第12話・幼き彼と幼き少女の最善かつ幸せな朝
俺は憧れる飛竜さんにアンネを助けてきた事を告げられた。
事情を聞いた俺は、奴隷として扱われて、過剰な労働をさせられていたと言うアンネが心配になり、アンネが寝ていると言う客間へと向かった。
すると…
アンネは安心しきったような、疲れきったような、何とも言えない顔をして、客用のベッドで寝ていた。
『…大丈夫そうだな』
アンネは俺には想像できない程の怖く、辛い思いを沢山していた。
奴隷のように雑用を沢山させられていたらしい。
アンネがそんな事に成っていたとも知らずに呑気に此処で過ごして居た自分を叱りたかったが、同時に飛竜さんの言葉がよぎった。
『俺はとある人にまだゲームだった頃に、『自分にしか出来ない最善を尽くせ』と、言われた。…
だから…
いや、言わなくてもヴァインなら、分かるな?…
行ってこい』
いつもと違って、行ってこいの声だけ少しは強かった。
その言葉に俺は、気付いた。
(俺の今するべき…俺だけの最善は…)
そこで、直ぐに気付いてアンネの元へと俺は駆け出した。
(俺の…俺だけの最善は…!
アンネを元気付けたり看病する事だ!!)
幼き彼も…ヴァインも最善へと走り出したのだった…
『ん…んん…ふぁ~…ん?』
『…』
目が覚めると、視界に入ったのはヴァインだった。
(そっか…私…奴隷だったのが…助けられて…寝て…)
ヴァインは私の居るベッドに顔と腕だけを置いて、椅子に座って寝ていた。
どうやら遅くまで看病やらなんやらしてくれたらしい。
思わず嬉しさに顔がにやける。
(こんな…幸せな朝は久しぶりだなぁ…)
と、寝ぼけて回らない頭でぼーっと思う。
すると…
『ん…んん…ん?…あ、起きたのか…あ、俺、いつの間に寝て…?…』
彼がそう言いながら私の方を寝惚けた瞳で見てきた。
『何か、夜中まで起きて此処で看病してくれてたのかな?
ありがとう』
私は礼を言う。
すると、ヴァインが急に顔を真っ赤にして…
『は?別に…そんな…』
と、顔を背けた。
もしかして…
いや、この先は言わないでおこう。
こんな幸せな朝に優しくしてくれたヴァインを困らせたくはない。
でも、その言わなかった先の事実が少し嬉しくて…
『ふふっ…ねぇ、朝ごはん一緒に食べたい』
と、笑顔で言ってしまう。
『っ!?…あ、あぁ!朝ごはんだな!と、取ってくる!だから、まっ!待ってろ!』
ヴァインは顔をさっきより真っ赤にして、この部屋を後にした。
いや、顔だけではなく耳や首まで真っ赤だった気もする。
『ふふっ…可愛い…』
この一言の呟きは、幸せな朝と私の秘密。
『ほら、持ってきたぞ』
俺はやっと落ち着いた心臓が又バクバクと音をたてるんじゃないかと軽く心配しながらも、アンネにシチューを渡す。
『自分で食べられそうか?』
『うん!』
そういう彼女の笑顔に又心臓が音を鳴らしそうなのを必死に堪えながら、俺はアンネの食べているシチューと同じ物を、アンネの居るベッドの隣に置いた、木製の椅子に座って、一緒に食べる。
『シチュー、凄く美味しい!』
彼女は、奴隷として扱われていた帰還、ろくにご飯を食べていなかったらしい。
だから、久しぶりのマトモなご飯に、感動しているのだろう。
『なら、良かった。作ったかいがある』
俺は、そっと一言返すと、その言葉に彼女は驚いたようで、
『え、これ、ヴァインが作ったの!?』
と、聞いてくる。
『あぁ、そうだ。それは俺が作った』
ちょっと褒められ、自慢気に見えるような顔を自分でもしている気がしてきたが、まぁ、良いか…
(アンネ、こんなに安心しきってるみたいだし…)
精神的にも回復してきたんだなと、自分までも安心してくる。
『夜月さんが来るまで俺、此処に居るから』
その言葉にはどれ程の優しさが詰め込まれているのだろうか?
その優しさに何度も助けられてきた…
その時、私が笑顔に成った理由も秘密にする事にしたのだった…
ーその後の二人ー
『ねぇ、やっぱり私、手が痛いなぁ
ねぇ、あーんしてよ
あーん』
本当はさほど手が痛くないが、ちょっと意地悪をしてみたくなったアンネが、ヴァインに意地悪なおねだりをする。
『っ…わ、分かったよ、や、やればいいんだろっ』
ヴァインは照れながらも、手が痛いなら仕方無いと、諦めてあーんをやると宣言した。
『えっ』
しかし、アンネはてっきり
『お前なぁ…ひ、人をいじるのもいい加減にしろよっ!?
さっきまで自分で食べてただろ!!』
とかなんとか、顔を真っ赤にさせながら、怒ってくるかと思っていたので、思わず、びっくりしてしまう。
『ほ、ほら、は、早く口開けろっ』
ヴァインが、顔だけではなく耳や首まで…いや、更には手まで真っ赤にさせながら、そう言う。
『あ、あーん…』
アンネもアンネで、意地悪をしていた時の余裕など無く、少し頬を赤らめて口を開けた。
『んっ』
すると、程無くして、ヴァインがアンネの口の中に、シチューの入ったスプーンを入れる。
『お、美味しいけど…や、やっぱり自分で食べるっ』
と、アンネは耐えきれないと言わんばかりに、自分で黙々と食べるのであった…




