第10話・見送られる者、見送る者。
アンネ帰還作戦の内容は、意外と簡単な物だった。
なるべく隠密に助けるために私はアキバに残って、シストラスティー村には飛竜とエリーゼが向かう事に成った。
ミミはまだ見習いなので、ミミにだけ事情を説明して、私と一緒にアキバに残る事にした。
他の皆には事が終わるまでは、“情報収集の為の数日間の旅”と言う事にした。
こうして、
アンネ帰還作戦は始まったのだった…
『特にプレイヤーには気を付けて行けよ』
『あぁ…』
私が飛竜にそう言うと彼は真剣な表情で反応した。
『じゃあ、ミミの事宜しくねー』と、他のギルドメンバーにバレないよう、小声でエリーゼが私に言う。
『あぁ、安心しろ』
と、私は笑顔で反応する。
どんなプレイヤーが居るかも分からない場所に行くのに、私の心配そうな顔で、更に不安にさせたくはなかった。
そもそも、心配なんてこれっぽっちもしていない。
だって…
私は飛竜とエリーゼを信頼しているから。
こうして、彼らはシストラスティー村へと向かった…
『で、では…今日から数日間…よっ…宜しくお願いします…』
ミミはたどたどしく私にそう言う。
『そう、緊張するな。
私達は同じパーティーだ。
気楽に行け。
今、緊張するべきなのはあっちだ』と、言いながら私は飛竜とエリーゼの小さな影を見つめた。
『そ…そうですね…ありがとうございます…』
と、ミミは少しばかり緊張がとけたのか微笑んだ。
『私達は彼らじゃない…
私達は私達に出来る最善を尽くそう。
それは…
自分達で今から考える課題だ』
私は独り言かのように遠くを見つめながら、ミミにそう言ったのだった…
俺…飛竜は少しだけ寂しく感じた。
(幼いな…)と、俺は心の中でため息をつく。
彼女…スカーレットは大人び過ぎている時がたまにある。
まるで人を寄せ付けないようなオーラ。
あれは俺には一生出せない事を確信していた。
やはり、ギルドマスターとして認められる人間とその補佐では話が違うのだろう。
でも、彼女ならこんな時、こう思うと俺は思った。
(自分に出来る事だけに専念しろ。
それが自分に出来る最善だ。
他の人が出来るけど、自分に出来ない事が有って当たり前だ。
それが人間だ。
人間は補い合えれば最強になる)
彼女は強い。
彼女の背中は誰よりも逞しい。
心強い。
だからこそ、彼女に頼ってもらえるのなら、寂しがられなかろうが、自分が寂しかろうが、自分の出来る事に専念しようじゃないか。
それこそが彼女に求められた俺だけの…
(最善なんだ)
彼の顔は一瞬にして逞しく変わっていた。
それは彼女の力ではない。
彼自身の力だった。
彼は進む。
自分の考える求められた最善へと向かって。
その背中をエリーゼは追いかけた。
(成長したわね…)
なんて、心の中で呟きながら…




