原因の張本人のスカーレットは、飛竜の部屋のドアをノックしてから『入るぞ』と、ドアを開く。
『…て、うわっ!?い、いつの間に居たんだ…?』
珍しく彼は慌てた様子だった。
『いや、さっきドアをノックして声をかけたのだが…あぁ、その本に集中していたのか』
と、私は、彼の机の上の本に目をやる。
『あ、や、まぁ…そ、そうだ…』
彼は挙動不審だったが、疑うような事はしない。
(きっと何か有ったが、言う程の事では無かったのだろう…
それに気付いていないふりをして、話したくなるまで待つのも、ギルドマスターの仕事だな…)
と、考え、私は気付いていない事にした。
そんな私が、彼の本心を知るのはまだ先の話…
『そう言えば、どうして此処に来たんだ?…』
俺は、タイミングの悪い登場をしてきた彼女の視線の先や考えをどうにか別の方向に向かせようと、話をそらす。
『あぁ、ヴァインがアンネ用の朝ごはんを作る時に、ついでに皆の分もまとめて作ってくれたから、一緒に食べようと思って、呼びに来た』
内容はやはりまっとうな物で、邪な事を考えていた数分前の自分を葬り去りたくなる。
しかし、そんな事を考えている場合ではない。
もしかしたらエリーゼ等の他の奴とも約束をしているかも知れないし、スカーレット自身を待たせるのもよくない。
『あぁ、じゃあ、一緒にリビングへ向かおう』
そう言って、俺は腰掛けていた椅子から、立ち上がったのだった…
とある重要とはまだ気付いていない本をしまいながら…
時は遡り、スカーレットと飛竜が二人っきりでギルドハウスに居た時に、ヴァインが到着し、飛竜がヴァインに、指輪の鑑定について伝えようとしていた頃…
『指輪?ですか?』
俺は、飛竜さんに左手の薬指にはめられた、黒い指輪を見せられた。
『これを…鑑定して欲しいんだ…後…これと対になっているらしい…スカーレット…のやつも…』
そう言われて、スカーレットさんの方を見ると、その左手の薬指には、飛竜さんの指輪と宝石の色だけが違う様な物がはめられていた。
『なんだか、結婚指輪みたいですね』
俺は、何の気なしにそう言ってしまって、はっとした。
恐る恐る飛竜さんの顔を見ると、やはり、真っ赤になっていた。
なので、慌てて…
『な、なんでもないですよ!!
と、とにかく!鑑定してみます!!』
と、訂正と承諾を口にするのだった…
しかし、鑑定というものも、時間がかかったりするのだ。
レアだったり、曰く付きともなれば、鑑定の時間は数秒や数分そこらじゃ終わらず、何時間とかかってしまう。
しかし、この世界に来て、試しに自分の能力が使えるのか試してみたかった俺は、初仕事としては重大だ!だとか、ちょっと心を弾ませつつも、飛竜さんの指輪を鑑定することにしたのだった…




